【レポート】box、Slack、Adobeの事例から学ぶ、グローバル・カスタマーサクセス
0. はじめに
今回は、2019年3月4日(月)に開催された「box、Slack、Adobeの事例から学ぶ、グローバル・カスタマーサクセス」に参加してきましたので、その内容をまとめました。
参加費をケチるためではなく、アウトプットを残すために意識高く敢えて「アウトプット宣言!枠」で参加しました。くどいようですが、参加費をケチりたかった訳では決してありません。
1. オープニング(HiCustomer 高橋さん)
オープニングトークでは、今回のイベントの趣旨が説明されました。日本においてもCSが注目・取り上げられるなかで、「手段が目的化してしまっているんじゃないの?」という問題提起だと理解しました。
何かがブームになった時によくある弊害として、本質が見失われて表面的なところに走ってしまいがちです。これを乗り越えたとき、本当の意味で日本にもCSが定着するのだと思います。
ということで、改めて3つの視点でCSを見つめ直す企画のうち、今回は 2. 実践・改善の視点でのイベントになります。
1. 顧客視点(2019/2/5開催済)
2. 実践・改善の視点(今回)
3. 事業運営の視点(2019/4/11開催予定)
CSに取り組む多くの企業において、これから直面するであろう3つの課題に既に対応を勧められているグローバル企業のお話を伺いました。
1. チームの拡大
2. 専門職化
3. オペレーションの改善
2. Box Japanが目指すカスタマーサクセス(西田さん)
西田さんは冒頭からいきなり「boxにCSは必要か?」と切り込まれていました。確かに私は会社でも個人でもboxを使用しているのですが、使い方に困ったことがないというか、CSの存在を認知したことがないというか…
「boxを単なるクラウドストレージではなく、コンテンツプラットフォームとして使ってもらうためにCSがいる」ということで、なるほど!と膝を打ちました。
「BLOW OUR CUSTOMERS' MINDS(顧客を感動させる)」とCEOであるAaron Levie自身が言っており、会社としてもCSを大切にしています。
また、顧客や市場、製品、競合が日々進化するなかで求められるOutcome(Renewalや利用率)を出すための重要な役割をCSが担っており、ここからその具体的なCS活動の説明に入っていきます。
契約の金額規模にあわせてTier分け(Tier 1~Tier 4)
Tier 1:CSM1人で10社程度を担当
Tier 2:CSM1人で50社程度を担当
Tier 3:CSM1人で1,000社程度を担当 ※ヘルプ、リスク対応中心
Tier 4:無料メール等のオートメーション対応
KPI
ライセンスの配布率80%、利用率50%を指標の1つとしています。
・Gross Retention Rate(既存顧客の契約更改率)
・Deployment / Active(ライセンスの配布率・利用率)
パートナーサクセス
Boxは代理店販売をしているため、Box側から顧客を直接訪問した場合、代理店と契約した顧客からするとよく分からない状況になり、誰に何を聞けばいいのか不明瞭な状況に陥ってしまいました。
そこで、日本独自の制度としてパートナーのCSM制度を立ち上げました。その要件として、以下3点が挙げられています。
1. 契約金額に応じて、CSMをパートナーに配置してもらうこと
2. BoxのCSMとの定例会議を隔週実施すること
3. BoxのCS活動基準を満たすこと(例:Tier 1なら必ずQBRを実施するなど)
また、その活動の見返りとして以下の3点を用意しています。
1. BoxのCSMのノウハウをトレーニングとして提供
2. 更新率を達成すると、次年度ディスカウント率を変更
3. 認定試験に合格すると、パートナー向けイベントにてトロフィー贈呈
気になるパートナーCSMトレーニングの内容
大きく3つのフェーズ(On-Boarding、Adapt、Optimize/Expansion)に分かれており、それぞれにおけるCSMの活動のノウハウを提供しています。
例1:CSMの役割(ポジショニング)
CSMはBox活用における"Trusted Advisor"であり、営業でも導入コンサルでもトレーニング担当でも契約更新活動でもない、と明確に伝えています。
例2:利用率レビュー
利用率をどのように読み解き、顧客とコミュニケーションしていくのかを教えています。データを読み解くにあたっては、単にグラフ上の数字を追うのではなく導入の目的や利用用途を把握していないと正しい理解はできない、という点まで踏み込んでトレーニングを実施しています。
例3:リスクマネジメント
よくある解約のパターンを紹介し、解約リスクの早期発見方法をトレーニングしています。
グローバルとの連携について
US本社にてビジョンや施策はアップデートされていくので、日本側はそれに原則追従するかたちになります。ただし主要なところはアラインするものの、オペレーションはローカルで決めて実行する!とのことで、詳細はこちらのリンクをご覧ください。
カスタマーサクセスってすごい!
更新率などのKPIに目が行きがちではあるものの、顧客が目標達成することにも目を向けるべきではないか。目標達成することにより顧客が昇格・昇進する等、顧客個人のサクセスをも創出できることもCSのすごさ、面白さではないか、という話で終わりになりました。
一緒にプロジェクトで協働した顧客が昇進される喜びを味わえるのは、B2Bビジネスの特権の1つですね!
なお、そんなBoxではCSMを絶賛募集中だそうです!(アプライしたい!)
3. Customer Success @ slack(レイさん、石動さん)
まず一言だけ言わせてください。slackめちゃ好きです!
slackは簡単、だけど、難しい
ふんわりとしたミッションですが、これには理由があります。slackをチャットツールとして使うとビジネスバリューが得られず、また必勝法的なユースケースがないためです。ケースがないため、ユーザー毎にカスタマイズが必要なことがチャレンジとなっています。
全員で追うのはARR
slackでは同じセールスチームの中にAccount Executives、CS、Solution Engineersがいて、全員でARRを追いかけています。全社の羅針盤はARRであり、ARRがみんなのゴールです。
何をもって、Go Liveとするか?
1. Technical Readiness(必要な設定が終わっているか)
2. Operational Readiness(必要なプロセスが定義されているか)
3. User Readiness(ユーザーが使える状態になっているか)
この3つが揃ってGeneral Availabilityと定義しており、中でも最も重要視しているのがUser Readinessです。ユーザーアナウンスやアンバサダーネットワーク、トレーニングの案内など、ユーザーが「今日から使える」と伝わっているかどうかを重要視しています。
日本独自の必ず押さえるべき4つのポイント
エグゼクティブスポンサーの存在も重要ですが、以下の4つを確実に押さえなければ導入はうまくいきません。
1. メッセージとKPI(何のためにslackを使うのか)
2. アンバサダー(後述)
3. ユースケース(全員が使えるユースケースを最低でも2~3つ策定)
4. 役割の提示(メールを使うシーン、電話を使うシーンなどを定義)
価値を最大限に引き出すために
顧客とコミュニケーションを取るうえで、以下の4つを大切にしています。
1. 利用率(アクティブ率):実際に使用されているユーザー数
2. ディープさ:
2-1. パワーユーザー(1ヶ月1,000メッセージ以上など)
2-2. 粘着性(モバイルでの使用など)
2-3. コミュニケーションの質(パブリックチャンネルの使用など)
3. 生活の質の向上(生産性向上、MTG頻度の減少など)
4. 目的達成(ユースケース増加数、アンバサダープログラム作成など)
なお、顧客とのやりとりは全てslackで実施しており、メールのような煩わしい挨拶はなくリアク字でレスポンスしています。このあたりは、さすが!徹底されているなと感心しました。(というか、シンプルにうらやましい)
アンバサダープログラム
80%のユーザーは資料や動画などのトレーニングを利用するよりも、近くのユーザーに教えてもらってサクッと解決することが多く、それをアンバサダートレーニングとして体系化しています。
一般的なITトレーニングは基本的な機能の説明に偏りがちで、ユーザーに対するメリットが訴求できず、実業務での活用イメージが湧いてきません。
そこで各部署からアンバサダーを選出してもらい、CSMはアンバサダーのサポートに注力して時間を使います。そして、アンバサダーからユーザーに広げてもらえるようにしています。これがうまくいくと、次はユーザーからアンバサダーに対してフィードバックが生まれ、より活用が進むようになります。
!!ここにすごくいいスライドがあったのですが、写真を撮り忘れたので他の方のレポートを是非みてください(痛恨の極み…)!!
CSだけについて話す時間を毎週2時間確保しており、案件の話ではなく日本のCSとして今後どうしていくのか、今困っていることは何なのかについて話しているとのことで、これは弊社でも取り入れたいと思いました。
これから頑張るところ
・ニーズに応え続ける体制(日本はNo.2のマーケット)
・プリセールスでの期待値コントロール
・いい人材の採用(Culture Fitが大事!)
・営業とのアラインメント・教育(CS社内教育)
・カルチャーの維持(これを大事にしないとユーザーに伝わらない!)
そして、slackでも絶賛採用中だそうです!(アプライしたい!)
4. Adobeのカスタマーサクセスモデルと取り組み(小栗さん)
担当されているAdobe Experience Cloudではマルチソリューションを扱う必要があり、エンタープライズが多く大きいユーザーだと億規模の契約になります。
また、カスタマイズ領域が非常に大きいプロダクトのためプロジェクト期間が長くなる傾向があり、CSとしての複雑性も極めて高くなっています。(スライドが美しい…)
5つのCSMモデル
Adobeは5つ目の「パートナーシップ型」です。営業も更新を見ており、CSMはカスタマーにフォーカスします。この場合、営業とCSMで業務重複が発生し、CSMの評価が難しいことが課題になります。
パートナーシップ型CSMに求められるスキルセット
年間プログラムを実行していく計画力と社内外の関係各所を動かさすコミュニケーション力が、特に重要だと考えています。
ただし、ビジネス課題やテクニカル課題もある程度クリアできる力がないと顧客からの信頼を得ることは難しく、組織的に解決することに取り組んでいます。
組織体制
顧客規模とインダストリーの2軸でアカウントセグメンテーションを設定しており、CSMがリーズナブルに時間を確保できるようにしています。加えて、製品の軸でもVirtual Product Teamとして情報共有しながら、全体的な底上げ・対応を実施しています。
ミッション
このなかで、今回はカスタマーヘルスチェックとビジネスレビューについてお話いただきました。
カスタマーヘルスチェックで大事にしていること
ROIが出せている、利用率を上がっているだけでは契約更新してもらえないため、利用レベルやキーパーソンの巻き込みなどを総合的に見ながらバランスよくヘルススコアを判断しています。
活用スコアはグローバル共通になっており、スコアの理由やできていること・できていないこと、それらに対するプレイブックも完備されています。
アカウントプランで大事にしていること
顧客が読んでもハッピーになるプランを作ることを重要視しています。次の契約更新までに達成すべきことを明らかにし、逆引きでタイムラインを引いた上で、各役割のメンバーがいつまでに何をしないといけないのかを作成しています。
アカウントプランを作成する上でゴール設定が重要になる訳ですが、日系の顧客は定量的なゴール設定が苦手です。
コスト部門は定性的なゴールを設定しがちで、またコスト削減に走ると「じゃあ、もういらないですよね?」と自らの首を絞めることにもなってしまいます。そのため、創出した時間で新しいことに取り組むといったような拡大するプランを作らないと受け入れが難しいことがあります。
一方で上位層は全く異なる考えを持っている場合があり、月1回訪問するくらいではなかなか伺いしれない情報もあるため、いかに生の情報をもとにプランニングできるかが重要です。
そのため、Mutual Success Planを作成しています。契約更新からの1年間の活動計画を作成し合意形成します。その後の進捗や課題を確認しネクストアクションを定めることが重要だと捉えています。
Global vs Local
アメリカにはCSMが200~300人にいるのに対して、日本は15人しかいません。全く規模が違うにも関わらず、アメリカの規模を前提にした業務が輸出されてくるため、適度に回避しつつ交渉する強さが必要です。また、プロダクトに対する交渉力については難しさを感じており、日本のプロダクトに対する羨ましさもちょっとあります。
Renewalに本質的に効く取り組みとは何か?それを実行するにはCSMだけでは不十分なため、必要な社内リソースを動かす権限と実行力を伴わせるにはどうすればよいか?という点がチャレンジです。
Adobeも絶賛採用中とのことです!(アプライしたい!)
5. パネルディスカッション
Q1. ユーザーとの目標・KPI設定のコツは何か?
西田さん:
全顧客とは無理ですが、、、
特定プロジェクトから全社展開をいつまでにやるか、といったケース。
レイさん:
ユーザーによって異なる。ナンバーのものと夢のあるもの。
石動さん:
XX日以内でキャズムをこえましょう、と合意することがある。
小栗さん:
利用スコアで握ることはほぼない。
ビジネスKPIに対して力を入れており、数値をもって握る。
プロセスや人をどのような状態にするかという定性的なものもあり。
Q2. 日本発でグローバルでもうまくいった施策は何か?
小栗さん:
海外はトップダウンなのでエグゼクティブとのハイタッチ傾向。
日本は現場マネージャーとのエンゲージメントが大事。
西田さん:
パートナーCSM制度がグローバルから評価を得ている。
ユーザー会はUSだと地理的に集まりづらいが、日本だと集まりやすく、
参考に聞かれることがある。
石動さん:
グローバルのアンバサダープログラムはフリーディスカッションで勝手に
議論が進むが、日本だとシーンとなってしまった。
ワークシートを用意して議論が進むようにしたものをグローバルに
見せたら評判がよかった。
Q3. On-boardingは何をもってうまくいったとするのか?
石動さん:
GAを重視している。
また、トレーニング後にアンケートとって結果を見ている 。
小栗さん:
プロジェクト期間が長くPMやコンサルの後ろにCSMがいるため、
ハンドオーバー時に関係性が薄い。
MSPを出すタイミングで評価をいただくなど改善が必要だと感じている。
西田さん:
3ヶ月でライセンス配布率80%、利用率50%を達成すること。
Q4. アンバサダーはどのように選んでいるのか?
レイさん:
以前はチャンピオンと呼んでいたが、問題があった。
ユーザーが勘違いし、他ユーザーにシェアする感じではなかった。
・テクノロジーにアレルギーがない人
・ボイスがあって、他人にシェアしたい気持ちがある人
・周りの部署の人が何しているか知っている人
上記のような人がオススメだと伝えるようにしている。
小栗さん:
パーソナルゴールが近い人。 ツールでキャリアアップを狙っている人。
こういう人は、イベントにも登壇してくれる。
西田さん:
前のめりにやってくれる人。
利用率データをベースにパワーユーザーを特定してみる。
機能がシンプルなので、定量的に分かりやすい。
Q5. 自社ではどんな人がCSMとして活躍できるか、一緒に仕事したいか?
西田さん:
グローバルからのお達しはあるが、日本独自の施策をやっていきたい。
課題はあるので、試行錯誤が得意な方。
レイさん:
slackで会社やユーザー、ワークスタイルを変えたいと強く思う方。
CSはできたばかりなため決まった方法ではなく、毎週のように
新しいアイディアを考えないといけないがそれを楽しめる方。
石動さん:
スキルは後から身に付けることができる。
Culture Fitという点で、明るく前向きで笑顔のステキな方。
小栗さん:
事業側のマインドが強い方。
コンサル的な感じに線を引かず、泥臭くやれる方。
6. 感想
日本企業はパートナーセールスが多い思うので、BoxのパートナーCSMはかなり参考になる部分があるのではないかと思います。一方で、パートナーをCSMとして育てられるだけのスキル・ナレッジが整備されていないと実現できないという点で難しさも感じました。
slackのアンバサダープログラムはとても面白かったです。ツールとしての基本的な使い方を教えるだけのトレーニングではやはり不十分ですし、CSMの力だけでスケールさせるのも大変なので、顧客内でうまく広めてくれる人を育てるのは非常に効率的かつ現実的な方法だと思います。アンバサダーを育てつつ、彼らを孤立させてないようにCSMが支援していくことも重要だと感じました。
そして、何よりも「日系企業は定量的なゴール設定は苦手で、 KPIを聞いても出てこない」というのは激しく同意するところでした。そして、がっつりビジネスに踏み込んで生のプランを作られていることには驚きました。正直なところ、個人的にはここまで踏み込むのに躊躇していたところがあるのですが、これからは思い切ってやっちゃおう!と勇気をもらえました。
何となくのイメージですが、以下のようにプロダクトの難易度によってCSMの難しさが変わってくるのかな、と感じました。
Box, slackのような使用難易度が低いプロダクトの場合:
契約>>利活用>>>>>>バリュー実現
Adobe のような使用難易度が高いプロダクトの場合:
契約>>>>>>利活用>>バリュー実現
Boxやslackでは比較的簡単なのですぐに使い始めることができますが、その分ストレージやチャットとして簡易的に使われてしまうため、そこからビジネスバリューを実現するまで支援するところが難しそうでした。
一方、Adobeは使いこなすまで時間を要しそうですが、使いこなせるようになる頃にはビジネスバリューが出る近くのところまで来ているようにも感じました。(PDFくらいしか使ったことがないので、完全にイメージですが…)
7. 最後に
「アウトプット宣言!枠」で参加しましたが、アウトプットをしなければならない立場になると集中力が全然変わってきますね。体力は消耗しますが…
このレポートを書くのにもそれなりに時間を要しましたが、考えを整理するのに良い機会になりました。(参加費をケチらずに金払えばよかったなんてことは全く思っていません!)
あと、内容に誤りや過不足があれば、お知らせください。
(あ~、3社ともアプライしたいな~)
次回は、4月11日(木)開催です。
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