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松任谷由美のコンサートに行って世代違いの僕が泣いてしまった話


母親がユーミンのライブのチケットを手に入れたらしく、その日はたまたま自分も行ける日だったので同行してきた。

自分はユーミンはベストアルバムをときどき聴くくらいで、詳しくはない。
僕らの世代でもみんな一度は耳にしたことがあるような、「やさしさに包まれたなら」「ルージュの伝言」「春よ、来い」 が好きなくらいだった。
それらの曲が聴けたらいいな、というのと、母親と一緒にお互いが知っているアーティストのライブに行く機会など中々ないだろうから母親との思い出作りになったらいいなと思い、同行をすることにした。

今回のツアーは2020年発売のアルバムのリリースツアーだったので、その新アルバムからの曲の披露が多くなる。
予習のために新アルバムを2〜3回通り聴いて、昔の曲もいくつか聴いてからコンサートに臨んだ。

会場には自分の両親の世代かそれ以上に歳を召されている世代の方がほとんどだった。
二十代以下の同世代と思われる人は一人も見かけなかった。

会場はホールで全席指定だった。
自分の普段行くライブでは、観客は開演後立って(なんなら腕を振り上げながら)聴くことが多いのだが、お客さんの年齢層的に体力がもたないだろうし、座ってしっとり聴くことになるんだろうな〜と思っていた。

ライブはしっとりとした雰囲気で始まった。思っていた通りホールの席を立つ観客はいない。

ユーミンはかっこよかった。
最新のアルバムを聴いたとき、昔の音源と比べて声の伸びがなくなっていて心配をしていたが、実際に声を聴くと、確かに声は相応に変わってしまっていたが、40年以上ステージに立ち続けてお客さんを楽しませ続ける、67歳でもなおパワフルなパフォーマンスをする今のユーミンがいた。

昔の曲と最新アルバムの曲を織り交ぜて披露するが、自分はそこまで聴き込んでいないため、どちらの曲もなんとなく懐かしい感じがして、同じ手触りで感じられた。

演奏が進められていく中、飛び抜けて自分にとって特別に映った曲がある。
「カンナ8号線」



この曲が始まった瞬間ワッと会場が沸き立った。
座っていた観客全員が一斉に席を立つ。上下に揺れたり踊ったりしている。
ユーミンは曲のイントロのリズムに合わせて行進をしている。

自分は予習していた時になんとなく聴いたことがあるかな、という程度で曲名もわからなかったが、ここ1番の盛り上がり方を見て、この曲はユーミンの曲のレパートリーの中でも特別な曲なんだなと察した。

ユーミンも観客も本当に楽しそうだ。
観客の平均年齢は60歳くらいだと思うが、会場の盛り上がり方は若い人々と同じそれで、年齢を感じさせなかった。

どこか切ない、ノスタルジックな気持ちにさせてくれるポップナンバーに浸りながら、その光景を見て、ああ、この人たちはずっと昔からユーミンの曲を聴いて若き青春時代を送って、今この瞬間だけは青春時代に戻っているんだなと気づいた。
昔聴いていた当時の出来事を曲によって思い出したりもするのだろう。


会場全体が楽しそうに盛り上がる。その光景が本当に素晴らしくて、貴重なものに思えて、自分の世代の言葉で表現するならマジでエモい、尊いと思った。

少し前に、コンサートに定期的に行く人は幸福感を感じることができ、寿命が伸びるという研究結果が出たという記事を読んだことがある。
まさにこの瞬間観客はコンサートで活力を与えられている。

歳をとってもこんなに盛り上がれて、昔に戻ったような楽しい瞬間を味わえるってすごいな、と思った。
そんな体験ができることってあまりないだろう。

そういったことに思いを巡らせながら、この飛び切りポップな曲を聴いていると、目の前の素晴らしい光景を前にして、たまらなくなって、涙が流れて止まらなくなってしまった。
1981年リリースの古い曲で、自分にとって馴染みのある曲という訳でもなかったのに、こんなに感動するのは自分でも不思議だった。
そして自分は「カンナ8号線」の虜になってしまった。


自分が歳を取った時、何十年後に今好きなものを好きなままでいれるのか。
きっと趣味や好みは変わってしまうことがあるだろう。忘れてしまうものもあるだろう。
それでも何十年後にそれと久しぶりに再開した時に、昔に戻れる、昔を思い出せる、

そんなものをできるだけたくさん残せるように、今好きなものを、機会を無駄にせず、全力で楽しむことができたらいいなと思う。

追記
自分は「曲調はポップですごく楽しいけれど、実は歌詞のテーマは悲しい」曲に惹かれることが多い。

悲しい時にいかにも悲しい雰囲気を出すのではなく、
無理をして明るく振る舞い、強がった笑顔の下に悲しみをたたえているような曲に、人間の健気さやひたむきさ、繊細な感情を感じられるような気がする。
思い切り明るい方がむしろその裏の悲しみを想像させられ、同情して泣いてしまいそうになるのだ。

「カンナ8号線」もそんな曲だと思う。

思い出にひかれて ああ ここまで来たけれども
あの頃の二人は もうどこにもいない
(カンナ8号線)



「春よ、来い」「やさしさに包まれたなら」など好きだった曲は聴けなかったけどこの曲を聴けて良かった。大好きな曲になりました。


2024年追記↓僕が行って泣いたツアーのカンナ8号線がユーチューブにアップされてました。どんなに体力がなくなっていても、声が出なくなっていても最高のパフォーマンス。



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