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海老原嗣生著『人事の組み立て』読書会開催レポート

海老原嗣生著『人事の組み立て』のABD読書会を、オンラインで実施しています。各回とも2時間半程度で実施し、人事に関心がある有志が十数名集まり、有意義な意見交換をできました。若手中堅社員を活躍させたい、採用市場での競争力を上げたい、人件費を抑制したい…様々な理由から「ジョブ型雇用」への関心が集まっていますが、実態はそんなに良いものなのかどうかという関心から、読書会を開催しました。

4/18        第1章 欧米と日本の雇用システムの違いをしっかり学ぶ
4/29        第2章 日本型雇用につきまとう5つの社会問題
5/9            第3章    人事の組み立て~脱日本型の解

第1章の感想:”日本型”のジョブ型雇用という矛盾

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「日本で言われるジョブ型雇用は、欧米のやり方とかけ離れている」という指摘が興味深かったです。欧米式の雇用形態は、組織編制に基づいてポストの役割・定数を管理し、給与もポストをベースとする「ポスト型」です。人材育成機能は低くなりますが、総人件費を管理しやすいというメリットがあります。ところが、日本の「ジョブ型雇用」は「ジョブグレードに見合う業務を任せる」という従来型の人をベースとした管理を継続しており、おそらく欧米企業と同じようなメリットを享受できていません。

いまいち腹落ちしていないのですが、この本を読む限りでは、「日本式ジョブ型雇用」は、従来の社員等級制度よりも能力要件をより詳細化し、職務定義書っぽくしようとしているのでは?という印象を持ちます。

第2章の感想:ジョブ型雇用はそもそも何をしたいのか?

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第2章では、欧米企業にはおそらく日本企業以上に「働かないベテラン」がいるという指摘が興味深かったです。これは、エリートコースとノンキャリコースが最初から分かれていることから発生する事象です。ノンキャリコースの社員は、それほどの能力・モチベーションを持ちませんが、給与水準も年3-400万円相当で留まる会社として問題になりません。ちなみに、エリートコースの社員は日本企業の総合職社員以上に能力と貢献が求められるため、短期間でローテーションを繰り返します。そのため、欧米企業の若手が活躍しているように見えるのは、このエリートコースの存在が原因です。

日本型雇用の問題点の1つである「働かない管理職」問題は、背景はいろいろあるのですが、ともかく、現在時点での生産性と処遇が乖離を起こしていることから生じます。欧米企業においては、エリートとノンキャリをはっきり分け、都度都度で生産性相応の賃金を支払うことで、その乖離を回避しています。よって、働かないベテランであってもあまり問題にならないという面があります。

「皆が階段を登れる」という言説から抜け落ちたもの

・日本式のジョブ型はいいとこどりをしようとしているが、大丈夫なのか
・日本型雇用には、生まれで人を差別しないというメリットがあることが分かった
・誰でも階段を登れるというのは、望まない人には負担が大きい
・ジョブ型雇用では、熟練したプレーヤーはどう処遇すればよいのか
・経営陣に人事制度について知ってもらい議論するきっかけとして、話題になるのはよいこと

といった発言が、意見交換の中で出ました。そして全体としては、「ジョブ型の制度導入を目的にしがちだが、会社がのビジネスに即した仕組みである必要がある」というような方向に落ち着きました。

私自身は、この本を読んで、「日本型雇用は”皆”が階段を上る平等公平な仕組みである」という言説は、大企業の男性正社員という立場を前提としていると気づかされました。古くから女性はキャリアアップを阻まれてきましたし、2000年代以降に増えた派遣労働者も不利な立場を強いられています。つまり極端な言い方をすれば、欧州企業は「生まれ育ち」で給与の線を引き、日本企業は「性別」と「採用時の好不況」で、雇用安定と給与の両方で線を引くのです。

完全無欠な雇用の仕組みがないという前提で、どこで線を引くのがより説得的なのか…。実務では日本型雇用の良い面ばかりを見がちでしたが、抜け落ちていた目線を意識しなくてはいけないと思いました。また、教育機会が充実し、一方で様々な理由から女性の社会進出が求められる社会情勢を踏まえると、エリート・ノンキャリで線を引く仕組みは合理的であり、この本がいうように途中で階段を下りるオプションを用意するのが説得的と感じます。ただ、そんなに簡単に割り切れるものなのかは疑問があり、その点は次回明らかにできたらと思います。

5/9に読む第3章では、人材育成がテーマとなります。関心ある方はどうぞご参加ください。
http://ptix.at/ZCoHEm

ちなみに本の内容は、このWebサイトで確認できます。本の元になった記事です。
https://project.nikkeibp.co.jp/HumanCapital/atcl/column/00004/

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