十億年後の地球の生物を真面目に考えてみた。なのだ!

 地球温暖化や海洋資源の枯渇について読者の皆さんはどんな考えをお持ちだろうか。良くないとか、でもちょっと仕方ないみたいな感情がほとんどだろう。

 ただ、少し見方を変えてみるとこうも見えてこないだろうか。地球という生命が誕生してから46億年、地表はさまざまな姿に変化してきた。初めは溶岩のようなエネルギーの集合体が段々と冷えてゆき──おっと、全球凍結はやりすぎた。このまま少しづつ温度を上げていって──と指を操っている大きな存在の証明だ。

 気が付かないだろうか。地球がより丁度良い温度──誰だって冷えたチキンは温めるし、温いコーラは嫌だろう? 氷を入れるべきだ──になるまで調整しているということに。

 そしてその観点から見ると『種の保存』は人間のエゴであると同時に無駄な事だと思えてこないだろうか。オーストラリアのグレートバリアリーフには、色を失った珊瑚の死体に映えるカクレクマノミが見られる。白い珊瑚にオレンジ色と黒の魚がちらちらとしている姿は幻想的だが、海上を飛ぶ鳥にはまるで信号のように存在感を醸し出している。このままでは鳥に食われて絶滅するが、あるいは奇跡が起こればそうとは限らない。体色が珊瑚と同じ白い保護色になれば隠れんぼを再開出来るし、派手な警告色を利用して毒を持つのも良い。保護してくれる人間のそばで家畜化しても種は存続するだろう。絶滅するか、進化するか。いつだって地球はこの選択を繰り返してきた。まるで生命が優秀な遺伝子を選別するかのように。

 まさに「神の見えざる手」によって創造されているこれらは地球の「作品」ともいえよう。完璧な生態で連鎖を支えてきた彼らは去り際も美しい。派手で美しい模様を持った珊瑚とカクレクマノミは色を剥奪される。誕生から絶滅までをひとつの芸術作品だと考えれば、どこかバンクシー的な皮肉っぽい芸術性を感じないだろうか。

 海洋資源の枯渇──このまま昆布の森が減り、ウニが増え続けたら、コブダイの仲間は長くて太い嘴とウニの中身を巻き取るように進化した舌を持つ小柄なエイに進化するはずだ。乱獲による昆布の減少による硬くて尖ったウニを食べるコブダイの個体数の減少、そしてそれにかまわず昆布を食い荒らすウニ──。コブダイでは生態系を保てなくなった魚はどうするか──進化するしかない。どの種よりも早く──ウニの棘をものともしないくちばしを、外敵から身を守る薄くしなやかかつ砂地に溶けるような保護色の身体を入手するよう進化することができれば、海底に広がる海のウイルスがごちそうに変わる。低空飛行する海の怪鳥は爆発的に種類を増やすだろう。

 このように地球は人間など計算のうちかのように大きな存在の手によって壊され、作られてゆくのである。事実、全球が凍結しても命のリレーは続いて来たのだ。核燃料の投棄やホッキョクグマがなんだというのだ。ここまで言い切ってしまっても良いくらい、歴史は語っている。どうか怒らないで読んでいっていただきたい。決して皮肉でもなんでもないが、実際に猫や犬、カラスなどは他の鳥類と比べて脳が発達していないだろうか? 野生の犬がお手をするだろうか。
 そしてもし、世界がそのように動いているとしたら『十億年後の地球』はどうなっているだろうか。

 その時──人間を含めた全生物は完璧に地球の一部となっていた。進化と絶滅を何度も繰り返した結果生まれたある巨大生物により、地球の生物の意識はひとつにまとめられていた。

 とある砂漠奥で咲く花。乾いてひび割れた肉のようなそれは花ではなく、鼻だった。象のような鼻を砂から長く突き出した、体内にラクダのような水を溜める器官を持つ、サバクヌシだ。訳9メートルという巨体が地下数十メートルに渡って潜っていても砂に潰されないのは、体重が10トンと軽く、砂の重力に負けないべくして強力に進化した外皮のためである。その外皮と空気圧で体内の七割を占めるほどの水とガスを溜める巨大な肺のような臓器を支えている。

 彼らは菌床をばら撒くために砂上に姿を現す時以外、生涯の全てを砂漠の地下深くで暮らす。不明の生き物に寄生した菌類が祖先とされている。

 雌雄同体の卵生で、親の残した卵黄は12000Calと超高エネルギーだが、サバクヌシの幼体はそれを吸い切るのに3日とかからない。とにかく地下水を汲み上げる砂を除去するフィルター付きのホースと鼻を伸ばし、”開鼻”への準備を終わらせなければならない。サバクヌシの幼体の成長スピード(鼻の部分)は1日最大3mを超えると言われている。
  
 5〜6日後、亜成体になると強烈に臭い鼻を開いて一度だけ呼吸するが、それ以降は5年に1回条件が揃えば開く。初回の呼吸では母が地表に仕込んだ菌類と砂を大量に吸い込んだだけで終わる。音の発生は今までに観測されていない。

 なお、サバクヌシ幼体の生態はスリランカ帝国よりダラーワスーパーコンピュータ、そのほかの計算は同国、ダプラスーパーコンピュータが使用された。

 条件が整った開鼻では、長い鼻と大きな肺を使い、共生関係にあるシリアンデザートイーグルの雛の鳴き真似をする。大きな農園には大陸中のデザートイーグルが集まり、サバクヌシの鼻にトカゲや小型のサバクガニを給餌するようにぼとぼとと落とし始めるが、サバクヌシの驚くべきところはこれを食べるわけではないところにある。

 脈々と地下水を汲み上げ、照りつける太陽に砂で蒸されたタンクの中は小動物の死骸から発生したガスと地下水でいっぱいで、次に鼻が開くときには完全に腐り切った小動物の死骸と凄まじい臭い、そして大量の菌類の胞子が飛び出す。それを3000km彼方から食べに来るアフリカアホウドリを地下数キロから地表近くまで伸ばした棘から出す電気で筋肉を麻痺させて落とし、鼻の皮膚で芋虫のように覆って吸収するためである。その際の電気は再生可能エネルギーとして使われており、中央アジアのほとんどの電気はサバクヌシの発電のみで補われている。

 また、サバクヌシの寿命は最大550年と言われているが、ほとんどの個体が108回の開鼻を終えた後、腹の下に卵を産み、菌床を次の世代へ託すべく砂上に姿を現す。その頃には近くに産卵していたシリアオオワシの雛が孵り、産まれてすぐに生きたご馳走と大量の水にありつけるというわけだ。菌床を除いて全てを食い尽くしたシリアンデザートイーグルは新しいヒナの声のする方へ翼を広げる。

 しかし、サバクヌシ自身の臭いもさることながら、食べることが出来る範囲外に落ちて腐ったアホウドリの死体の衛生問題や(デザートイーグルはプライドが高いため、腐った獲物は食べない上、高温の砂漠の微生物は砂に還元することが出来ない)高すぎる気温などによる環境の悪さにより人が立ち入れる場所はほとんどない。
 時折、シリア伝統宗教の信徒が砂漠の寺に訪れる。彼らは一生に一度、サバクヌシの電気を直に浴びることにより修行している少数部族のような宗派で、サバクヌシの電撃によって次元的なアセンションを果たし、啓治を得ることが目的である。なお、これらの行動は全て科学的事実によって否定されている。サバクヌシを崇拝する中央アジアの一部民族を除き、地球の宗教人口のほとんどはケクジラにある。

 ケクジラの番は300年かけてアメリカ大陸に沿うように外洋を一周する。二個体とも全長は6kmに及び、オスはカリフォルニアのサンタモニカを北上、メスは南下する「動線」がある。150年に一度ケクジラが交差する地点には彼らを崇める多くの生物がやってくる。彼らは6000年に一度幼体を一体産み、死亡する。その際死体に寄り付く生物は普段より大変さまざまな種類で数も多く戦場となるため、人類が死体のサンプルを採取しようとする試みは一度も成功していない。
 ケクジラは銀色に光る、深く青い毛並みでゆっくりとプランクトンを絡めとるように遊泳しており、その毛並みの中には多くの生物が生息している。ケクジラの毛に擬態したケクジラムシは雑食で、セイウチなどの大型海獣類すら触手で絡め取って食べる。なお、ケクジラ自身は無数に枝分かれした極細毛でプランクトンやオキアミ、イワシなどを肌に無数に並んだ毛穴のような口に運んで食べていることが確認されている。

 また、完璧な球体の体内にはさまざまな臓器──後述の浸透圧の関係により不可視化されているが──があり、肺呼吸であることがわかっている。水面に浮かぶ境界の一点が肛門で、そこから反対側の皮膚に繁殖器が付いている。巨大な体に効率的に酸素を供給するため、ケクジラは肛門と生殖器を軸にして回転しながら泳ぐ。共依存する生物も多種多様に及ぶため、移動する豊富な栄養体として、そして回転運動によって海への酸素の供給を続ける肺や心臓のような役割で海のバランスを保ち続けている。

 ケクジラの毛並みは多数の段階を踏む儀式的な洗浄などの処理が必要だが、非常に美しい上、乾燥させた皮膚──ケクジラの皮膚は海水の浸透圧とほとんど同じなため、巨体でも一体につき残るものはごく僅かな結晶(1グラム程度)である。砕いたそれを粘膜に擦り込むと中脳の腹側被蓋野、及び線条体の側坐核──いずれも脳内の報酬系と呼ばれる部分を溶かしてしまう麻薬とされているため、現在そのほとんどは主にスリランカを中心に厳重に管理されている。

 なお、ケクジラの皮膚は傷口に向かって細胞が吸収されるように乾燥してゆくため、非常に凝縮された形になる。通常はこれをナノマシン等で小さく削り(致死量が極めて低いため)純度の高いコカインやDMTクリスタルにほんの微量混ぜてスニッフする。特にコカインと混ざったものはホエール・コカインと呼ばれ、スリランカ帝国カルムナイ区内を限定として儀式目的での使用のみ非犯罪化されている。

 かつては大平洋からインド洋、大西洋をぐるっと回り、ロシアのデジニョフ岬を通過して帰ってくる、今の番よりさらに大きなケクジラの番も存在していたとされている。地球でもっとも大きい生物だったケクジラの最大種は古来の人間によって討伐され、その際に入手した毛はスリランカの伝統的な衣装や家の装飾に今でも使用されている。
 余談ではあるが、スリランカ沖遠洋とは真逆に位置する、もう一つのケクジラの交差点であるロシアの北極海付近では、何度も祭りのような戦いを挑んではケクジラ、及びケクジラを取り巻く生態系に敗れたという記録が残っている。

 なお、乾燥させた皮膚の総量は3.12グラム程度と記録されている。天体が生命体であり、中心のマントルで人間がものを考えているときと同じ、つまり脳波と極めて似たものを発していることを発見した報酬としてスリランカの村長からアメリカの数学者である【ピーター・ペーテル】にこれら全てが献上されている。

 星の脳波が1.5グラム程度の結晶DMT──強力な幻覚を催す原子で魂の分子とも呼ばれており、死の瞬間に松果体という脳の領域から大量に分泌されるものと同じ──を投与した人間の脳波とほとんど同じ波形を表すことを証明する数式を発表し、世界中に認められたからだ。

 数学者と同時に薬物中毒でもあった彼はホエール・コカインを含めたありとあらゆるドラッグを使ったホームパーティーを三週間連続で開催した。なお、このパーティでは報酬金の240%が使用された記録が残っている。

「人生で一番楽しかった時間は彼のパーティーだったけど、どこか葬式のようにも思えたよ。そう考えると、人生で一番楽しかった葬式だ」

 古いインタビューのジョークは今でも新聞の見出しに引用されるほど使い古されている文章だ。元は彼の友人のインドの数学者である【スティラマティ・パラマールタ】のインタビューでのひとことだが、今でも若者の間でSNSなどで流行っている。

 パーティを終え、三週間たった最後の日、ピーターはひとりでケクジラの獲れた聖地である漁港へ行き、打ち付けられたまな板にケクジラの皮膚粉末そのままを1.5グラム分正確に量り、線にして整え、それを鼻から全て吸って自殺したとされる。なお、いまでもスリランカのカルムナイ区の大港にはその際に引いたラインの長さと同じだけ刃物の傷で線が引かれており、結晶DMTやホエール・コカインでその下に1.5グラム分のラインを引き、それをスニッフする動画の投稿が信者によってSNSに投稿される。ハッシュタグは"#BetoTheUniverse(宇宙のご意向)、#BtTUなどがある。

 なお、ピーターに残された1.59グラムの内訳は、現在スリランカのカルムナイ区長が80%近く(1.25グラム)を所持しており、残りの13%を南北アメリカ合衆国が、6%をユーラシア帝国が所持している。残りの1%に満たない部分は個人や組織の間で現在でも取引されている。

 区長は1.5グラム丁度をカルムナイの大港で傷のラインの長さに合わせて吸うまで保管する確固たる意思を持っており、南北アメリカ合衆国を含む他の国々に潜むスパイから少しづつ輸出させている。なお、1%に満たないケクジラの皮膚はスリランカでは個人間で楽しむものであれば使用と売買においては合法とされているものの、若者の乱用や偽物の蔓延などが問題視されている。

 また、南北アメリカ合衆国が最後のケクジラを殺すのはもう少し後のことである。スリランカで討伐された個体は交尾の最中に絶命したとされているが、詳しい内容は解析出来ていない。もうじき戦争の火蓋が切られるということは、254年後のケクジラ繁殖予定地である──サンタモニカ・ビーチの物騒な様子を見れば明らかである。どちらにとっても6000年に1度のチャンスだ。大きな存在の調節の一つ、大戦争が始まろうとしている。
 人間は、生物はいつまでも変わらない。それが地球の意思である以上。

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