カナダとアメリカの国境で置き去りにされた時の話。

22歳の頃、アイスダンスのトレーニングのためにカナダのバンクーバーに住んでいたころの話。バンクーバーと同じく西海岸に位置する、アメリカのシアトルに住んでいる叔母に会いに行くことにしました。

バンクーバーからシアトルまでの経路は、飛行機・バス・鉄道など様々な交通手段がありましたが、私は最も安価だった高速バスを選択し、トレーニングが終了した後、18時頃発の便でシアトルに向かうことにしました。

バンクーバーからシアトルまでは高速で片道4時間ほど。バンクーバーのサイエンスセンター付近にあるバスターミナルから出発して、2時間弱かけて国境に向かい、入国審査を済ませて、更に2時間ほどバスに揺られるとシアトルに到着する…というような具合でした。

バスの停留所は、あまり治安がよさそうな感じではなく見えた(委縮していたためそうみえただけかも)ので、ドキドキしながら乗車手続きを済ませて、バスに乗り込みました。乗務員から、入国審査時の書類を渡され、「バスの中で記入するように」と言われましたが、事前にESTA申請していた私には関係ないのではないかと思い、書かずに空いていた隣の座席に放置して、当時ハマっていたラジオ番組をオフライン再生しました。

そんなこんなで、2時間程度で国境に到着。入国審査をするため、バスからすべての荷物を持って降り、小さな建物に入りました。入国審査の列は非常に長く、当時おっとりさんだった私は、焦らずゆっくりと一番後ろに並んで待っていました。

ひとり、またひとり、と呼ばれ、ついに自分の番が来ました。「Hi」とにこやかに挨拶して、パスポートを提示すると…入国審査官は怪訝な表情で、「書類はないの?あっちで書いてきてからもう一回並んでくれる?」と言ってきました。

どうやら、事前にESTAに申請していたとしても入国時の書類が不要になるというわけではなかったようでした、、、。手続きについて完全に勘違いしていた私は、書類に必要事項を記入して、再度列に並ぶことにしました。英語が不得意であったため、記入に時間を要してしまい、書類を書き終えるのに10分ほど、再度並んで審査をするのに10分ほど…合計20分ほどタイムロスをしてしまいました。

そして、私が来るのを待っているであろう運転手やほかの乗客に対して申し訳なく思いながら、バスの乗車位置に向かうと…私が乗っていたバスがありませんでした。というか、誰も居ない。

広大すぎる海外の高速道路に一人取り残され、(どうしよう、どうすれば……)と焦ってその場を無意味に右往左往。ほとんどキャッシュを持っていないし、国境付近はフリーWifiが全く飛んでいなかったので、叔母に連絡する手段もなく……。国境付近はお店はおろか小さな売店すらなく、ここでこのまま取り残されて死ぬのかもしれない。人生オワタと考えて、途方に暮れていました。

いやでもしかし、私がこんなにあっさりと置き去りにされるということは、これまでもそういうことが何度もあったということなのでは?と思い至り、きっと助けが来ると信じて、待ち続けました。

それから30分ほど経過したころ、途端に微弱なフリーWifiの電波が入りました。「なんでかわからないけどとにかくこれで連絡が取れる!」と、急いで叔母に状況を連絡しました。叔母からの返信を待っていると、しばらくして、別会社のバスが来て、バスの運転手と思しき男性に「何かあったの?」と話しかけられました。

男性に、乗っていたバスが先に出発してしまい、置き去りにされたことを伝えると、「シアトルまで行くならこのバスに乗っていけば?」と提案されました。少量のキャッシュしか手元になく運賃が払えないことを伝えると、「こんなことは日常茶飯事だし、運賃はいらないよ」と優しく言われて、なんとかシアトルまでの交通手段を得ることが出来ました。。。

周りに何もない国境で、一人置き去りにされて、不安でいっぱいでしたが、親切なバス運転手のおかげで事なきを得て、本当に良かったです。

国境から乗ったバスの座席は、国境までに乗っていたバスよりも広々としており、その上フリーWifiが使えて快適でした。置いていかれたおかげで、無料でバスがグレードアップした感覚になり、逆に運が良かったのではないかとすら感じました。

この時は、何とか運良く切り抜けることが出来ましたが、「今後、一人旅をするときは、多少費用がかかったとしても、必ず確実な外部との通信手段を確保しておく」という教訓を得た経験でした。

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