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【エッセイ】話を”盛る”ということ

「お前話盛ってるやろ!」

こんな一言を言われたことのある人は少なくないと思う。特に私はこれを言われることが多い。

まず、話を”盛ること”と”嘘をつくこと”は同じなのだろうか?

私の個人的な解釈では”盛ること”と”嘘をつくこと”は別物だ。この解釈には例外もあるが、まず嘘には前提として”本当”がない。いわゆる根も葉もないことだ。さらに嘘には悪が含まれる。その人のためを思ってどうしてもつかなければいけない嘘もあるが、詐欺などのように人を騙して利益を得ようとする許せない悪としての嘘もある。その一方で”盛ること”にはまず、”本当”があるのが前提だ。”本当”にオプションを付け足すことで、その場の話の流れを円滑にしたり、話自体を面白くする効果があるように思う。そして人を傷つけないものだ。まぁ何が言いたいかというと僕は話を盛ることに完全なる賛成派だ。

例えば、あなたがあるラーメン屋さんにハマったとして、先週毎日通ったとする。ただ実際には水曜日は会社の同僚と飲みに行きラーメンは食べなかった。翌週友人にあなたはそこのラーメン屋の話をする際に恐らく「いやー、そこのラーメンおいしすぎて先週毎日通ったわー」というと思う。「先週飲みに行った木曜を除いて6日間いったわー」といってもいいが、話の流れや、どれだけハマっているかを伝えるには「一週間毎日言った!」といった方が効果的だ。これが話を盛るということだど思う。厳密には嘘をついているが、”本当”があり、もちろん誰も傷つけることもないし、むしろ話の流れを作るのにはプラスに働いている。

まぁこんな風に話を盛ることは世の中の会話で溢れているように思う。ただここからが今回の本題である。僕の友人間では話の盛り方が異常だ。僕たちはただただ話を面白くするためだけに話を盛る。「あかんこの話すべりかけてる」と思った時にとりあえず話を盛る。一番ひどい場合には1%の本当に99%を盛ることだってある。そんな中で僕が今までに聞いてきた盛り話しの中から面白かったものを紹介していきたい。


本当:ある先輩が大学への通学途中電車に乗っていて、ある駅から電車が出発する直前、女子大生3人が走りながら電車に駆け込んできた。

実際にはこれだけの話だが、どうしても面白くしたかった先輩はこの話をまず第一形態へと変化させる。

第一形態:駆け込んできた3人のうち2人は乗れたが、最後に来た1人はドアに顔が挟まってしまい、先に入った2人に対して、「先行ってて...」と伝えた。

この話は先輩の話し方もプラスされ少しウケた。でも満足しなかった。第二形態が表れてしまった。

第二形態:顔が挟まった女子大生は実はメガネをかけており、その女子大生は電車に乗れなかったが、メガネだけは電車に乗ることができた。

もうほぼありえない、この時点で盛りの割合がほとんどを占めてしまっている。まず現実では3人とも無事に電車に乗れて、サークルのかっこいい先輩についてガールズトークをしているような状況にも関わらず、先輩の話ではまず1人が脱落してしまい、さらには脱落した女子大生はメガネをかけていて、そのメガネだけが電車に乗ってしまっている。ただここで終わるような先輩ではなかった。この話はどんどん武装していく。原型が見えなくなるほどに。

第三形態:電車に乗り込んだメガネは大学までたどり着き、講義を受けた。

狂っている。メガネが意思を持ち出した。想像してほしい、乗り換えをしているメガネを、改札に定期を通しているメガネを、出席カードを書いているメガネを。そしてこれでも満足のしなかった先輩はついにこの話を最終形態へと変化させる。

最終形態:講義を受けたメガネが単位を取った。

なんという快挙だ。メガネは勉強した。おそらくファミレスで勉強した。ドリンクバーのココアを飲みながら、友人と出る場所を予想していた。当日テストの出来は自信があったが、横で解けずにへこんでいた友人を「今回の難しすぎたな」と気遣った。


まとめ:3人で電車に駆け込んできた女子大生のうち最後の1人は間に合わず、顔が扉に挟まってしまい、「先行っといて...」という言葉と、かけていたメガネを車内に残した。そしてそのメガネは大学へと到着し、講義を受け、さらにはその学期間真面目に講義を受け続けて、テストにも合格し最終的に単位を得た。


人を傷つける”嘘”が一つでも多くこの世から消え去り、その分人を楽しませるだけの”盛”が増えていくことを願いながらこの話を締めさせていただきます。





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