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VTuberと月見バーガーを食べる独身男性の悲哀

30歳にもなって、結婚もせずに僕は一体何をやっているんだ。なんてふと我に立ち返ることもありますが、いいや、ダメだ。独身を貫き1人で強く生きていくと決めた以上、多少のことには目をつむらなければならない。周りから見たら痛々しいかも知れない。僕のことを眺める子供に「こら、見ちゃダメよ」と、どこかの母親が冷たい視線を送ってくるかも知れない。当然、ひと様に迷惑をかけてはいけないが、僕は今にもトチ狂いそうな精神を健やかに保ち、密かに生きていかなければならない。

そうだ、だったら自室でひっそりとVTuberでも見ていればいい。そうすれば誰に迷惑をかけることもなく、自分の世界に閉じこもることができる。調子に乗ってイベントにでも参加しようものなら「オタクきっつ!くっさ!」と、文字通り鼻つまみ者になること必至だ。ならば、大人しく誰の目にもつかない場所にいれば互いにWin-Winではないか。

そんな哀しい独りぼっちおじさんのために、ぺこーらはいるんだよ。一緒に月見バーガーを食べようよ。VTuberと視聴者というのは、実におかしな構図だ。あちら様は、画面の前で熱狂する視聴者の何倍、何十倍もの稼ぎがある。そんなヴァーチュアルな存在に、ファンはなけなしの給料をはたいて投げ銭をするのである。「”ない”ところから”ある”ところへ」富の再分配の真逆だ。まあ、僕はスパチャはしないのですが。

昨晩、ぺこらさんはマックの案件配信をしていた。月見シリーズの食べ比べをしてレビューをするという内容。僕と同じように、彼女を眺めながら月見バーガーを頬張った者も多くいたことでしょう。僕はこれまでアイドルという存在に興味を持ったことがない。だから、アイドルの追っかけをするおじさん達は「娘を応援するような気持ち」でファンをしているのかと思っていた。もちろん、中にはそういう人もいるかもしれない。けれど、大抵の人は違うんじゃないか。アイドルを推すということは、一種の偶像崇拝だ。であれば、その対象は敬うべき存在ということになる。僕も、ぺこらさんに対しては娘を可愛がるという気持ちよりかは、リスペクトの念が強い。彼女はしっかりプロのアイドルをやってのけている。

昨晩も、やはりその意識の高さを窺えるシーンがあった。ぺこらさんは倍月見バーガー、倍チーズ月見バーガー、と順に食べ進め、画面上に食レポを書き残していった。コトが起きたのは2つめのバーガー、倍チーズ月見を食べていた時のことである。

右上の食レポに注目

通常の月見バーガーにチーズが入ったチーズ月見。それを食べて「チーズが入るだけでさらにこんなに美味しくなるってどういうこと?」彼女はそう食レポした。しかし、その直前、実は「チーズが入るだけでこんなに美味しくなるって」という書き出しだったのだ。が、彼女は即訂正した。「さらに」という文言を迅速に追加した。お分かりいただけただろうか。「さらに」という言葉が抜けていると、まるで通常の月見バーガーが美味しくないかのような文章になる。裏でスタッフから指示が入ったか?とも思ったが、それにしては修正対応が速すぎた。あるいは、元から食レポの内容が台本として用意されていたか?その線もありそうだが、食べながらレポ内容を微調整しているシーンもあったので、大まかな枠組みは下準備があったとしても、細かい言い回しは現場の彼女に委ねられていた可能性が高そうだ。だとすると、とんでもない機転ではないか。5万人が同時に視聴している大舞台。案件配信ということもあり通常よりも緊張するでしょうが、その張り詰めた雰囲気を感じさせないどころか、ミスにも冷静に対応する。やはり彼女はプロだ。こういうところが推せるのである。

30歳独身男性がVTuberのファンをしているというだけでも数え役満なキモさなのに、その上こんな早口オタク語りをするだなんて、もう救いようがない。でもこれでいいんだ。僕に残された道は、もうここしかない。推しは推せるうちに推せ。いつか画面上の煌びやかな舞台から消えてしまうかもしれないぺこーら、どうかその日までよろしくね。

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