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10周年記念公演「アオハルにシャッター」終演しました

終わってしまった。

Twitterでも散々アオハルについて呟いているんだけど、まだ全然終わってしまったことが実感できなくて、なにも手につかなくて、落ち着かなくて、紅茶を飲んでも味がしないし、ひたすらに寝っ転がることしかできなくて。
そうなると、やっぱり私には言語化して気持ちを整理することしかできないんじゃないかなと思うので、つらつらと書き連ねていこうと思います。
「アオハルにシャッター」は、劇団AQUA10周年という節目に、今この瞬間に存在する団員達のためだけに書いたもので、脚本を公開するつもりはありませんので、実質これがアオハルの思い出語りということで。

10周年の脚本を書くことになったとき。
今までで一番いいものが書きたいと思った。
私には、10周年という言葉が重くて重くて、重すぎて、自分自身の思い入れもそうだし、団長や団員の思い入れも相当なものになると思って。それが私にはとてつもなく恐ろしくて、満足のいくものが書けなかったときを思うとどうしようもなくて。これぞ10周年、というお話が書きたかった。それには中途半端な題材じゃダメで。

10年という数字が関係するお話にしよう、と考えたときに、すぐに思いついたのが「10年前と現在を行き来するお話」だった。
それで、10年前のお話を書くのなら、団長がずっとやりたいと言っていた学生の青春ものにしようと思って。
そこまで考えたときに、脳裏にかすめたものがあった。

そもそも、劇団AQUAはどういう経緯で発足したのかというお話を先にさせてほしい。ものすごくさかのぼるし、記憶もあやふやだけど。
私は中学生のとき、自分が嫌いすぎてどうしようもなくて、いろんな人物の人生を追体験できる(と当時は思っていた)演劇がやってみたくて、演劇ならこの自分の狭い視野から抜け出して、広い世界が見られるんじゃないかと思って。高校受験をするときに最優先事項で「演劇部の活動が活発な高校」を選んだ。私の志望校は、私の学力でも推薦でなんとか受験することができる偏差値で、部活一覧の演劇部のところに◎がついていて。学校見学に行ったら、学校の雰囲気が長閑でやわらかくて、空気感がよくて。一緒に見学していた母も雰囲気がいいねと言っていて。ついでに、高校の学舎の階段を下りながら制服のリボンタイをシュルっと結っている女の先輩がかっこよかったので、この学校にしようと思った。
入学して早速演劇部に見学に行って、ゆる~い雰囲気の先輩たちと同級生が出迎えてくれて。まぁまずはごはんでも食べようよ、と学食に連れて行ってくれて、私は確かラーメンを食べたんだけど、中学生までは給食だったから、初めての学食で浮足立っていて。先輩たちが一口交換しようよみたいに言い出して、あ、この人たち初対面のわたしにバリア張ってないんだって思った。その頃までの私は心を閉ざしていたから、この人たちがバリアを張っていないことに内心ものすごくびっくりしたことを覚えている。
それからは早かったな。私は、ずっとやりたかった演劇がやっとできることが嬉しくて、夢中で、途中諍いもたくさんあったし、迷惑もたくさんかけたけど、高校一年生の夏、顧問の先生が秋の大会のためにと持ってきた脚本をみんなで読み合わせした。

タイトルは、「青春デンデケデケデケ」。

これがすべての始まりだったんじゃないかと思う。
あまり経緯を覚えていないんだけど、確か、2年生の先輩たちが部活のほかにバンドをやってるとかで、せっかくだからバンドのお話をやろうとなったのかな。
デンデケは、元は小説で、顧問の先生が高校演劇として上演できるように脚本を編集してくれたものだった。
内容は、バンドをやるのは不良だけと言われていた時代に、ロックバンドに憧れた高校生の主人公がひとりひとりバンドメンバーを探して、ロックバンドを結成して、文化祭でのライブを成功させるという王道の青春物で。大人になった主人公とそれぞれの道を進んだバンドメンバーたちが再会して青春を思い出す場面があって。一瞬の輝かしい青春を描いたお話だった。
私たちは、夏から練習を始めて、とんとん拍子で地区大会、県大会を抜けて、関東大会への出場が決まった。このときが、私の人生の中で一番青春していた瞬間だったんだ。残念ながら全国大会への切符は手に入れることが出来なくて、関東大会が終わって、みんなで部室に帰ってきたとき、夢からさめたような気持になった。ディズニーランドから帰ってきたときの心境によく似ているなと思ったのを覚えてる。夢みたいな時間だった。

それから時は過ぎ、10年前。2009年10月16日。
当時大学生だった私は、何の目標もなくなんとなく入った大学で、平々凡々な大学生活を送っていた。高校生のときの部活が楽しかったけど、大学では夢中になれるものが見つからなくて、ほどほどに勉強して、バイトをしたり、友達と遊んだりの本当にふつうの大学生活を送っていた。でも胸に焼き付いていた青春への郷愁が忘れられなくて。
そのとき、高校演劇部のときに一緒に関東大会まで出場した先輩たちから、また演劇やらない?って、劇団を立ち上げようと思うんだって、声をかけてもらえたのが本当にうれしかった。高校演劇が楽しかったなって思ってたのが私だけじゃなくて、先輩たちも関東大会のときの熱い思いをまだ持っていていくれたことが、また大好きな高校演劇部のメンツで演劇ができるんだっていう事実がひたすらにうれしかった。

「青春デンデケデケデケ」は、劇団発足当時のメンバーにとって、青春そのものだった。今もまだ、みんな、ずっとその時の青春に縛られたままで。この10年間、飲み会の席やなんやで、何度も何度も、あの頃は楽しかったよねって話を飽きるほど繰り返して。関東大会まで行けたっていう過去の栄光にすがって。それは意味のないことなんだって、気づいていたけれど。

だからこそ、今、私は、「青春デンデケデケデケ」を思い出せるような脚本を書いた。
それが、「アオハルにシャッター」。

劇団発足当時のメンバーを狙い撃ちにして刺すようなお話を書いてやろうと思った。もちろんそれは自分自身も例外じゃなくて、だからこそ書いている間もすごく苦しくて何回も泣いて。
高校時代、部活が授業よりも何よりも一番大事で。授業が全部終わってからが本番で。部活が始まるまでの間に、小腹を満たすために自販機でパンを買って食べたよね。リプトンの紅茶、皆飲んでたよね。あかねちゃんは、リプトンのシールを集めてキャリングケースにびっしり貼ってたよね。部室までの階段、急すぎて何度も足を踏み外しかけたよね。デンデケの劇中で使うポスター、みんなでクレヨンで塗りたくったよね。部室にはだれが持ってきたのかもわからない壊れたソファーがあったよね。調光室の壁に、知らない世代の先輩たちの写真が貼ってあったし、私たちの写真もそこに貼ったよね。部活からの帰り道、駅まで歩いている途中、皆でマックスバリュやスリーエフに寄り道して買い食いしたよね。肉まんとか焼き鳥とか食べたよね。帰り道見つけたマンションを見て、皆でそこで生活できたら楽しそうだよねって話したよね。夕焼けの帰り道、部活が終わってあんなに疲れてたのに、みんな話は尽きなくて。
あかねちゃんが、大人になりたくないな。20歳になる前に死にたいなって言ってたの、冗談だってわかってても私は少し寂しかったな。
その思い出のどれもが、キラキラして輝いて見えたよね。今もずっと。
苦しいこともたくさんあった。辛いこともたくさんあった。ケンカもいっぱいしたよね。でも、思い出してみるとたのしかったっていうのが一番大きくて。戻れないことがつらくて。絶対に戻れないんだ、もう過ぎてしまったことだから。でも私たちはずっと思い出に縛られたままで。

劇団を始めてからも、楽しいこともあったけど、もちろん辛かったり苦しかったり悲しいこともたくさんあったよね。離れていくメンバーも居て、でも私たちはいつも見送ることしかできなくて。でも、そんな辛く苦しい演劇にずっとすがり続けているのはさ、みんなでこうして夢中になって一つのものを作り上げることそのものに青春を感じるからだよね。
だからこそやめられなくて。10年も続けてしまった。
全てがその積み重ねだった。
だからわたしはこの脚本を書くことしかできなかった。
初佳ちゃんは、あの頃のわたしそのもので。
央君には、インコやトムの姿を重ねて。今の私自身の姿さえも重ねて。
千歳は、あの頃のあかねちゃんそのものだった。
明君も、潤君も、香苗ちゃんも、夕子ちゃんも、李依ちゃんも、成実ちゃんも、チャーミーも、それぞれのキャストを重ねて、この人に一番やってほしい人物を描いた。彼女たちの青春時代は、私は知らないから、憶測でしかないけれど。

高校生の初佳ちゃんや大人になった央君のセリフは、今まで私がずっと感じていたけど言語化して表に出すのは避けていた言葉たちだった。醜くて、汚くて、閉じ込めておきたい言葉たちだった。それを初めて言語化して、形にして。
観に来てくれたお客さんに、「このお話は里見ちゃんなんだなと思った」って言われたとき、泣きそうになるのをこらえた。私が思っていた以上に、初佳ちゃんや央君に共感してくれるお客さんが多くてうれしかった。初佳ちゃんなんてお客さんに嫌われちゃうんじゃないかと思っていたんだけど。
初佳ちゃんが泣いたとき、央君が自分自身の感情を吐露したとき、一緒に泣いてくれたお客さんが居た。あなたたちのすすり泣く声、舞台上の私たちにも聞こえていたよ。共感してくれて、心を寄せてくれて、ありがとう。私のどうしようもない気持ちに寄り添ってくれてありがとう。

あなたたちのおかげで、高校生だった当時の、青春にしがみついていた私に、よかったねってやっと言ってあげられるような気がするよ。

観に来てくれて、本当に本当にありがとうございました。

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