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"奇襲"内閣再改造か 松本剛明総務大臣就任から考える

◎ 1ヶ月で3大臣辞任 辞任ドミノは止められない

 ASEAN、G20、APECといった国際会議に出席した今回の外遊。岸田文雄総理大臣は、外遊前に、「死刑のハンコ」失言の葉梨康弘法務大臣を "更迭"したが、その外遊から11月19日の深夜に帰国すると、20日には政治資金問題が指摘されていた寺田稔総務大臣を"更迭"した。

  そもそも寺田大臣の政治資金問題とは何が問題だったのか。
 まずは、葉梨大臣が「死刑のハンコ」失言で辞任したことにかけて言われる、「死者のハンコ」問題だ。関係する政治団体の会計責任者が亡くなっていたのにも関わらず、3年間、届出事項を訂正していなかった。これは7日以内に届け出が必要とする政治資金規正法の規定に違反している。
 また、後援会に寺田大臣が貸し付けた600万円が、返済されたというのにも関わらず、後援会の収支報告書に記載がなかった。こうした政治資金での不備が度々指摘された。
 最悪だったのは、政治資金の所管は総務省であるということである。自らのテリトリーで問題が散見される中で、大臣職を続けることはもはや不可能だった。岸田総理は、国会審議への影響を考え、補正予算の審議が始まる前に、寺田大臣の首を切った。これによって、10月24日に山際大志郎経済再生担当大臣が旧統一教会との接点が問題視され辞任してから、11月11日の葉梨大臣、20日の寺田大臣と、1ヶ月足らずで、第2次岸田改造内閣の閣僚が3人辞任。山際、葉梨と続いていた、大臣の辞任ドミノを止めることは、とうとうできなかった。
 

◎ 後任は松本剛明氏 「悪夢のような民主党政権」で外相を経験 

 岸田総理は、寺田大臣の後任に、民主党の菅直人政権で外務大臣を務めた松本剛明氏を起用した。松本氏は、民主党時代から保守派として知られ、父・松本十郎衆議院議員も自民党の所属であったことから自民党入りが噂されてきたが、2015年に安保法制をめぐって民主党と共産党が連携したことを契機に民主党から離党を表明。2017年には自民党に入党した。
 安倍晋三元総理大臣が「悪夢のような民主党政権」と2019年に発言してから、3年。その「悪夢のような民主党政権」での閣僚経験者が、自民党政権の閣僚に就任するのは初めてのことである。
 この松本氏、岸田政権で寺田氏の降板を受けて急遽登板した総務大臣となったわけであるが、民主党・菅直人政権でも前任の降板を受けて急遽登板した過去がある。2011年、前原誠司外務大臣が在日韓国人から献金を受けていた問題で辞任。当時、岡田克也幹事長を外務大臣に起用する案が浮上したが、岡田氏が菅直人首相の打診を固辞(※1)。これを受けて、外務副大臣の松本氏が昇格する形で、外務大臣に就任した。なお、その後成立した野田佳彦内閣では、松本氏は閣僚を外れている。
 松本氏にとって、2回目となる閣僚就任。前任者の辞任を受けて緊急登板するのも2回目である。 

◎ 麻生副総裁へ配慮 閣内に岸田派はたった1人に 

 8月10日に成立した第二次岸田改造内閣。閣僚の出身派閥は、岸田首相を除くと、清和政策研究会(安倍派)が4人、志公会(麻生派)が4人、平成研究会(茂木派)が3人、宏池会(岸田派)が3人、志帥会(二階派)が2人、無派閥が2人、公明党が1人となっていた。山際氏(麻生派)の後任で無派閥の後藤茂之氏、葉梨氏(岸田派)の後任で無派閥の齋藤健氏、寺田氏(岸田派)の後任で麻生派の松本剛明氏が就任したことで、志公会(麻生派)は変わらず4人、宏池会(岸田派)が1人、無派閥が4人となった。閣内に3人いた岸田派は、林芳正外相ただ1人となってしまった。
 岸田総理は「税制や情報通信、そしてデジタル社会推進、行政改革をはじめ、幅広い分野に精通し、閣僚経験もある」と、松本氏起用の理由を述べたが、理由はそれだけではないだろう。例えば、麻生太郎副総裁への配慮だ。岸田総理は、定期的に麻生副総裁、茂木敏充幹事長の3人で、党内情勢等について話し合いをしている。安倍元総理が亡くなって以来、その"三頭政治"の重要性は増しているといえよう。そうした中で、山際氏の辞任によって「3」となった閣僚数を、松本氏を起用することで「4」とし、麻生氏の顔を立てたのである。内閣支持率が低下し続けている中で、党内からの「岸田おろし」の動きを牽制する狙いが透けて見える。
 

◎ 起死回生の手段は内閣再改造 得意の奇襲なるか

  閣内に1人となった岸田派の閣僚人数を大幅に増やす、起死回生の方法がある。それは内閣再改造である。
 政治資金問題で秋葉賢也復興大臣も野党から追及され続けており、更なる大臣の辞任ドミノの筆頭とされているが、そうした懸念材料を一掃するため、そして内閣支持率の持ち直しを目指すため、内閣改造を再度行う可能性が指摘されている。例えば、毎日新聞は、年末年始にかけての内閣再改造の可能性を指摘している(※2)。しかし、こうした報道が出ると、警戒すべきことが出てくる。それは、岸田政権お得意の "奇襲”である。
 「検討」という表現を使うことが多いことから、野党に「検討使」と揶揄されたことのある岸田総理だが、側近らとともに運営してきた岸田政権は、たびたび"奇襲”をかけてきた。
 まずは2021年の衆院選だ。11月に予想されていた衆院選を、10月末に前倒しする"奇襲"を実行。総理就任後まもなくでの選挙のため内閣支持率が高いまま選挙戦に突入。選挙期間の短さに野党が対応に追われる中、組織力で自民党は衆院選を勝ち切った。
 また、2022年8月の内閣改造も"奇襲"だった。9月と予想されていた内閣改造を、8月上旬に断行。早くに内閣改造を行い、旧統一教会との接点が指摘されている閣僚を交代させることで、内閣支持率の低下に歯止めをかけ、政権の浮揚を狙った。 

 岸田政権は政権運営のハンドルをより強くグリップするために、報道等で予想されているスケジュールより前倒しでカードを切る、"奇襲"に出る傾向にある。年末年始と言われる内閣再改造についても"奇襲"に出る可能性は十分にある。とはいえ、8月の内閣改造では特に政権の浮揚は達成されなかったことを踏まえると、政権側が期待する内閣支持率の持ち直しが実現する確率はさほど高くない。
 「所得倍増」を掲げ、宏池会を創設した池田勇人元首相の孫娘を、寺田稔氏は妻に持つ。この寺田氏を核軍縮担当の首相補佐官として重用してきた岸田総理。内閣改造では総務大臣という重要ポストに寺田氏を起用したが、その寺田氏の辞任によって政権は岐路に立たされている。「令和版所得倍増」を掲げて総裁選を勝ち切った勢いは、今の岸田政権にはない。浮揚のきっかけを掴めるか、注目される。
 

引用文献一覧

※1:ANNnewsCH「外務大臣に松本副大臣昇格 「遅い決断」に批判も(11/03/09)」, https://www.youtube.com/watch?v=R8lIzznvReM
※2:毎日新聞「岸田首相、年内にも内閣再改造検討 閣僚相次ぎ辞任で政権浮揚狙う」, https://mainichi.jp/articles/20221121/k00/00m/010/275000c


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