見出し画像

『ルックバック』が曇りを晴らしてくれる

いま話題の『ルックバック』という映画を観てきました。

大ヒット作『チェンソーマン』の作者である藤本タツキ先生が2021年に発表した長編読み切り作品をアニメーション映画にしたものです。
発表後すぐ、その完成度に絶賛の嵐が起こったようですが私は当時渦中におらず、原作未読のまま勧められるがままに映画館に足を運んだのでした。

いやもうすごく良くて。藤本先生の作風がそのまま動いているようなタッチと、漫画の表現をさらに具体化させた"間"と、haruka nakamuraさんの劇伴と、すべてがかみ合って作品の世界を彩っていたと思います。
舞台が東北ということもあり、山間の町の暮らしの描写は、個人的に懐かしさで胸がいっぱいでした。
いやはや、原作を読まずに臨んだことを後悔しました。。。
いまから買って復習しようと思います。この後書いていくことは映画を観た感想のため、原作改変があったらまたそのとき驚きます。

※以下、ネタバレを含みますので、ご注意ください。

物語の終盤。ドア越しの4コマを通して、パラレルワールドの藤野と京本が交信したようなシーンは、現実世界に極めて忠実に描いてきた作品の中で、唯一ファンタジーの部分なのかと、最初は思いました。しかしよく考えると、パラレルの世界でも京本は美大に行くし、藤野は最終的に漫画家を目指すというのです。都合がよすぎるなあなどと思ったり。
「あのときこうじゃなかったら」なんて思うことは、人生で何度もあると思いますが、実際、バタフライエフェクトってどのくらい変わるんですかね。一挙手一投足のタイミングがずれただけでも、未来って少なからず変わるだろうし、ましてや人と人が出会わないなんてかなり根本から大きく変わってしまうものがあると私は思います。
それでもパラレル世界の2人は現実と同様の夢を追うし、京本は藤野と漫画を描く未来が待っているような描写でした。だからこれは藤野が夢見たifストーリーなんだろうと自分で納得しました。
もちろん、パラレルワールドだととれば、殺人(未遂)犯という理不尽の出現まで含めて、人それぞれある程度天命というか、運命づけられたものがあるという解釈ができるし、それもいいですよね。

タイトルにもなっているルックバック。
観賞前は「過去を振り返る」的な話だろうと思ってましたし、実際、藤野は京本の部屋で2人で過ごした日々を回想しました。しかしそのきっかけは、藤野を京本の部屋に招いた「背中を見て」という4コマであり、藤野が京本の半纏の背中(バック)に書いた初めての自分のサインであったのでした。さらに、京本との日々を想うことこそ、藤野が自分の後ろをついて走った京本を見つめ、背負っているものに気づくというということまで表してると思うと、なんて美しいタイトルなんでしょうか。
もうすでにおなかいっぱい。

ところで、盗作を疑う犯人にクリエイターが理不尽に命を奪われるというストーリーと、公開時期が時期なだけに、本作は実際にあったある事件を想起させますね。
藤本先生の意図したものなのかはよくわかりませんが、痛ましい出来事が歴史として風化せずに、後世に残る教訓になってくれるならいいです。
しかし、ヴィランのバックストーリーまで描かれることが脚光を浴びて久しい世の中ですから、なんか言われるのかもしれませんね。本作は現実の日本に準拠した世界観で、法の下で生活している人々を前提としているでしょうから、余計な心配かもしれませんが。

まとめると

過去と未来と地続きの今を生きていることを強く感じる映画でした。
戻りたくても戻れない、戻らなくても積み上げたものはなくならない、それをわかって生きなければならない。辛さも希望も感じますね。どうしても楽な方に楽な方にと流され目の曇ってしまう私ですが、晴らしてくれる作品のひとつにルックバック』が加わりました。
もう一回みたい。

♪今日の一曲

『ルックバック』の劇伴を担当したharuka nakamuraさんは青森県出身の音楽家です。
なんとなく調和の音楽を作ってくださっているイメージがあります。『音楽のある風景』のMVなんて特にそうですよね。風景の中に音楽を見つけて、環境の様態と環境音と音楽とでアンサンブルしている感じ。日本人が古来からもつ音楽観に近いのかななどと勝手に思っています。
青森出身ということで、氏も東北の野山を原風景としてお持ちだと思います。同じく勝手に親近感を湧かしているのでございます。人工的ななにか疲れたときは、心にフィットする安らげる音楽をぜひ見つけてあげてください。haruka nakamuraさんの音楽もぜひ聴いてみてね。

それではまた。お元気で。

この記事が参加している募集

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?