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【第2章】会社は新入社員に何を望んでいるか

1.会社の目的、社長の方針

あなたが、この会社や工場に入ってきて、先輩たちが、忙しそうに立ち働いている姿を見たとき、自分には何ができるのだろう。と、おどろいていることでしょう。
事務関係の仕事では、たくさんの書類をかかえている。上司からは、次々と命令を受けている。取引先からは、ジャンジャン電話やメールが入ってくる。そのうえ、おぼえきれないほどの商品やサービスの山、なんと、目がまわるような職場でしょう。
工場関係の仕事では、大きな、うなりをたてている機械をあつかう仕事。拡大鏡をのぞきながら、やっている精密な仕事。一秒も目をはなせないベルト・コンベアで流れてくる作業など……。
いったい何から、どのようにおぼえていったらよいのかと、とまどっていることと思います。
しかし、少しも心配はいりません。先輩たちも、初めは、あなたと、同じ気持ちであったのです。

そこで、仕事をおぼえる前に、まず、はっきりつかまなければならないのは、会社の目的です。
この会社は、どんな目的をもっているのか。それは、会社や工場によって、それぞれちがっています。
たとえば、 同じ電車や飛行機に乗っている人のことを、考えてごらんなさい。 かならず、一人一人が、なんのために、電車や飛行機に乗っているのか、目的もなく乗っている人は、いないでしょう。
ある人は、観光という目的。ある人は、商用。また、ある人は、就職という目的をもっているでしょう。このように、それぞれが、はっきりした目的をもっているので、旅行についての準備も、心がけもできるようなものです。
会社は新入社員に何を望んでいるか。
あなたが、会社の目的を一日でも、早くつかんだだけ、仕事になれることになります。
次に、知っておかなければならないのは、社長の方針です。社長の方針も、それぞれ、ちがっています。
会社や工場の目的を達成するために、どのような方向に、どのような方法ですすめていくか、ということです。
方針ということを、旅行者にたとえてみたら、目的は、観光ときまったとします。その場合の行先、日程、費用などに相当するのです。行先、日程、費用がはっきりきまっていたら服装も、持ち物も、それにしたがって、準備ができることでしょう。
社長の方針は、社是とか、社訓というかたちで、いつまでも変らないものから、月間、週間に区切をつけたものがあります。
しっかりと、心にきざみこんで、働いてもらいたいものです。

2.社風と職場環境にとけこむ

社風を身につけて、職場環境に、とけこんでもらいたいことです。
会社や工場には、創業以来しみこんでいる社風というものがあります。
社風とは、一口に説明することは、むずかしいのですが、学校では校風といって、同じ市内にある学校でも、その学校のなりたちや職境などのちがいから、たいへん厳格な空気が、ただよっていたり、わりあいに自由な感じが、ただよっているところがあります。
会社や工場も、その会社や工場のなりたちや、仕事の性質によって、しぜんに、できたもので、あなたも、銀行などのように、金銭を扱っているところと、商品の販売をしている店とは、入ったときの感じ、社員たちの態度がはっきりちがっていることを、見分けることが、できると思います。
また、少しなれてくると、銀行によって、商店によって、ちがったものを感ずることができます。
これが、社風なのです。
社風の中には、民主的なもの、封建的なものなど、考え方や態度についても、ちがいがあります。
が、とくに、言葉づかい、服装、礼儀にも、それぞれのタイプとなって、あらわれています。
あなたの会社には、あなたの会社だけがもっている、独特の社風があるのです。社風はながく働いていると、しぜんに身についてくるものですが、自分からすすんで、社風をみつけだして、一日も早く、とけこんで、もらいたいものです。
次は、職場環境に、なれてもらいたいことです。はじめて、事務の仕事につく人の中には、電話の音が鳴ると、おそろしくて、からだがふるえたという人が、おおぜいいます。
なれてくると、なんでもないことなのですが、電話1つにも、かなりの神経をつかうのですから、一日中、緊張ので、頭もからだも、疲れることと思います。
職場の仕事は、学校や家庭の延長ではありませんから、ほとんどが、はじめてのことが多いと思います。
一日中、ほとんど腰かけることもなく、立っていなければならない仕事、反対に、腰かけたままの仕事、しゃべりつづけなければならない仕事、一日中、口をきかない仕事など、これまでの習慣とは、かなりちがうことを、しなければならないのです。
工場に驚く人は、工場に入っただけで、耳がおかしくなってしまうほどの、はげしい音に、驚いたことでしょう。
また、薬品を扱うところでは、目や鼻に、強い刺激を受けたことでしょう。
とにかく、これまで、経験したことのない環境に、働かなければならないのですから、なんといっても、仕事にとりかかる心がまえが大切です。
おそろしいところ、いやなところと思っていたのでは、いつまでたっても、環境にとけこむことはできません。
これが自分の仕事だと、はっきりと、心をきめて働いていたら、すぐになれてきます。
仕事の中には、非常に危険なものもありますが、工場では、必ず、危険防止のための、規則がありますから、この規則をよく守ってください。けがをする人のほとんどは、少々なれてきて“これくらいならだいじょうぶ”という気持ちが、出てきたころに、やっているのです。
また、自分の家の花よりも、となりの花が美しく見えるように、自分の仕事がつまらなくて、他人のやっている仕事が、よく見えるものです。しかし、やってみると、どの仕事でも、同じような苦労があるものです。
あなたは、現在の仕事を、ほんとうに、楽しいものにするために、まず、職場環境に、自分からすすんで、なれることです。

3.自分の任務をはっきり知る

あなたの任務を、はっきりつかんで、わからないところがあったら、上司や先輩にたずねることです。そして、仕事になれていただきたいのです。
あなたが、いま与えられている仕事は、どのような仕事なのか、そして、会社や工場の全体から見て、どのような役割をしているのか、はじめに知ることが大切です。
そのためには、あなたの直接の上司は、だれなのか、そして、あなたの所属している係、課、部、と、他の係・課・部とはどのような関係にあるのかを、知ってもらいたいのです。
はじめにのべたように、会社や工場は、時計の機械のように、 たくさんの部品からできています。どの係も、必ず、となりの係との関係があるのです。一つの係だけ、勝手な動きをしたら、会社全体が、狂ってしまうのです。
わからないところがあったり、疑問に思うことが出てきたら、何の遠慮も、気がねすることもなく、すぐに上司や、先輩にたずねることです。
「まだわからないのか。」とか「そのくらいのことは考えてやりなさい。」と、いわれることもあるでしょうが、それは、上司や先輩にたずねるときの、あなたの態度が悪いのです。
知らないから聞くのだ。というような心もちが、少しでもあると、たとえ教えることが役目の人でも、こころよく教える気持にはならないものです。
あくまでも大切な仕事をあずかっているのだから、なんとか、お役に立ちたい。という、謙虚な心をもって、たずねなければなりません。
習うこと、たずねることは、仕事に積極的である証拠なのですから、おそれることも、はずかしがることもなく、すすんで、たずねてもらいたいものです。
あなたが、一日もはやく、仕事になれて、お役に立ってくれることを、会社は、心から望んでいるのです。
わかりもしないことを、自分の勝手な判断で、やってしまうことがあると、かえって、とりかえしのつかない大きな損害を、会社に与えてしまうことを、知っていてください。

4.順応性をやしなってもらいたい

環境や仕事のうつり変りに、すぐ従っていける心を、順応性といいます。
あなたも知っているように、現在ほど、すべてのものの、うつり変りの早いときは、ありません。
それは、商品やサービスの流行を見ていると、よくわかるように、きのうまで飛ぶように売れていたものが、きょうは、ばったり売れなくなってしまう、というありさまです。
したがって、会社や工場でも、ゆだんなく社会の動きをにらんで、先々と手を打たなければ、競争に負けてしまうことになります。
そこで、あなたも、会社や工場の動きに、すばやく合わせていく心がまえを、もっていなければ、ついていくことはできません。
順応性は、商品の流行だけに、必要なことではありません。
会社や工場内の、フロアの移動や、人の配置替えなどでは、ぜったいに、欠かすことができません。
二階から、地下室に移ったようなとき、急に風通しが悪くなったり、光線がちがってきたり、そのほか、二階にいたときとは、ちがう状態になるのですが、このようなとき、いつまでも“二階の方がよかった。なぜ地下室に移ったのだろう”などと考えていたのでは、会社の流れに合いません。
移ってきた地下室という環境の中に、なじむ心がなければならないのです。
係長や課長の移動があったり、または、あなたが、他の係や課に移動になったときも、いろいろと考えもあるでしょうが、ただちに自分たちの上司になった係長、課長の部下として、快く従っていくことが大切です。
とくに、個人的な理由や、事情だけを考えて、不満をもちつづけることは、会社のためにも、あなたのためにもなりません。
順応性の欠けている人は、共同生活をしても他の人々と、なかなか親しくなれないので、ヘやの空気を、不快なものにしてしまいがちです。
共同生活は、一軒の家のように、全員が、心からうちとけ合っていなければ、仕事の上にも、からだのためにも、悪い影響をおよぼすことがありますから、つとめて、行動をともにして、楽しい空気をつくるように、心がけてもらいたいものです。
とくに、多数決で、きまったことがあったときは、あなたの考えと、ちがうようなことがあっても、すすんで多数決にしたがう心がまえを、もっていてもらいたいものです。
いつでも全体のことを考える。という気持ちを、心のかたすみにもっていてください。
そうすることによって、会社や工場の望む順応性が、しぜんに身についてきます。

5.同僚と仲よくしてほしい

長い人生には、幼な友だち、学校友だち、仕事や趣味の友だちなど、たくさんできることでしょうが、なんといっても、同じ目的をもって、苦しいことを、楽しいことを、いっしょにあじわえる友だちは、会社や工場の同僚以外にはありません。
せっかく、希望をいだいて入社した人の中にも、仕事がいやになったり、会社や工場の空気になじめないために、途中でやめてしまう人がいます。
このような人のほとんどは、同僚の中に、胸をひらいて話し合える友だちの、いない人です。
同僚は、あるときは競争相手ともなって、ゆるみがちな気持ちを、ふるい立たせる役割りをしたり、あるときは、親や上司にも話すことのできない悩みごとまで、話し合って、たすけ合ったり、はげまし合うことができる、すばらしいものです。
仕事の上でも、いそがしいときは、気軽に手を貸したり、借りたりすることができるのも、同僚でなければできないことです。
人間の本当の楽しみは、楽しみや苦しみを語り合うときにあるといいます。
太平洋をたった一人で、ヨットに乗って横断した、堀江謙一氏は、
「太平洋では、五回の大しけに会って、苦しいことが多かったが、一番苦しいことは、九十数日の間、話す相手がいなかったことです。そのため、楽しいと思ったことは、一日もありませんでした。」
と、いっています。
あなたが、長い間を、楽しく働きたいと思ったら、同僚と、いつでも語り合えるように仲よくすることです。
町中で悪い人にねらわれるのも、悪い遊びをおぼえるのも、同僚との仲が悪くて、いつでも単独の行動を、とっているような人に多いと、いわれています。

6.不満は上司に相談してほしい

職場の中や、社宅の中で、なにか不満があったら、すぐ担当の上司に、相談するようにして、ほしいのです。
会社や工場では、なんとかして、あなた方の働きよいように、住みよいように、といろいろ考えては、やっているのですが、それでも欠けているところ、気がつかないところなどあるはずです。
そこで、なにか不満があったら、すぐに、あなたの担当の上司に、遠慮なく相談してください。
上司は、自分の経験から、よい考えや処置を、あたえてくれます。
担当の上司にできないこと、わからないことは、そのまた上司に聞いて、もっともよい処置を、とってくれます。
また、問題によっては、会議にかけても、不満をなくするための、努力をしてくれます。
「こんな不満を話したら、 しかられるのではないか」とか「どうせ、だめにきまっているのだから、話すだけムダだ」と、いうような考えから、上司に相談しないのは、思いすごしです。
会社や工場に対する不満を、同僚の間だけで、ならべたてることは、やめてください。同僚の間で、不満をならべたてても、進歩も解決もできないばかりでなく、いよいよ不満だけが、大きくふくらんでしまう結果に、おわるからです。
しかし、上司に話した不満のすべてが、ただちに解決するものとは、かぎっていないのです。
会社や工場によって、それぞれの事情があり、予算というものがあるのですから、この点も考えてもらいたいのです。
動物や植物が、一度に大きくなるものでないように、会社や工場も、あなたの希望を入れるためには、ある年月を待たなければ、できないことがあるからです。
社員の一人でも、不満に思っていることがあったら、これを、会社や工場全体の間題として、考えるだけの広い心を、上司の人々は、もっていることを知っていてください。
下意上達、上意下達といって、部下の考えが上司に通じる。上司の考えが下部に通じてこそ、あなたの会社や工場が、発展するのですから、一人で悩んだり、不満をもっていることは、あなたに会社や工場にも不利であることを、心にとめておいてください。

7.長期の生活設計をたててほしい

人生は、長いようで短いものです。20年、30年は、瞬きをする間に、すぎてしまいます。
道路をつくるにも、家を建てるにも、設計図が必要であるように、あなたの人生航路にも、設計が必要です。
あなたの生活の設計には、社会生活のスタートをきった今が、一番よい時機です。
そして、生活の設計をするならば、長期の生活設計が、望ましいのです。
長期といっても、どの程度が、一番よいかということです。これは、人によって、いろいろ考えもあることでしょうが、あなたには、次のような計算を、していただきたいのです。
あなたの現在の年令に、その二分の一を加えた年令を、目標にしてごらんなさい。
あなたが、18才でしたら、二分の一の、9才を加えた27才が目標です。
あなたが、27才のころには、会社や工場で、どのような立場になって、どのような仕事をしなければならないか、先輩の方などから割り出して、考えてください。
そして、27才のころに、やらなければならない勉強に、いまからとりかかることです。
また、給料は、どれほどになっているかも給与規定などで、調べておくことです。
もちろん、結婚生活の設計も、同時にすることです。
出産をはじめ、共働きや主婦・主夫としての準備も設計に入れることです。
このように、目標をはっきりきめて、自分で設計した生活を、一歩一歩すすんでいる人は、つまらない誘惑にかかったり、先になって、後悔するような問題を、さけていくことができるのです。
「生活の設計をたてて暮らすなど、人生に味わいがない。青春は、二度とないのだから楽しく暮らした方がよい。」などと、いう人がいます。
青春は二度とないからこそ、楽しく暮らしたいからこそ、生活設計をはっきりたてることが、大切なのです。
生活設計の中には、趣味を身につけることも、忘れずに入れておいてください。
現在のために、将来をぎせいにしてはいけない。将来のために、現在をぎせいにしてもいけない。と、いわれています。
現在の楽しみだけにとらわれて、将来を泣いてくらすようなことが、あってはいけないということ。また、将来のことばかりにとらわれて、現在の生活を、つまらないものにしては、いけないということです。

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