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タイムトンネル


呼び声に誘われるままに此処へ来た...
時間の奔流のなかに眠る空洞のように何処かへつづいてゆく道がある...
まだ誰も通ったことのない道...

呼び声はこの奥へと誘っているように感じられるのに、決して通れぬ道...ただ記憶の風だけが流れる道のように何処かに通じていると思わせるのは、あの呼び声の所為なのかもしれない...

その向こうになにかが在ると直感的に思えて手を触れると呼び声は止んだ...手のなかに幽かに感じる温かな感触は、記憶を呼び覚ます吐息のように身体のなかに染み込んでゆく...記憶の風が身体を通して呼吸しているような感覚のなかで、未来の記憶が静かに花開いてゆくような感触に身体は震えていた。

それは呼吸を通して未来の自分と交信しているかのような不思議な感覚をともなって身体の内側から響いてくる...まだ整わぬ七弦の絃を呼び覚ますかのように、記憶の風は絃を震わせてゆく...記憶の呼吸を循環させながら私の絃はどんな姿を映してゆくのだろうか...

風が水面にさざなみを走らせるように、記憶の息吹きが絃を伝ってゆく・・・あるかなきかの風の色を訊ねるように、記憶の糸に宿された歌を私は思い出してゆくのかもしれない...

タイムトンネルを思わせる風の道は、記憶の道でもあり命をつかさどるプラーナの通り道なのだろう...わたしの内側に張られた七弦の絃は、記憶の息吹きに染められ、調弦の緩急のなかで何を映してゆくのだろうか...

まだ見ぬ世界を歌う記憶の風は、そこが言葉の故郷で在ることを感じさせ、音と香りが分かれる以前の世界に私をいざなってゆく...言葉の源であると同時に未来の姿でもある歌は、妙音とでも呼ぶべきもののように感じられてくる...

呼吸によってでなければ捉えることができないもの...まだ見ぬ記憶の香りのようなもの...堆積した時間がみる夢のように、記憶の眠りの中で結晶してゆく未来の時間...香りを聴くように記憶の風を呼吸しながら、精妙な時間のなかで身体に満ちた記憶の残り香はやがて思考の天蓋を開き、舞い立つ香気とともに言霊はその姿を現わしてくる... 

円環の時間が呼吸の循環を促しながら、刻のあわいに漂っては消えてゆく香りのように、現れては消えてゆく未来の記憶...七弦の絃がみせる記憶の息吹きは、言霊のオーラを纏いながら蛍火のように明滅をくりかえしている...刹那に舞い降りたいのちの幻のように...

妙音につつまれて結晶した時間が未来を産み落としてゆく刹那に… わたしは立ち会ったのかもしれない...





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