予算で失敗するスタートアップ

はじめまして、ステラ・システムズCEOの原です。
ステラ・システムズでは「予算を簡単に」をミッションに、みんなが簡単かつ迅速に予算(単年度のみならず複数年度の中期経営計画・事業計画含む)を策定・モニタリング・修正できる世界を目指しています。特に、スタートアップの資金調達のための予算策定、資金調達後の予算実績分析のモニタリング、予算修正を応援しています。
スタートアップに予算は必要なのか?と考える人もいるでしょう。
回答としては必要です。
実は、この予算を甘く見てその後の資金調達が難しくなっているスタートアップがいます。
具体的な失敗事例で説明していきます。

失敗事例:起業したてのスタートアップがVCやエンジェル投資家向けの予算と政策金融公庫向けの予算を全く同じものにしてしまい、1年後に政策金融公庫で再度資金調達をしようしたら門前払いをうけてしまう。

Aさんは革新的なビジネスを考え、起業しました。自分のアイディアを実現するために最低2,000万円は必要だと考えています。Aさんのアイディアに興味をもった投資家はアイディア自体は面白いが事業規模や今後の事業計画について教えて欲しいと言われます。投資家を惹きつけるためには大きな数字が必要だと考えたAさんは、今年来年は赤字だが3年後からは黒字、毎年売上が10倍になるような事業計画を出します。Aさんとはその後ディスカッションの末、1,000万円出してもらえました。しかし、必要な金額からはまだ1,000万円足りません。そこで、政策金融公庫の新創業融資を利用することにしました。新創業融資では最大3,000万円(うち運転資金1,500万円)可能だからです。Aさんは、投資家に提出した資料、つまり売上が毎年10倍になるような事業計画をそのまま提出します。公庫の担当者はAさんの事業計画を見てぎょっとしていましたが、Aさんの強い情熱により、何とかエンジニアの外注費半年分300万円を融資してくれました。当初予定していた2,000万円には届かないものの、Aさんはこの資金を元手に事業を始めていきました。
1年たって、Aさんは苦しんでいます。当初考えていた課題と実際の課題は異なり、プロダクトは作っては新しいプロダクトを作る毎日です(これをピボットといいます)。1,300万円あった資金は気づけば500万円近くまで減っており、Aさんは新規の資金調達を考えます。既存投資家には相談したところ、出資したお金でビジネスの勝ち筋が見えてこないと追加出資は難しいと言われます。そこで、政策金融公庫に再度相談に行くと、以前提出した事業計画の1割も売上も利益も達成しておらず、この状況ではとても融資を出来ないと門前払いを受けてしまいます。方向感が見えない事業、日々減っていく資金・・・Aさんは途方にくれてしまいます。

さて、このAさんの行動は何が問題だったんでしょうか?
問題:投資家と政策金融公庫の目的を理解せずに、同じ事業計画を安易に使ってしまったこと
投資家と銀行(政策金融公庫含む)の目的は以下のように異なります。投資家が出すお金は資本金(エクイティ)で返済義務はない代わりに、株式を渡し、会社の経営権等を一部渡すものです。投資家の期待は事業が大きくなるかにあります。そのため、投資家は創業当初に事業計画というよりも、Aさんが始めようとしているビジネスが将来どの程度大きくなるか(市場規模)、その中でAさんのビジネスがどのようなポジションをとるかに興味があります。具体的な資金繰りにはそこまで興味がありません。
一方、銀行の目的はあくまで貸した金額に対して貸したお金が利子を含めて返済されるかどうかです。通常、銀行は過去の決算状況なども加味して貸出を行いますが、政策金融公庫の新創業融資は、過去の実績がないスタートアップも対象としており、将来の事業計画や創業者の情熱等に基づいて貸出を行います。そのため、計画はきちんと借入を返済できるようなものになっていなければいけません。

Aさんは両者の目的を理解しないまま、同じ事業計画を安易に使ってしまい、将来の資金調達の可能性を狭めてしまいました。

ではどのような対応をとるべきだったのでしょうか?
対応①:投資家には市場規模や将来の売上高等の説明にとどめる、銀行には詳細な事業計画を作成する。
正直、創業時に投資を行う投資家は、スタートアップが詳細な事業計画を作れるとは想定していないため、投資家にはプロダクトの魅力や市場規模の将来性を中心に説明します。一方、銀行は一度提出を受けた事業計画に基づいて、その後の予算の達成度合い等を見ていくため、その前提で事業計画を作る必要があります。

対応②:事業計画に幅を持たせ、最低限の目標と最大の目標の2種類を入れ込む(ベースシナリオ、アップサイドのシナリオ)。銀行にはベースサイドのシナリオを使って説明し、投資家にはアップサイドのシナリオを使って説明する。
この方法であれば、2つのシナリオを作る必要があるものの、元となっている根拠は同じであるため、現実感のある予算を作ることが出来ます。なお、私はこの方法を使う時には銀行にも投資家にも2つのシナリオを作って、一方は投資家向けに、もう一方は銀行向け説明資料として使っている点を説明しています、要望があれば他方の資料を出すようにもしています。

中には銀行向けや投資家向けに、または投資家ごとに全く異なる予算を作って説明する方がいますが、個人的にはおすすめしてません。理由は、たくさん作ると混乱するからです。混乱すると、説明に一貫性がなくなり、投資家や銀行から本当のことを言っていないのではないか、実は自信がないのではないかととられかねません。他者からの信頼はスタートアップにとって最も重要な要素なので、いたずらに損ねるようなことをすべきではないでしょう。

ステラ・システムズでは、スタートアップが適切な予算を策定し、資金調達可能性を最大限追求できる応援をしています。

次回は、政策金融公庫の創業融資を受けるための予算(事業計画)について説明していきます。

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