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【夢日記】警報

けたたましい警報音。

寺の堂内にはたくさんの仏像が並んでいる。高価な仏具を狙っての犯行なのか、何者かが堂内に闖入して警報装置に引っかかったものであるらしい。頭こそ丸めているものの、僧籍にあるとはチョット思われないような、黄色い僧服をまとった明らかに筋骨隆々の僧侶らしき男たちがわらわらと集まってくる。少林寺とか、武道を修行の一部にしているような宗派なのだろうか。

ぼくは寺の外に集まった野次馬に加わって騒ぎを観察している。事件の内幕を、実のところぼくだけは密かに把握していた。何のことはない、娘に云って忍び込ませたのである。警報は作動したものの、僧侶たちが侵入者を捕縛したようすはない。娘は無事なのだろう。ぼくは通信機で以て娘に連絡を取ることにした。

…はてな。

娘は死んだのではなかったか。数年前にお葬式を出して。小さな棺を、妻と一緒になって泣きながら見送ったではないか。ぼくにはもう娘などいない。とにかく通信機に信号を送ってみる。応答は返ってこない。当然だ、娘はもうとうに死んだのだから。否、それならば、この警報はいったいだれに作動したのか。ぼくには判然としなかった。そのころ、屈強な僧侶たちが堂内をひととおり点検し終わって、「誰もいない」というようなことを口々に云い合っているのが聞こえてきた。

野次馬と思っていたのは、学園祭の人混みだったらしい。

まわりの若者たちはちゃんと皆揃いの学生服を着ている。してみると、ここは仏教系の高校かなにかなのだろうか。何百人、否、何千人とさえ見える人混みでごった返している。ぼくは娘の死を思い、いつまでもくよくよと反省していた。

……。

なにかが可怪しい。ぼくは薄暗い寝室に寝息を聴いた。寝息を? ぼくの両隣に寝ているこいつらは誰だ。それはもちろんぼくの娘たちだった。なにが葬式だ。二人ともちゃんと生きている。葬式なぞいつ出したか。そもそも、この疫病の蔓延するご時世に何千人も集める学園祭なんかできるものか。否、それ以前に、あれはいったいどこの高校か。職場であんな制服は見たこともない!

ぐるぐると疑問が渦巻く。渦巻くのと同時に、何だか後味の悪い夢がしゅるしゅると音を立ててほどけていく。

まったく休まらない休日が終わった、翌日の朝である。天気も、モウひとつぱっとしない。

夜な夜な文字の海に漕ぎ出すための船賃に活用させていただきます。そしてきっと船旅で得たものを、またここにご披露いたしましょう。