Where are you from?

 いちばん最初に必ず聞かれる質問です。Where are you from?
 去年の秋、仕事で必要に迫られて、英語をなんとかしなければという気持ちになったので、マンツーマンの英会話スクールに通い始めました。最初のうちは、いろんな先生のレッスンを受けてみて、相性の良さそうな人を探していました。初対面だと、必ず聞かれますよね。Where are you from? 私はこの質問が、たとえ日本語の会話でも、ちょっと苦手です。

 生まれ育った場所が、あまり好きではありません。土地そのものは好きです。田んぼの畦道とか、おだやかな気候とか。でも、ずっと馴染めない感じが抜けなくて、自分はよそ者だなと思いながら過ごしていました。両親が都会から仕事の都合で移ってきた人たちだったとか、私自身が中学から遠くの学校へ通っていたとか、いくつか理由は思いつきます。勉強がちょっと得意なだけで周囲から浮いていたらしい、ということも知っています。なんだかあの町には馴染めなくて、受け入れてもらえている感じもしなくて、生まれ故郷と呼びづらいまま、大学進学と同時に出てきてしまいました。
 両親も父が仕事をリタイアしたのを機に関西に帰ってしまい、もうあの町には行くこともなくなりました。両親が住んでいた頃も、「帰る」とは言いづらいまま、そこが自分のホームだとは思えなかった。付き合いの続いている友達もいないし、むしろ中学高校のある遠い町のほうが近しく感じています。

 でもそういったことを、初対面の人に説明するのは難しいでしょう? そうでもない? 日本語ならまだ、さらっと流して話題を変えることもできるけど。別に気にしないで、あたりさわりのない会話で終わらせてしまえば良いのだけれど。

 とくに事情のある家庭に育ったわけでもないのに、「実家に帰る」と当たり前のように言える人たちを羨ましいと思います。懐かしい「地元」に帰ることのできる人たちを、(いいなあ)と思いながら遠くから眺めています。ないものねだりだとは思うのですが、ちゃんとベースがあるように見える。拠って立つための土台が。
 私は自分がどこから来たのか、よくわからない。自分の座標の原点を定められないまま、ふわふわと、ふらふらとしている感覚をずっと持っています。だから、Where are you from? と聞かれると、どう答えれば良いのだろうと深く考え込んでしまう。たぶんそんなに深く考えなくても良いんでしょう? 「どちらの出身ですか」と日本語で聞かれるよりも、Where are you from? と英語で聞かれるほうが、戸惑いが大きくなります。あなたはどこから来たのですか? 直訳すると、ずいぶん哲学的な問いになってしまうと思って。

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