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世界最高リターンのヘッジファンドは具体的に何を購入しているのか? Whale Rock Capital Management

今回は「HedgeFollow」というサイトで纏められている、2021年2Q時点での過去3年間リターンランキングがトップのヘッジファンドを調べます。

※HedgeFollowにおける、3年間リターンの計測は、
 各ヘッジファンドの期間中上位20銘柄の成績によって成されます。

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21年2Q時点の3年間リターンでは、「Whale Rock Capital Management」がトップです。

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主要な投資先は、
・Amazon(eコマース)
・Shopify(eコマース)
・Crowdstrike(サイバーセキュリティ)
・Bill Com(会計ソフト)
・Alphabet(インターネット広告)
などの様です。

これらの銘柄に投資することで、
3年間で192.48%。年率43.01%のリターンです。

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更に長期で見ると、
2015年3Qから21年2Qまでに、
・Whale Rockは594%
・SP500は124%
のリターンをもたらし、4倍以上の差があります。

ここからは、Whale Rockが具体的にどの様な企業に投資しているのかを調べます。


■上位50銘柄の構成比率

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特定の銘柄に大きく偏っているというわけではなく、気に入った業界の優良企業をまとめ買いしています。

業界に関しては、Whale Rockのコーポレートサイトにも記載されている通り、Technology, Media and Telecomが中心です。

・成長産業に投資することによる、リターンの追求と、
・分散投資による、リスクヘッジを、両立している、
典型的な例です。

※参考 Whale Rock Capital Managementのコーポレートサイトです。


■上位50銘柄の成長性指標

◎売上高成長率

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2019年から2020年にかけての売上高成長率です。
概ね100%を超えていまして、
中央値は145%です。

※なお、「ここでいう、145%とは、前年と比べて売上が45%増加した」という意味です。

45%成長ってどれくらい凄いの?
っていうイメージを持つために図を用意しました。
以下が、SBI証券の米国株スクリーニングにおける売上高変化率の分布です。

3672社ある中で、45%以上なのは422社に絞られます。
上位11%となるので、
市場全体として見ても、トップクラスのグロース株に投資していることが分かります。

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■上位50銘柄の利益率指標

◎粗利率

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直近12ヶ月の粗利率の中央値は58%でした。

◎営業利益率

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営業利益率の中央値は▲5%でした。
全体的には、赤字の企業が多いみたいです。

なので、
・製品やサービスの提供価格は、原価を58%上回っており、
 提供物に対する対価はしっかり頂ける事業を構築済みだけど、
・人件費や広告宣伝費、研究開発費などの、
 販管費まで含めると▲5%の赤字になってしまう状態。
・とはいえ、▲5%なので、この調子で売上が成長し続けられると、
 収益化に到達することが見えている
様な企業を中心に投資していることが分かります。



■上位50銘柄の財務健全性指標

◎DEレシオ

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DEレシオの中央値は1.0倍でした。
負債と純資産が丁度1対1の割合で、財務健全性は良いです。

◎流動比率

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視点を変えて流動比率で見てみても、中央値が3倍で、極めて財務健全性が高いことが分かります。

・利益を出せていない成長企業へ積極的に投資するリスクは取るけど、
・財務健全性もチェックし、リスクヘッジしていることがわかります。


■上位50社の割安性指標

◎PSR

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利益率指標で見た通り、Whale Rockが投資している企業では、営業利益以下では収益化できていない所が殆どです。

その為、PSR(売上に対する株価)を見ます。
PSRの中央値は16.8倍でした。

以下が、売上高成長率と同じく、SBI証券の米国株スクリーニングの図です。
PSR16.8倍以上は603社でした。
PSRで見た場合でも、上位16%の成長企業に集中投資していることが分かります。

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■同様条件で日本企業をスクリーニング

Whale Rockがどの様な企業に投資しているのかが、
概ね理解できた為、
試しにこれを、日本市場でスクリーニングしてみます。

・売上高3年平均成長率:30%以上
・粗利率3年平均:40%以上
・流動比率:200%以上
・自己資本比率:50%以上

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利益が出ていない企業もあるので、PBRの高い順に並べてみると、
・ラクス
・ビザスク
・弁護士ドットコム

といった企業が並び、
Whale Rockが投資している企業との類似性を感じます。

ここから更に個別企業の、
・売上成長余地
・ビジネスモデル
・市場シェア
・経営陣の優秀さ
を選別して行けば、
良い投資先を見つけることができるかもしれません。


■まとめ

21年2Q時点の過去3年において、最高水準のリターンを出した、
Whale Rockの投資先には以下の傾向がある事が分かりました。


成長産業に投資することによる、リターンの追求と、
分散投資による、リスクヘッジを両立している


市場全体の中でも、トップクラスの成長企業に集中投資


粗利では黒字を達成しているが、
営業利益以下は赤字傾向。
ただし、もう1段階の売上成長で営業利益黒字化の道筋が見えている企業に投資


利益の出ていない成長企業に投資するリスクを取る代わりに、
DEレシオや流動比率といった、
今現在の財務健全性指標を重視する指標が良い企業に投資対象を絞る。
というリスクヘッジをしっかりと行っている。


利益が出ていない企業が多いので、
PERやEV/EVITDAといった、今現在の利益を根拠とした、
企業価値評価は向いていない企業に投資している。

代わりにPSRで計測すると、
市場全体からすれば、
割高感の強い企業に集中投資していることがわかる。
投資先企業の将来の収益拡大に強い自信を持っていることが伺われます。


■気になったこと:ヘッジファンドのベンチャーキャピタル化

未公開市場で時価総額を伸ばし続け、ユニコーンと呼ばれる企業が増えています。
それは短期的な収益化を目指さずにプロダクトの価値向上を優先する、ユニコーン企業やベンチャーキャピタルに取って、
未公開市場の方が、利害関係者が少なく、長期的な視野を持って経営をしやすいからだと言われています。

しかしながら、今回、Whale Rockの投資先を見ると、その投資先にはユニコーンと同じく、短期利益よりも将来価値の最大化に心血を注いでいる企業も含まれている様に見えました。

この事から、ヘッジファンドは、リターンの追求の為に、ベンチャーキャピタル的な視点を持って、公開市場で取引し始めているのかと思いました。

また、この様な動きは他ヘッジファンドの事例(タイガー・グローバル)にも見受けられます。

この様な公開市場の動向自体は、
・利益度外視の価格形成、というリスクもありますが、
・一般の個人投資家が投資できる選択肢の広まりという、
 メリットもあると思います。


■懸念点

Whale Rockの投資戦略が上手く行っているのは、
銘柄選別の上手さもあると思いますが、
いくぶん、低金利な市場環境というマクロ経済の追い風もあると思いました。
市場に沢山のお金が出回り、安全資産の価格がパンパンに膨れ上がると、
リスク資産にしか行く場が無くなってしまいます。
この状況では、
一般的には「利益の出てない・高成長企業」に資金が集まりやすくなります。

金融緩和の縮小局面では、現在のポートフォリオ構成が痛手になるかも知れません。

とはいえ、過去、Whale Rockが圧倒的な成果を出して来たという事実は変わりません。
これは、他の投資家と違って、Whale Rockが、より確からしい未来を見据える能力があったからだと思います。

Whale Rockが、
今後の経済状況に合わせて、未来を想像しながら、
どうポートフォリオを調整するのか、継続的にウォッチしたいと思いました。



今回の投稿は以上です。
今後も投資に役立つ内容を投稿して行く予定です。

調査要望の企業やファンドがあれば、
コメント下さい。

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