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イトヨを食べて思ったこと、考えたこと。(中編)

イトヨの調理編。(一日目)

さてイトヨに触れた前回の話からいよいよ本編。
ひたすら内臓をとっていきます。

ざっと34匹。

イトヨの刺身。

やはり一番最初は生食だろう。一般的には有無を言わさず素揚げなのだが調理の方向性や活かし方を決める手がかりとして安全性が確保できるのであれば極力刺身でいきたい所。(今回は陸封型かもしれないので一匹だけを刺身にした。)
小さい魚体を何倍も大きいナイフで丁寧に三枚に卸す。さらにあばら骨をすいてどうにか頑張って皮も剥ぐ。

殆ど何も残らないじゃないか!
サイズ比。

この腹の足しにならないくらいの小さな身をひょいっと口の中に放り込む。
こんなに小さいのに食感も味も主張が強い…!
身質はムチムチでコリコリジャキジャキと音が聞こえるくらい繊維がしっかりとしていて食感としては新鮮な状態の青物に近い。
歯を軽く立てると押し返すくらい弾力があるものの歯切れも良いのでいつまでも口の中に残るような不快感は一切無い。全体としてどことなくアジっぽいのだがアジと比べるとイトヨの方が複雑な歯触りだ。
味も小さい身からは想像できないほど濃い。身の中にも皮下にもイワシやニシンに似た脂が多量に含まれており舌に置くなりそれが溶け出て口内に甘い膜が張ったかのような感覚になる。
漬けた醤油にも負けないほど強い甘みをしている。
変な魚臭さや生臭さはなく川魚のような藻臭さもなく食べやすい部類に入ると思われる。
なんとなく分かってきたので色々試してみましょう…!

イトヨの素揚げ。

一番最初はオーソドックスに油鍋へ投入。

カラっと。

春告魚(はるつげうお)として扱われ新潟の郷土食材としてイトヨのごくごく普遍的な料理。骨まで食べることができてスナック感覚でサクサク進む。
揚げると生の時に感じた脂肪分は薄れてしまうもののギュッと締まった身から噛めば噛むほど臭みのない魚の旨みが出てくる。
塩も合うがブラックペッパーやガーリックパウダー、アヒージョの素(粉末)などスパイスとの相性が良い。

イトヨの塩焼き/醤油焼き/佃煮

まだ数はあるのでお次は昔ながらの食べ方をしようと思う。
細かいが全て内臓を抜き丁寧に洗い水分を取る。
必要な分を…
(塩焼き)…焼く直前に薄塩を全体的に振り若干鰭が焦げるまで焼く。
(醤油焼き)…下処理したものを甘めの出汁醤油に10分ほど漬け混み焼く。
(佃煮)…今回は少量だったのでお湯50mlに砂糖大さじ一と酒50ml入れ煮立たせイトヨに火を通しみりん50mlと醤油75mlを入れ煮詰まらないようにさっと火を通し放置することで味を染みこませる。

…完成!塩焼き(上段)醤油焼き(中段)佃煮(下段)

塩焼き

脂が滲み出て一部黄色く変色している。

揚げずとも頭から尻尾まで骨まで食べることができ本当に無駄が少ない食材だと思い知らされる。
先ほどのおやつ感覚の素揚げと打って変わって今度はお酒のアテといった味わいだ。焼くとふっくら仕上がる。適度な塩味に噛み切るとジュワジュワ〜ッと染み出るコクと旨味を伴った濃〜厚〜ッな脂がたまらない!
語ればどこまでもテンションが上がりますが冷静になり書き進めます。
ただご飯と合わせるとなると中骨の食感が身とご飯の柔らかさとギャップがありすぎてイマイチ馴染まない。
完全晩酌仕様の一品だろう。
醤油焼き

見た目は然程塩焼きと変わらない。

こっちは焼く前に出汁醤油を含ませたもの。見た目はちょっと黄色っぽくなってるかな?程度なのだがやはり香りはこっちの方が断然上だ。
焼けた醤油の香ばしさが食欲をそそり実際ペロリと平らげてしまったくらいだ。
日本の大豆調味料は魚とよく合うなぁと思う反面、イトヨはストレートな味わいであるが素直すぎて単に漬け込む調理法だと特徴が薄くなってしまう。
いや、旨いは旨いのだが醤油焼きだとちょっと限界がある。ご飯とはイマイチだし…。(米デブ)
佃煮

見てよ!この照り!綺麗ダネ

この日一番ウケがよかったのはこの佃煮。
魚の煮物には少々五月蠅い私がこだわって作ったのだから当然っちゃあ当然だけどね☆
イトヨの身の旨みを引き出すにはこんな感じにあっさりとした醤油味で煮るのが良いのかもしれない。
先ほどの醤油焼きは醤油の香ばしさはあるが魚本来の味を出すにはちょっと不向き…というか焼くとも煮るとも言えないどっちつかずな印象があった。
ただ佃煮は溶け出た脂が玉状となり浮かびとろみのついた煮汁が得も言われぬ複雑な味わいを作り上げている。短時間煮ただけでも骨ごと食べられるからかじっくりことこと煮たかのような非常に白米に合う仕上がりとなっている。
イトヨ自身も決して出涸らしとならず力強い淡泊な風味がきちんと主張してくる。
実にご機嫌な一品だ。

イトヨの酒蒸し

今日はイトヨ以外にハマグリとムラサキイガイ(ムール貝)を仕入れていたので一日目の最後は適当な料理酒とバターで酒蒸しにした。

中央のちんまいの。

これがなかなかに出来がよく少量入れただけでも酒蒸しの汁に玉油が全体に浮かび、貝とはあきらかに違う動物性の旨味がガツンと感じられた。
イトヨも出汁殻で終わることなくホクッとした食感で存在感が失せていなかった。

一日目まとめ。

今日一日だけでもイトヨの基本的な調理法をある程度楽しみ倒したと思う。
要点としては
・小さい故に加熱してしまえば中骨や頭骨や鰭、棘などは気にならなくなる。
・光り物のような食感とうま味があり、脂の甘みはかなり強い。
・変な臭みや特徴的な風味は少ない/弱い。
・少ない数でも濃い出汁が取れる。
この特徴を踏まえて2日目に応用を交えて更に楽しんでみよう。

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