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日曜日は、いつもデートの前日だった。

初夏の日曜日の昼下がり。
徐々に傾いていく陽を眺めながら、「ああ、明日からまた仕事か」とふと思った。そしてすぐに、自分の感情に驚き、戸惑った。

社会人3年目、はじめて日曜日を憂鬱に感じていた。

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新卒の頃、休日の夜はだいたい大学の友人か会社の同期と遊んでいた。「明日から仕事かあ。行きたくねえ」と嘆く友人たちになんとなく相槌を打っていたけれど、私はまったくそんなことを思わなかった。理由は至って簡単なものだった。

OJTが始まり、担当についてくれた先輩に一目惚れした。
4歳の歳の差、淡々としていて仕事とプライベートを分けている人だったから、休日に会いませんかなんてとてもじゃないけれど言えなかった。私が先輩と会えるのは職場だけだった。

だから、日曜日の夜はとても幸せだった。明日は先輩に会える。朝先輩が早めにきたら、喫煙所で会ったら、退勤が被ったら、なにを話そう。土曜日に読んだ本の話をしようか、雑誌で見た美味しそうな居酒屋に誘ってみようか、日曜日に髪を切ったけれど気付いてくれるだろうか。金曜日の飲み会でだいぶ酔っ払ってしまったけれど、変な絡み方してないだろうか。そんな期待と不安をぐるぐると頭の中で考えながら、眠りについた。

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私にとって、日曜日は仕事の前日ではなく、デートの前日そのものだった。明日はなにを着ていこう、会ったらなにを話そう。なにを言ったら笑いを誘えるかな、なにをしたら褒めてもらえるかな。なにをしたら少しでも好きになってもらえるのかな。月曜の朝は、決まってアラームより早く目が覚めた。

土日も大型連休も長期休暇も、ずっと最終日を心待ちにしていた。
自然と仕事も楽しめたし、なによりも好きな人に会えた。

今年の春、先輩は転職し、職場ですら会えない存在になった。
いつのまにか、日曜日が私にとって楽しみなものでもなくなっていた。

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3年目の日曜日の昼下がり。
あの頃の自分にとって、日曜日がこんなにも特別な時間だったことを今思い知った。当時はまったく意識していなかった、幸せな時間。

幸せを感じる瞬間は、2つあると思っている。今まさに「幸せだなあ」と思うときと、立ち止まって振り返ってみて「幸せだったな」と気付くときだ。

社会人になって2年間の日曜日の夜は、私にとって特別で幸せな時間だった。

目先の瞬間的な幸福感も大切だけれど、振り返るといつでも心温まるような、宝物みたいな幸せもいいものかもしれない。

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