見出し画像

【夢日記】黄色い印を見つけたか

ぼくは地形かなにかのジオラマを見ている。

目の前にはミニチュアの山河が広がっており、その地下の断面までぼくは見ることができる。そのまた小さな大自然は、硝子ケースのなかにあって、不自然に鮮やかな彩色も相まって、却って干からびた標本のような印象をぼくに与えている。

仔細に観察してみると、それはドウモ火山活動について図解する展示のようだった。「嗚呼、むかしコンナノを理科の資料集かなにかで見たな」とぼくは感じる。

さらに歩を進めると、今度は硝子ケースに入った幾らかの動物の骨が視界に這入り、その上には古代の翼竜みたような動物の模型が吊ってある。何処から見ても翼竜の癖に、表示には「ラムサール条約で保護を約定せられたる水鳥」なぞと大書してある。

きょうはこのあたりで「嗚呼、これはもしかして夢かしらん」と疑い出す。

奥の方では鼠色のつなぎを着た作業員らしい男が二人、脚立に昇ってなにか作業をしている。なにが楽しいのか、無闇に快活な表情をしているのが気味悪い。

フト、ぼくは猛烈に便意を催してくる。

昭和を感じる古めかしい博物館に、ぼくは慌てて便所を探し求める。それらしいのがあったから、ドアーを開けてなかに入るも、其処は随分と奇妙な個室である。

普通の便所の個室と同様、少し上に隙間の空いた木の板で外と仕切られているものの、奇態に広い。四畳半くらいあるのではないか。しかも大便器が二つ置かれてある。一方は何ともないのだが、モウ一方はひどく汚い。蓋は無く、得体の知れない黒っぽい汚れが点々とへばりついていて、よせば良いのに中身を覗くと水洗式の便器に溜まった水はこれまた何だかわからない汚れで淀んでいる。

ぼくはドウシテモここから早く出なければならぬと感じて、大急ぎで用便を済ませる。悪臭がするが、隣の汚い便器から来るものなのか、自分の汚物の所為なのかは判然としない。

便所から出て、廊下を歩いていくと、向こうから初老の警備員が歩いて来るのが見える。

白髪交じりのずんぐりとした警備員は、懐中電灯を持って面倒くさそうにあれこれと点検をしながら進んでくる。無味乾燥に点検を進める様は、ドウモこの世のあれこれにすっかり関心が無くなってでもいるかのようだ。

もうすぐ擦れ違うと云うところで、警備員がなにか忘れ物でも思い出したような調子でぼくの方に振り向いて、「あれ、見つけた?」と訊いてくる。何のことやらわからないし、そもそもぼくに話しかけているかも判然しないので、曖昧な微笑を浮かべて様子を伺っていると、重ねて「ホラ、黄色い印。黄色い印、見つけたか」と真顔で繰り返す。

― 「黄色い印」はなにを意味するのか。

その刹那、ぼくはなにもかもを了解して「すみません。すみません」と大声に叫びながら、全速力で逃げるしかなかった。

……。

…と思ったら、毛布を被ってソファに寝ていた。布団で眠れば良いものを。いつのまにか約二週間ぶりの休みは、手のひらに落ちてきた雪のように融けてなくなっている。

「黄色い印」については、そのときは何だかすべてわかったような気がしたものの、いまとなってはなにがそんなに「すまない」ものだったのか、皆目見当もつかない。

夜な夜な文字の海に漕ぎ出すための船賃に活用させていただきます。そしてきっと船旅で得たものを、またここにご披露いたしましょう。