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少年と老芸術家の放浪記


本記事は10年以上前に書いたまま〝お蔵入り〟状態になっていたものである。現在の筆者の語り口と異なる印象もあるかもしれないが、あえて加筆せず、そのまま掲載する事をお許し願いたい。


《家なき子》(2000, France)

《Chanson de Rémi》と題する小品に取り掛かっています。題材の由来は、児童文学の古典的名作『家なき子』(Sans famille)から。

小さい頃に初めて読み通した長編小説がこの作品だった事もあってか、エクトル・マロのこの作品には少なからず思い入れがあります。なので「『家なき子』…ああ、“同情するなら金をくれ”っていう話?」とか「えっ、レミって女の子じゃなかったの?」とかいう反応が返ってくると心底鬱…

日本では日テレで放映された名作アニメ(宇野重吉の語りが感動ものだった)がありますが、さて、本家フランスではどんなものがあるか知ら…と探して見つけたのが、Jean-Daniel Verhaeghe監督によるこのTV映画版でした。

原作が全2部構成の長編のため、多少の筋書の改編や省略はやむを得ないとして、本作品ではいくつかの重要な設定が変えられています。

まず主人公レミ少年の出自が、原作と異なりイギリス人の貴族ではない事。そのため原作後半の山場となるロンドンでのエピソードがなく、レミの旅はヨーロッパ大陸内(多分フランス国内すら出ていない)に留まっています。
また、後に伴侶となる少女リーズは、原作では園芸職人アカンの娘ですが、本作ではレミの遺棄に一役買った男フォンテーヌ(原作のドリスコルに相当)の姪という事になっています。このフォンテーヌ氏は最後には改心し、身を呈して軟禁状態のレミの脱出を助け瀕死の重傷を負うという展開です。なお細かい事ですが、レミとリーズの年齢差はどう見ても原作と逆で、これがある意味悩ましい… もっとも、役の女の子の素朴な可愛らしさは高評価ですが。
そして、物語をその名の通りのヴァイタリティで引っ張るヴィタリス親方は、前半で退場する原作に対してエンディングまで登場し続けます。そのためドラマの後半はレミとヴィタリス各々の行き違いの旅を平行して描いてゆくことになります。
そうした違いのある中でも、理不尽な人生の荒波に投げ出された少年が、周囲の人々に援けられつつ成長の旅を続けて家族と再会する、という物語の根幹は変わらず、ヨーロッパらしいエレガンスに彩られた風景映像とともに、心安らぐ充足感を与えてくれる作品となっていると思います。

俳優では、まず第一にヴィタリス役の Pierre Richard の演技が面白い。初出時に自己紹介する時の"Artiste!"という口調や、広場で警官を向こうに回しての芝居、等々… ベテラン・コメディアンの面目躍如たるものがあります。またレミ少年役の Jules Sitruk は、原作よりも年齢イメージは低いかなとも感じられるのですが、ちょっと舌足らずの感じがかえっていたいけな印象を与えてくれます。
余談として、レミの実母・ヨハンナ夫人役の Véronica Ferres とリーズ役の Julia Portoghese は、ドパルデュー主演の『レ・ミゼラブル』にテナルディエ夫人とその娘エポニーヌ(少女時代)役でそれぞれ出演、こちらの方ではしっかり“憎まれ役”を演じきっています。

Sans famille (2000, France)
Un film réalisé par Jean-Daniel Verhaeghe d'après le roman de Hector Malot
avec Pierre Richard (Vitalis / Vitalo Pedrotti), Jules Sitruk (Rémi), Véronica Ferres (Johanna von Strauberg), Stefano Dionisi (Georg von Strauberg), Marianne Sägebrecht (Mère Barberin), Bernard Fresson (Padrone Garofoli), Marcel Dossogne (Charles Fontaine), Gwennoal Hollenstein (Mattia), Julia Portoghese (Lise) avec la particiation de Claude Jade (Belle Dame)

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