小説妄想 占い編2

(男百合キッツな人はブラウザバック)

 2人が並んだ占い店は、建物と建物の間の細い空間にビニールの屋根、そして机といすを複数並べたような簡素な造りの店だった。手相占いなら、普段は1000円のところが今は500円らしい。試しに入ってみるにはちょうどいい。
 かなり繫盛しているようで、行列は中まで続いており、若い女性客たちが女性占い師と楽しそうに談笑しているのが見えた。2人は屋外で待つ客用の丸椅子に座りながら雰囲気を楽しんでいた。
「何運で勝負する?」
 涼が楽しそうに声を出す。涼は春風のように陽気だ。
「総合的な運ってないのかな」
 広樹はその陽気な春風を浴びて、その行く末を見送るように空を見上げた。
「あんまり聞いたことないけど、なんていうのかな。総合運?」
「全部均等に考慮するから均等運とか」
 広樹のくだらない駄洒落に涼がははっと声を出して笑う。
「西遊記?中華街だから?」
「大して読んだこともないけどね」
「俺も」
 広樹が見上げた空は快晴で、ちょうど筋斗雲ほどの大きさの雲がぽつんぽつんと浮いていた。
「やっぱ恋愛運じゃない?」
「やっぱり?」
 2人ともまだお酒を飲める年になったばかりで、その手の色恋話はいくらでも笑って聞ける年ごろ。涼は彼女がいたことは何度かあるようだが、広樹は恋愛経験が全く無い。
「ヒロって彼女欲しいって思ったことあるの?」
 涼は純粋そうな顔で広樹に尋ねる。
「思ったことがないわけじゃないけど…」
 彼女が欲しいと思ったことが無い訳ではない。それは事実。しかし、広樹は自分が好きだと思う女性の隣に立つことができるような自分に自分がなれると、想像できたことは1度もない。だから、自分に彼女なんてふさわしくない。
「…ただ、恋愛に憧れてるだけなんだ。きっと」
 広樹はアスファルトに落ちる自分の影に向かって呟いた。
 自分も誰かのことを本気で愛してみたい。誰かに自分のことを本気で愛して欲しい。広樹が内面に感じる感情は、特定の誰かを好きになるというような恋心ではなく、ただ純粋に恋愛がしてみたいという幼い憧憬のようなものだった。
「へえぇ…」
 涼は何か感心するような声を漏らした。
「いいんじゃない。恋愛に憧れて恋愛したって。それはそれで楽しそう!」
 そう言って涼は丸椅子に座ったまま思い切り前に足を伸ばした。
 広樹には、広樹の影ぼうしの中に涼が土足で踏み込んできてくれたように見えた。
 広樹はその足を両手で素早く掴んで、押し引きしていじってやる。
「僕より恋愛経験があるからって偉そうに!」
「やーい!」
 2人して子供みたいに遊んでいるうちに、行列は自分たちを前に進ませた。そして、奥の女性の占い師のテーブルの席に通された。

「いらっしゃいませ。お待たせしました、若い男の子のお二人さん」

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