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【夢日記】痴話喧嘩

夜。ぼくは飲み屋が軒を連ねる繁華街を歩き回っている。新宿でも渋谷でもないが、何だか見慣れた街並みだ。もう一杯やりたいが、明かりは点いているもののどこもシャッターが閉まっている。この時間だから、もうどこもやっていないのだろう。

通りのそこかしこに長椅子やテーブルが積み上げられてバリケードのようになっており、通ることができない。これも当然でやむを得ないことだと思ったけれども、どうしてそこにバリケードがあるのが当然だと思ったのか、いまとなってはぼくにもまったくよくわからない。

通りにはだれも人っ子ひとりいやしなかったのだが、そのとき、目の前に男女ふたり連れがいるのが見えた。

女は酔っているのか、外に出された小さな丸テーブルに突っ伏して嗚咽を漏らしている。足元には、彼女のものであろう吐瀉物が小さな丸い形をつくっていたので、ぼくは顔をしかめて目をそらした。男はああだ、こうだ、と女をなだめすかしている気色である。

「…だから云ったのに。納豆にシャンプーを入れるなんてありえないよ」
「そんなこと云ったってさあ。好みはひとそれぞれだろ」

ぐすぐすと鼻を鳴らしながら、女が涙のたまった目を上げる。ぼくはゆっくりと通りがかるだけのふりをして、男女のようすをうかがっていた。

「あなたの電車は女満別めまんべつまで行くんでしょう。私は三鷹まで帰るんだから、もう無理」
「何だよ、別れたいのか」
「そうじゃないけど。三鷹と女満別だと全然方向ちがうじゃない」

それはそうだ、とぼくは思った。しかし男はそう思わないらしく、

「大丈夫だよ。もうちょっとで単位は全部取れるんだから、飛行機に乗れば大丈夫だって」
「…うん」
「ところでさ…」
「…うん」
「おっさん、さっきから何でおれたちの方を見てるんだよ」

気がつくと男女がふたりともこちらを見ており、しっかりと目が合った。その目は、まるでヤギのように、四角っぽい瞳孔が横向きになっていた。

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「あッ…!」と云って、気がつくと、コタツのなかだった。


夜な夜な文字の海に漕ぎ出すための船賃に活用させていただきます。そしてきっと船旅で得たものを、またここにご披露いたしましょう。