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第43話「大学生活とバレーボール」

「ねえ、さっきのサスティナブル(持続可能な)ツーリズムの授業だけど、ちょっと悲しくなっちゃった。どうして、人間って短期的な視野でしか物事を考えられないのだろう?」

「うん。俺も同意見だね。リゾート開発をすれば、一時的に観光収入が増えて、地域全体が潤うかもしれないけど、確実に環境破壊が進む。海や川の水が汚染されれば、それが回りまわって地域の人々を苦しめる結果につながるのに。」

「そうだよね。そうやって、美しいビーチやサンゴ礁、自然がどんどん破壊されて行く。やっぱり短期的な損得だけでなく、長期的な視点で環境保護をしつつ、観光地としての魅力を高めて行かないとダメだと思うな。」

カツヒロは学食でクラスメイトとランチを食べながら、午前中の授業のテーマを討論していた。

ノーザンブリア大学のPost graduate diplomaコースの学生は、ニューキャッソルの郊外にあるロングハーストキャンパスで学んでいた。ロングハーストは、街の中心にあるシテイキャンパスからは車で20分程の距離にある。学生達は無料の送迎バスを利用するか、誰かの自家用車をシェアして通学している。

「ここのフィッシュ&チップス、すっごく美味しね。」         韓国人のスンキョンが美味しそうにフライドポテトを食べ始めた。あつあつのフィッシュフライに軽くレモンを絞り、タルタルソースをその上に載せて、食べる瞬間はこの上なく幸せな時間だ。

フィッシュ&チップス

スンキョンは、カツヒロのクラスメイトで同じ年25歳。ニューキャッソルに来て最初に友達になった一人だ。同じテーブルで最年長のポールがサンド一致を食べている。ポールは36歳で、地元ニューキャッソルの出身。社会人として10年以上のキャリアがあったが、もう一度学生に戻って学び直したいという理由でTourisum Management(旅行経営学)を選んだ。

カツヒロ達のクラスは全部で17人。そのうち純粋なイギリス人は5人だけで、残り12人は留学生だ。ここの学部はアジア人に人気が高く、台湾人が5人、タイ人が2人、韓国人と日本人が一人ずつ。残りはギリシャ人、フランス人、スペイン人と言う顔ぶれだ。

カツヒロが大学へ進学した理由は二つある。一つ目は学歴コンプレックスで、2人の姉が共に4年制大学に進学していたのに、自分は受験勉強をするのが嫌で専門学校に逃げた事。学生時代はそれ程、自分の進路に迷いはなかったが、社会人になり色々な人と仕事をして行くと、          「武藤さんはどちらの大学の出身ですか?」と聞かれる機会が多くなった。

別に何も悪い事をしていなくても、何となくその質問に答えるのが嫌になって来た。質問をしてくる相手側は悪気はないのでろうけど、大学を出ている人が優秀で、それ以下は下のような、つまらない上下関係。仮に大学を出ていたとしても偏差値やブランド力でランク付けされる事から解放されたかった。いっそ海外の大学、それも大学院まで出てしまえば、質問してくる相手の態度は急変するのかも知れない。そういうゆがんだ競争心にケリをつけるためにも進学したいと思った。

2つ目の理由は、ニュージーランドの永住権を取るためだ。       木村と言うキウイエアラインの現役クルーがスチュワーデスマガジンでニュージーランドの永住権の事を解説していた。それによると、申請時の合計ポイントが23ポイント以上あれば永住権の申請が可能となる。仮にカツヒロがノーザンブリア大学の修士号まで取得すれば、22ポイントまで到達する。 内訳は年齢(25~29歳)ポイントが10。学歴(英語圏の大学で修士号)ポイントが12。これにボーナスポイントである10万NZドルの資金移動で1ポイント加算出来れば、ギリギリ23ポイントに到達する。           10万NZドルは700万円程度だから、両親や知人に頼み込んで一時的にお金を貸してもらって、ビザが取れたら返却すれば何とかなる。それから、語学力のIELTS6.5については、英語圏の大学を卒業してれば同等以上の学力と評価されるから問題ない。

仮にニュージーランドの永住権が取れれば、現地の航空会社で客室乗務員になる事も可能となるからチャンスは膨らむ。

客室乗務員

午後の授業が終わり、バスでシティに戻った。今日はバレーボール部の練習がある。ノーザンブリア大学のバレーボール部の顔ぶれは、殆どが留学生ばかり。バレーボールはイギリスでマイナーなスポーツだから、イギリス人は殆どプレーをしない。反対に人気があるのはサッカーとテニス、バスケットボールにクリケット、ネットボール、ゴルフ当たりだろうか?

男子バレーボール部のチームメイトは、フランス人とドイツ人が3人と最も多く、次にイタリア人とイギリス人が2人、スペイン人、ギリシャ人、オランダ人とポーランド人がそれぞれ1人。アジア人はカツヒロ以外にもう一人日本人の山下君と香港人のエリックだけだったので、殆どがヨーロッパ人になる。

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※本人の写真(25歳)、チームメイトと一緒に。

「カツヒロ、今度の土曜日はお隣のニューカッスル大学と練習試合をするから、10時に集合だよ。」                       キャプテンのクラウスから聞かされた。

「山下君、久しぶりの試合だから、楽しみだな。」           カツヒロは3つ年下の山下に声をかけた。

山下は大阪の公立高校を卒業後、ブリッジコースを経てノーザンブリア大学に入学した。学部は経済学で学士コースの3年生に在籍している。

「そうですね。カツヒロさん。試合にかったら皆でビールでも飲みに行きましょう。」

「いいね。負けても飲もう。」

「それにしても、フランス人のマフューズとイタリア人のマックスは試合の前しか練習来ないよね。あと、彼らはレシーブの練習が好きじゃないみたい。」                               カツヒロはこれまで一緒に練習をして来て感じた思いを素直に伝えた。

「やっぱり国民性でしょうか?ドイツ人はクラウスを筆頭に、真面目で時間もきっちりしているし、練習で手を抜かない。スペイン人のペドロも、案外、まじめに練習するけど、フランス人とイタリア人は同じラテン系でも、スパイク練習しかやらないから困ったもんですよね。」         山下は両手を広げて、お手上げのポーズをした。

「まあ、何はともあれ、うちのチームは本当にインターナショナルだから、様々な個性があって楽しいいよ。」

「そうですね。日本にいたらこんな経験できませんから、彼らの存在はありがたいですよ。」

「そうだね。ニューカッスルに住んでいて、この時間が一番楽しいよ。」

カツヒロは心の底から、そう思っていた。バレーボールも楽しいけど、様々な国籍、バックグランドの異なる仲間と一つにゴールに向かって共同作業を行う事がとても心地良かった。そして、その経験が将来、外資系エアラインの客室乗務員として働く上で、とても役にたった。


つづく。

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