【沙訳】AP通信 パーム油にまつわる倫理の問題

以前書いた石鹸シャンプーに関する記事、

ありがたいことに何人かの方にお気に入りにして頂いたりしてるみたいなのですが、この中でパーム油配合の石鹸を無責任におすすめしてしまったことが自分の中で引っかかっていて。
マリウスファーブルがパーム油の使用を段階的に取りやめつつあるというのは記事を書いた時点で耳にしてたので、問題についてなんとなく把握してはいたんですが、去年の末にかけてAP通信が特集した一連の記事がまあしんどくて。

この記事の他にも同テーマの記事がいくつも出てるので、ご興味あればそちらもどうぞ。

自分としては説教くさくなるのもイヤだし、搾取のシステムに加担する側である以上、胸を張ってエシカル方面に意見する資格は自分にはないと思ってるのでだいぶ長いこと逡巡したんですが、自分が無神経におすすめしてしまったものはこういう状況を経て生産されてるのかもしれないよという反省もこめて沙訳してみた。
自分ひとりが使うのをやめたってどうなるわけでもなし、そもそもエシカルを謳う企業含め、あらゆる原料ルートが不透明なので完全に使うのやめるなんてできるのかという話だし、しかも単純にやめることが良い結果につながるのか甚だ疑問でもあり(外野の脳天気な転換の短期的影響で割を食うのはいつも末端だし、その影響が長期的に上の方に届くまでに、末端は今以上の苦しみにどれだけ耐えないとならんのかという)、でも自分個人としては心にとめ続けておきたいなあということで。
とりあえず化粧品系は引き続き大半自作でいいやという考えは揺るぎなく。

全訳は一応できてるのですが、著作権その他的に載っけていいのかよく分からないのと、必要とはいえショッキングな表現をあまり載せたくなかったので今回は沙訳です。需要があればお伺いを立てて全訳載っけるかもしれません。


レイプと虐待 — 大手化粧品メーカーとパーム油農園のつながり

マージィ・メイソン、ロビン・マクダウェル
2020年11月18日

インドネシア スマトラ (AP通信) — 口に手をきつく押し当てられて、16歳の少女は叫ぶことができなかった。叫びを耳にするような誰かも周りにはいなかった。世界有数の化粧品メーカーに富を供給するインドネシアのパーム農園、その高い樹々の狭間で、上司がどうやって彼女をレイプしたのか、少女は語った。男は斧を喉に突きつけて彼女を脅した。誰にも言うな、と。

別の農園で、オーラという女性は発熱や咳、鼻血の症状を訴える。保護具なしで危険な農薬を散布する仕事に、何年も携わってきた。福利厚生もなく、1日たった2ドルの賃金では、医者に診てもらうこともできない。

数百キロ離れた場所では、若い妻のイタが、2回とも第3期で流産した子供を悼んでいる。解雇されるのを恐れ、妊娠中でも、自分の体重の何倍もある荷物を引きずって運ぶ仕事を毎日続けていたのだ。

彼女たちは、パーム油産業で命を削るように働く、何十万もの無名の娘、母親、祖母たちの一例だ。彼女たちが働くインドネシアとマレーシアの広大なプランテーションでは、世界で最も広く使用されているこの植物油脂の、実に85%が生産されている。

パーム油はポテトチップからサプリメントやペットフードなど、ありとあらゆるものに含まれている。ロレアル、ユニリーバ、P&G、エイボン、ジョンソン&ジョンソンなどの巨大メーカーに原料を供給するサプライチェーンにも、パーム油は行き着いている。5300億ドルを売り上げる化粧品業界は、世界中の女性たちが満ち足りて美しくいられるよう手を貸している。

アソシエイテッド・プレス(AP通信)は、パーム油生産の現場における女性の過酷な待遇について、世界で初めての大規模調査を行った。こうした中には、言葉による嫌がらせからレイプの脅迫まで多岐にわたる性的虐待など、公にされていなかったものも含まれる。これは、人身売買や児童労働、公然と存在する奴隷のような待遇など、2つの国に蔓延する人権侵害を明らかにする、パーム油産業に関する幅広く詳細な調査の一部だ。

「ほとんどの農園が労働に関する問題を抱えています」。インドネシアの非営利団体、サウィト・ウォッチのホトラー・パルサオランはこう話す。団体はパーム油産業における人権侵害について広範囲な調査を行っている。
「しかし女性労働者をめぐる状況は、男性のそれよりはるかにひどいものです」

AP通信は、マレーシアとインドネシアの少なくとも12の企業で働く36人もの女性たちにインタビューを行った。以前の報道によって労働者たちが報復を受けるケースがあったため、女性の名前には本名の一部や仮名を使用している。彼女たちは自分の宿舎やホテル、カフェや教会などでAP通信の女性記者と夜遅くに隠れて会い、自由に話ができるよう周りに男性のいない環境で取材を受けた。

___

記者たちは他にも、労働者、活動家、政府関係者、弁護士など200人近くにも取材した。そのうちの一部は、とらわれていた女性たちが逃げ出す助けをしたことがあるといい、虐待は日常的に起こっているともいう。

___

インドネシアは世界最大のパーム油生産国だ。女性支援省によれば、約760万人の女性が農園で働き、その数は労働人口の約半分にものぼる。より小規模なマレーシアでは、農園で働く女性の数をつかむことはより難しい。公的な書類にのぼらない移民が多くを占めるからだ。

AP通信の調査からは、どちらの国でも、ひとつの家族から何世代もの女性が農園労働に携わってきたケースが見いだされた。一部は読み書きを習う機会もないまま、落ちた実を集めたりナタで枝葉を払うなど、両親とともに子供の頃から働き始めたという。

インドラという名だという女性のように、10代で学校をやめた人たちもいる。世界最大のパーム油生産企業のひとつ、マレーシアのサイム・ダービー農園で彼女は働き始めた。数年後、上司が彼女に嫌がらせを始めた。「俺と寝ろ。子供を産ませてやる」と言われたり、彼女の後をつけ回し、トイレにすらついて入ってきたという。

現在27歳で、インドラは農園を離れることを夢見ている。しかし教育も他のスキルもなく全く新しい人生を築くのは容易なことではない。1900年代の始めに当時赤ん坊だった曾祖母がインドを後にして以来、彼女の家系の女性たちは同じマレーシアの農園で働き続けてきた。両国の多くの労働者同様、農園が提供する粗末な住宅を離れるだけの金は彼らにはない。その「住宅」は大抵、水道設備もない、何列もの壊れかけた小屋だ。

この何世代にも渡る苦難の連鎖が、低賃金で一定の労働力を確実に維持し続けている。

「これが普通のことになってしまっているんです」とインドラは言う。「生まれたときから今まで、私はずっとプランテーションにいるから」

____

この20年で4倍にもなった需要を満たすため、新しい労働力は常に必要とされている。多くの場合、インドネシアの女性労働者は「臨時」労働者だ。日雇いで、賃金は保証されていない。重くトゲのある果実の房を収穫したり、精製工場で働くなどのフルタイムで安定した仕事に就けるのは、ほとんど全てが男性だ。

ほとんどの農園において男性は上司でもある。それは性的な嫌がらせや虐待につながることもある。

祖父ほども歳が上の上司にレイプされた経験を語った16歳の少女は、家計を助けるために6歳からプランテーションで働き始めた。

彼女が襲われた2017年のその日、上司は彼女を農園の外れに連れていったそうだ。上司が樹からパームの実を切り取り、満載にした手押し車でその鮮やかなオレンジ色の実を運ぶのが彼女の仕事だった。突然、上司は彼女の腕をつかんで胸を探り始め、地面に押し倒した。事が終わると、喉に斧を突きつけたという。

「殺すと脅されました」。細い声で彼女は言った。「家族も皆殺しにしてやる、と」

それから更に4回もレイプが続いた9か月後の現在、彼女はシワだらけの2週の赤ん坊の隣に座っている。子供が泣いてもあやそうともしない。その男の子の顔を見るのすら苦しげだ。

家族は警察に届け出たが、訴えは取り下げられた。証拠がないからだと。

「罰を受けてほしい」。長い沈黙の後で彼女は言った。「逮捕されて罰せられてほしい。あいつは子供になんの関心も払わない。何の責任も負っていない」

インドネシアのある10代の少女は、性的奴隷としてマレーシアへ連れて行かれ、ジャングルに張ったビニールシートの下で暮らす酔った農園労働者たちに繰り返しレイプされた後、クラミジアに侵された状態で逃げ出した。昨年世間の怒りを引き起こした事件は、広く明らかになった稀なケースだ。インドネシアの農園内に設立された教会で働いていた女性聖職者が樹の間に縛りつけられ、2人に暴行を受けたのち、首を絞めて殺された。2人の男は終身刑を宣告された。

インドネシアの一部には虐待や差別から女性を守る法律があるが、女性支援・児童保護省のラファイル・ワランギタンは、児童労働や性的な嫌がらせなど、AP通信が明らかにした多くの問題について認識しているという。

「改善のためにより力を尽くさなくてはなりません」とワランギタンは言う。政府の取り組みの前にはまだまだ長い道が待ち受けているとも。

マレーシアの女性・家族・地域開発省は、女性労働者の待遇に関する訴えを受けたことは過去一度もなく、コメントするような事実もないという。マレーシアパーム油組合の組合長、ナジーブ・ワハブは、労働者たちは国の労働法によって守られており、彼らには不服を申し立てる権利があると話す。

プランテーションでの生活の複雑な事情をよく知る者たちによると、性的虐待の事実が世間に注目されることはまるでなく、女性たちも自分たちにできることなどほとんどないと思いこんでいる場合が多いという。

化粧品やパーソナルケア製品メーカーの多くは、女性労働者たちの苦しみにも沈黙したままだ。しかしそれは知らないからではない。

こうした懸念は、持続可能なパーム油に関する円卓会議 (RSPO) の2004年の設立につながった。会議は、労働者保護に関する援助など、エシカルな製品の後押しと認定を行う。メンバーは生産者、買取企業、取引企業、環境監査団体などからなる。しかし、過去10年にインドネシアとマレーシアで報告された100件近い申立ては、最近になるまで労働に関する問題としては注目されてこなかった。女性に関して言及したものはほぼ皆無だ。

AP通信は、記事の中で名前の上がった全ての化粧品、パーソナルケア製品メーカーの代表者にコンタクトを取った。いくつかの企業はコメントを拒否したが、ほとんどはパーム油の使用とその供給元について否定し、年間8000万トンも製造されるパーム油の全体量に比べれば自社がいかにわずかしか使用していないかを示そうとした。地域の非営利団体と協力していると語り、持続可能性と人権保護に努めているとした自社サイトの記述を提示する企業や、工場や供給元の透明性に関する企業努力に言及する企業もあった。

アメリカ合衆国の税関記録、製品の原材料リストや、生産者、貿易業者、買取企業などによる最も最近のデータをもとに、AP通信はパーム油の供給路をめぐる調査を行った。先進国のメーカーと、メーカーに原料を供給するサプライチェーン、それら原料を精製する工場、その工場で作られるパーム油とその関連原料の流れをたどるためだ。その中には、取材を受けた女性たちがレイプ被害に遭い、少女たちが身をすり減らして働いている農園から仕入れを受けるサプライチェーンの名もある。

トムズ・オブ・メーンやキールズなど、エシカル意識の高い顧客に支持されるブランドも人権侵害と無縁ではない。どちらのブランドも親会社のコルゲート・パルモリーブやロレアルといった大企業を通じてサプライチェーンとつながっている。バス・アンド・ボディワークスの主要原料供給元は、世界最大のパーム油取引企業のひとつ、カーギルだ。

カバーガールブランドなどで世界展開し、カイリーコスメティックスなどZ世代の新進ブランドとも提携しているコティ社は、AP通信が繰り返し試みた電話とメールでの取材に応じようとしなかった。クリニークやAVEDAを抱えるエスティローダー社は、RSPOの記録が抱えるトレーサビリティの問題を認識しているという。どの製品にパーム油が使用されているのか、その供給元はどこなのか、というAP通信の質問には回答がなかった。

この2社に加え、資生堂と、バーツビーズを所有するクロロックスも、精製工場や原料供給元の名前を明かすことを拒んだ。クロロックスはAP通信が明らかにした問題について「信じられないくらいにひどいこと」とし、供給元に申し立てを行うつもりだとコメントした。

ジョンソン&ジョンソンは原料の精製工場のリストを公表しているが、自社の代表的な製品であるベビーローションにパーム油関連原料が含まれているのかどうかについてはコメントを拒否した。

___

女性労働者たちがさらされている状況は、業界のリーダー企業が声高に謳う女性応援のメッセージとまさに対象的だ。世界有数の化粧品メーカー、ロレアルやユニリーバは、1500以上もの精製工場から原料を仕入れる、世界最大のパーム油の買い手のひとつだ。

ユニリーバの有名な石けんはこう謳う。「美しさはすべての人のためのもの。それがダブの信念です」。ロレアルは性的な嫌がらせの撲滅に努めていると語る。なぜなら「わたしたちみんなに価値があるから」。

化粧品業界は来る5年で8000億ドル規模に到達することが予想されている。大手ブランドや急速な成長を見せるセレブやインディーによるブランドは、300ドルのアンチエイジングクリームやグリッター入りのアイシャドウが、サステナブルで人権侵害とは無縁の労働環境で作られていると誇らしげに語っている。そうである証拠をほとんど全く示さないまま。

東南アジアの過酷で蒸し暑いプランテーションで働く女性たちの存在は別世界のことのようだ。ある女性は背中に13kgにもなるタンクを背負って危険な農薬を散布する。その量は1日に80ガロン(約300リットル)。バスタブ1杯を満たすのに充分な量だ。

「生きるのはとても苦しいです」とオーラは言う。彼女はインドネシアで日雇い労働者として10年間働いてきた。日々思い荷物を持ち上げるせいで、毎朝起き上がるとき身体が痛むという。「農薬を散布したあと、時々鼻血が出ることがあります。殺虫剤と関係があるのだと思います」

オーラはマスクをしていない。暑くて息ができなくなるからだ。彼女の勤める企業は日雇い労働者には福利厚生を提供していない。彼女には医者に診てもらう金もない。

オーラたちが散布する農薬のひとつ、パラコートは、EUや他の多くの国で使用が禁止されている。パーキンソン病の発症率を増加させるなど、様々な健康被害が疑われるからだ。

代表的な除草剤であるラウンドアップの原料、グリホサートも広く使用されている。ラウンドアップの親会社のベイヤーは、今年のはじめ、米国内で起こされた数十万件もの訴訟に終止符を打つため、100億ドルもの支払いを行うことに合意した。訴訟は、ラウンドアップががんなど深刻な疾患を引き起こしたと訴えるものだ。

農薬を毎日散布するパーム農園労働者の一部は、手足の指の間に現れたクモの巣状の生傷やボロボロになった爪を記者に見せた。白く濁ったり充血した目、めまいや息苦しさ、目のかすみを訴える人たちもいた。活動家からは、労働者が失明したケースも報告されている。

「農薬が揺れてこぼれると、局部にまで伝ってしまうこともあります。ほとんど全ての女性がヒリつきや炎症に悩まされています」とマロドットは言う。彼女の5人の子供も、父親のノルマを手伝うために同じ農園で働いている。「仕事が終わるまでそのまま働き続けないといけないんです。周りには男性がたくさんいるので、その場で洗うことができませんから」

インタビューを受けたほとんどの女性たちが、局部の痛みや妊娠出産に関わる健康が脅かされていることを訴える。

子宮脱に苦しむ女性もいる。繰り返ししゃがんでは重い荷物を運ぶせいで、骨盤底部が弱ってしまったためだ。スカーフや古いオートバイのタイヤを股にきつく巻きつけ、固定具にしているという。痛みがひどすぎて、仰向けに横になって足を浮かせているしか楽になる方法がないという人もいる。

インドネシア政府は保険制度を開始したが、多くのパーム農園労働者には医療へアクセスする手立てがないままだ。仮にごく基本的なケアが提供されたとしても、日雇いの女性労働者は対象に入っていない。一番近くのクリニックへはオートバイで一日もかかる。だから大部分の労働者は、体調が悪いときには痛み止めや軟膏、民間療法に頼っている。

AP通信の調べで恐ろしい話が裏づけられている。妊娠中のインドネシア人の女性が、捕まっていた農園から逃げ出したケースだ。農園はマレーシアの州が所有する企業のもので、フェルダというこの企業は、世界最大のパーム油製造企業のひとつだ。女性はジャングルの中で出産し、助けられるまで食べるものを探し回っていた。アメリカ合衆国税関・国境警備局は9月、フェルダと強い提携関係にあるFGVホールディングス・ベルハドからのパーム油の輸入を全面的に禁止した。プランテーションでの児童労働や強制労働の他、様々な人権侵害の兆候が認められたためだ。

AP通信がインタビューした女性たちは、化学物質を取り扱ったり吸い込んだりする危険な仕事が、自分たちが経験した不妊や流産、死産の原因なのではないかと考えている。

イタも、健康な子供を産めないことと自分の仕事には関連があると言うひとりだ。仕事に呼ばれなくなるのを恐れて、2回の妊娠を上司に隠したことがあるという。家には養わなければならない子供がすでに2人いる。日に5ドルの仕事をやめるという選択肢はなかった。一方、安定したフルタイムの仕事に就いている女性には、3か月の出産休暇が認められている。

日ごとに大きくなるお腹を抱えて、毎日、イタは背骨が折れそうなほど重い荷物を農場じゅう背負って運び、1日に400kgの農薬を散布した。赤ん坊は2回とも第3期で流産した。そして、保険に入っていないイタのもとには、払えない額の医療費の請求が残った。

「最初に流産したとき、医者は赤ん坊を引っ張り出さないといけませんでした」とイタは言う。彼女は母親について15歳からプランテーションで働いてきた。「2度目のときは7か月での流産で、赤ん坊は深刻な状態でした。保育器に入れられて、30時間後に死んでしまいました」

「働き続けたんです」。彼女は言う。「子供が死んでも、休むことはありませんでした」

All contents © copyright 2021 The Associated Press.
All rights reserved.

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?