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なぜ僕は高松まで『なぜ君は総理大臣になれないのか』を観に行ったのか。

大島新監督『なぜ君は総理大臣になれないのか』
というタイトルの映画が東京では6/13に公開され、連日劇場は満員だといいます。とは言えコロナ対策で市松状に席数を制限した上での「みなし満席」ではありますが。とにかく、評判になっているのです。

この映画は、小川淳也という現職議員の、32歳民主党からの初出馬、政権交替で総務大臣政務官に就き、下野後も選挙区で敗れながらも比例復活当選で踏ん張り、2017年には党内のゴタゴタに巻き込まれ、自らの立ち位置に悩みながら希望の党公認で出馬し選挙区で惜敗(比例区で当選)、のち無所属のまま立憲民主党会派に属する現在までの17年間の軌跡を追ったドキュメンタリー映画です。

その小川淳也がなかなか勝てない選挙区地元香川では、6/19から当該映画が公開スタートしました。

地方まで出張ってギャンブルに興じる行為は「旅打ち」と称されていますし、お目当てのバンドの地方公演について回るファンは「追っかけ」て「全国行脚」してると思いますけれど、ご当地映画、ロケ地やモチーフの存する土地で映画を観る、という行為に特定の名称あるんですかね?「旅観」タビカンとか言ったらいいですかね。タビシネかな。「追っかけ再生」でもいいかも知れないです。

僕は高松に向った

とにかく、いち早く観たい気持ちがあったので高松まで行ってきました。大阪では7月まで公開されないのです、遠い...。それと、小川淳也の地元で、この映画を観ることに意味がある気がした、というのも一因です。

イオンシネマ高松東です。
どうして、高松くんだりまで出かけて、うどんの一本もすすらずに、骨付き鳥でビールもやっつけずに、既視感タップリのイオンモールに居るのだろうか?僕は。
17アイスの自販機と、列をなすガチャポンコーナー、無軌道にモール内を駆け回るキッズたちを横目に映画館へ向かいます。

まず、驚かされたのは『なぜ君は総理大臣になれないのか』のパンフレットがsoldoutだったこと。僕は、6/20の二回目上映に足を運んだので、初日からわずかの間にパンフレットが売り切れたことになります。

そして、かなり年配の方がロビーに多くいたこと。そんなみなさんのお目当てが『一度死んでみた』とか『アイアンマン3』とかだったりすると、それはそれで「高松恐るべし」な訳ですけれど、予想通りみなさん『なぜ君は総理大臣になれないのか』を上映するスクリーン1に吸い込まれていきます。

このスクリーン1は、イオンシネマ東高松では最大の434席。ミニシアター系の作品がこの規模のスクリーンサイズで観られることは、まずないのではないでしょうか。小川淳也の苦悩する顔も倍づけサイズです。これだけでも高松「追っかけ再生」に駆けつけた価値ありです。
近いところでは森達也監督の『i -新聞記者ドキュメント-』がイオンシネマ系列で上映されましたけれど、こんなに巨大なスクリーンではなかったのではないでしょうか。いずれにしても、是非とも全国のシネコンにも多様な番組編成が波及して欲しいところです。

前方のブロックは空いていましたが、後方ブロックはかなり埋まっていました。願わくば満席祭りなら良かったのですが、関心の高さはうかがえました。

それと、地方の映画館ではローカルなCMが流れることも多いので、それを観られるのも一興です。イオンシネマ東高松では、
・映画半券を持参すると1ゲーム無料になるバッティングセンター
・是枝作品ばりのリアルさで迫るリサイクル会社
・ココぞというときに使える着物サロン
のコマーシャルが、「旅観」を高めてくれました。

更新され続ける作品

本編の前には、香川上映に際して追加されたと思われる小川、大島両名のコメントが流れます。

東京での上映に際しても、コロナ後の世界に向けて、本編の最後に小川淳也への監督zoomインタビューが追加されていますが、まさしくこれは、本編で描かれた17年間以降、現在も進行している小川淳也という政治家の姿が更新され続けている様を観せてくれる映画です。このオープニングが観られたことも、高松にタビシネした価値を感じさせてくれました。

小川淳也という政治家を知る


僕が「小川淳也」という代議士の存在を知ったのは、YouTubeで見た国会パブリックビューイングでした。その舌鋒鋭く論理的で、快活で、青臭く感じられるほどの熱量をもって、政権の姿勢を問いただしているのを目にした時。

与党同士はお手盛りで、野党は揚げ足を取るばかりで、なにひとつ見るべきものも、耳を傾ける価値のある内容もないと思い込んでいた国会質疑という儀式(まさしく儀礼的な場だと思っていた)のなかに実は、はぐらかしやあざけ笑いを浮かべる為政者に対して、敢然と対峙する野党議員がいる。ということへの目覚めを与えてくれた。ちゃんとしている、地に足を着けながらも、しっかり理想を語れる国会議員のお一人が小川淳也という人でした。

『なぜ君は総理大臣になれないのか』

映画は「したたかさ」を持っている者だけが、そのしたたかさを駆使することだけで、権謀術数をめぐらせるだけで、政治をもてあそび、国民の耳目を本質からそらしている状況に、歯を食いしばってあらがう小川淳也という人の誠実さと弱さと、愚直さを描いています。
たぶん『仁義なき戦い』なら、真っ先に殺されちゃうよ。というかメインキャラクターの末席にも名を連ねられないよ。

そして、ハッキリと小川淳也のプロパガンダ映画でもあると思います。
大きなボリュームが割かれている2017年の選挙にしても、それこそ地元メディアの威を借りる自民党平井卓也に攻撃されたように「変節」してしまった人物として描くことも出来たと思います。

それでも映画のなかで「政治をやりたい」のではなく「政治でやらなきゃいかんことがある」と苦悩しながら戦う小川淳也という人は、魅力的です。
大島監督が小川淳也に惚れ込んだように、僕も小川淳也が好きになりました。
プロパガンダ成功です。

けれど、そこに偽りや虚飾はありません。「こんな政治家がいるのか!」という驚きと、なぜこんなに真っ当に悩んで、考え抜いている政治家の声が、実際の政治に反映されないのだろう?という疑問だけが沸いてきます。
大衆を惑わし、真実を糊塗する連中の大声ばかりが喧伝されるのなら、今まで聞こえてこなかった小川淳也のプロパガンダこそを観られて良かったと思います。

小川淳也のお母さんは劇中で、
「あの子は大学教授の方が向いているのかも」
と言います。
論理的で説得力ある話しぶりや分析力(安倍長期政権への分析の明晰さとか膝を打ちました!)は、外から政治を語る人間としては超一流の学者なのかも知れません。

それでも、党内調整や馴れ合いや打算を乗り越えて、理想を実現するために総理大臣になりたい、ちゅうんだから頑張って欲しいと思います。僕も今度の選挙の時は、事務所でチラシ折ったり、ボランティアに行こうかな。

『なぜ君は総理大臣になれないのか』
は、『なぜ僕たちは君を総理大臣にしてあげられないのか』という形で、自分にはね返ってきます。当初、小川淳也が語っていた自らの引き際である「50歳」まで時間がないです。
「小川淳也という理想家がおったけど、政治家としてはダメやったな」
なんて5年後の思い出話になる位じゃつまらない。僕たちに気付きや目覚めを与えてくれるとっても面白い映画だったから、せめて選挙権を行使するくらいの恩返しはしなきゃいけない。

あなたもイオンシネマ東高松の大スクリーンで、「娘です。」と書かれたタスキを観て、号泣しよう!
僕は今日帰ります。

<追記>

実は、この日レイトショーで二回目の鑑賞もしたのですが、昼の回より盛況でした。年齢層も幅広かった。
一番後ろの席から、観客の反応も見よう!とか目論んでいたんですけど、結局面白くって作品に引き込まれたので、そんな余裕はなかったです。
でも、すすり泣く音や、「へー」と感心する声が漏れてきて、客席も静かな熱を帯びていた気がしました。

<追追記>

ちゃんと、うどんも骨付き鳥も高松城も栗林公園も美術館も純喫茶も民芸店もこなして高松堪能しました。

次回は小川さんのご実家の美容室で髪切りたいです。
またね高松!小川淳也を直接勝たせてあげられるかも知れないあなたたちが羨ましいです。

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