時代が変わっても生演奏にこだわりたい

ずっと音楽の世界で仕事をしてきて危惧していることは、カラオケの普及により生演奏に触れる機会が減ってしまい、その弊害と思えることがでてしまっていることです。

戦後アメリカからジャズという新しい音楽が入ってきて、米軍キャンプやクラブ、ホテルなどなど、ジャズを演奏する場所が一気に増えました。
そして楽器の心得がある人たちは勉強し、練習し、いろんな場所で演奏する機会を得ました。
歌手の方達も常に生バンドで演奏でステージに立つわけだし、お客さんの前で歌う経験を積むことができたので、発音や発声も鍛えられ、ステージングも身についていったものでした。
音楽を介して人間関係が生まれ、切磋琢磨する時代だったように思います。

誤解をして欲しくないのですが、カラオケを否定しているわけではありません。カラオケによって歌う機会が増え、家族や仲間たちとのコミュニケーションの場としては、申し分ないと思っているくらいですから。
ただ表現者としてやっていくのなら、カラオケはバーチャルな世界のものなので、インスタントラーメンしか食べたことがないのに、本物のラーメン屋を開業しようと思っても無理があります。

インスタントラーメンは手軽だし、僕も大変お世話になってきましたが、やっぱりスープから仕込んで生めんを茹でて作るラーメンとは違います。
インスタントと本物とは違う食べ物だといっても過言じゃないでしょう。
本物のラーメンの味を知った上でのインスタントなら、まだわかるのですが、インスタントしか知らないなら、本物は想像するしかできないですからね。

人間が演奏するノリやグルーブを体で感じ取りながら歌うことは、カラオケとは根本的に違います。
そして何よりも感覚的な大きな違いは、カラオケだとカラオケに合わせて歌うクセがつきますが、生演奏の場合、演奏者が歌に合わせます。
歌手が演奏を引っ張っていくイメージです。
例えば歌手が歌に入るところを間違えて、4小節早く歌い始めたとしましょう。その時に演奏者は、「間違ってんじゃないよ!」と演奏を中断するのではなく、4小節飛ばして歌に合わせていくんです。

こういうことがライブの醍醐味だったりします。
プロであれば、そこでニヤニヤして間違っちゃったという顔をするのではなく、何もなかったように歌い切る。
これがステージに立つ側の礼儀であり、責任でもあります。

生演奏を聴く機会が減ったし、ましてや生演奏で歌うことってなかなか難しくなりましたが、あえて生演奏にこだわり、そういう場を増やしていこうと考えています。
生演奏の感動や喜びを味わうことができれば、音楽に対する姿勢や取り組み方が変わりますからね。
特に子供達にいろんな経験をさせてあげたいと思っています。



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