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アトリエで語ろう3

 「一体どうしたものか」
 この町の商工会の会長である馬場は、悩んでいた。衰退の一途をたどる商店街。そこに残るのは、理髪店やパン屋などの数店のみである。鉱山に労働者が溢れ、牛市場が活況を呈し、橋の上を芸妓が闊歩していたのも、今ははるか昔の話である。この町にサーカスの一座が来たなどとは、誰も信じまい。
 過疎化は地方共通の問題である。人がいないから、商売が成り立たない。親は自身の苦労を子供達に押し付けられず、都会に魅力を感じる若者は、故郷を出て行く。残るのは、公務員と一部の民間企業、そして大工などの自営業者だけである。
 かくいう馬場自身も、都会からのUターン組であった。都会で定年まで暮らし、片親になれば親を引き取り、そのまま生涯を終えるのだろうと考えていた。ところが図らずも、40代で田舎に舞い戻ってきた。久しぶりの故郷は、コンクリートに囲まれた都会暮らしの身には、光輝いて見えた。山々の緑がまぶしい、というのは、初めての感覚であった。町役場の近くでウグイスが鳴いている、田舎は都会に疲れた身には、癒しの空間だった。
「何かしなければならない。しかし、何をすればいいのか」

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