坊ちゃんを読んで

 小学生の頃、担任の先生に「素直さがない」と言われたことがある。きっと子供らしくない子供だったのだろう。大人になっても物事を斜めにみる性格は変わってないように思える。
 私は夏目漱石の坊ちゃん。明治時代以来、久しぶりに松山に来て驚いた。坊ちゃん列車に坊っちゃん団子、坊ちゃん球場に坊ちゃん劇場、文学賞は坊ちゃん文学賞。やたらと私の名前が氾濫している。プロ野球の球団が身売りして、愛媛に球団ができたら、松山坊ちゃんなんとか、とでも名づけそうだ。道後温泉には私の衣装を真似たコスプレイヤーも存在しているらしい。
 私が松山で気に入っているのは、道後温泉と団子だけ。初めての下宿の大家は、やたらと贋物の骨董品を売り込んで来るし、次の下宿のばあさんは、給料の多寡で人を評価する。教員も謀略家で芸者遊び、上司にへつらう太鼓持ち、まともな奴もいるにはいるが、九州の田舎に飛ばされた。わが盟友の山嵐は会津の人間だ。学生ものぞき趣味のいたずらっ子で喧嘩好き。まともに勉強もしない。憧れのマドンナも、口車に乗せられて、許嫁から他の男に乗り換えるトンデモ女性だ。
 これだけ松山をけなしておいて、私の名前を多用するのは、どういう了見だ。まあ、私の名前は全国区で、商売に利用しない手はないということなのだろう。まったく、煮ても焼いても食えねえ奴らだ。

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