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短編小説集『三千世界』

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Short stories documenting the days of the void. In the days of no 全.
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記事一覧

『ぽつ、ふふ、あぁ』



ぽつ。

遠くから聞こえる、

もう、終わろうよ、

といふ声。

もう、終わろうよ、

もう、終わろうよ

もう、

終わろうよ、、

切実な、切実な、その声は、

近くへゆくと、

驚くほど何も無い

機械のような無機質な顔の、

だのに、なぜか、優しく笑ふ、

もう、あの人じゃないような

でも、あの人の声だと分かった。

気が付くと、

私の頬が涙で濡れていた。

いつ、終わるんだろ

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『血が、止まらない』



 うあー痛い。

 つい、大きな声が出た。

 はじめて、切った。

 まだ、ドキドキしてる。どんどん、ドキドキが増幅してる。

 こんなことやる人ってどんだけ肝座ってるんやろうって、ずっと思ってたけど、意外といけた。

 おお、血が、流れ続けてる。

 やべー、これまじでやべー、

 あー、、

 このまんま、いつまででも流れ続けて、干からびたい。

 深くいったなぁ、あ、あ、

さっき睡

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『細い細い糸』



 今、この灯を支えているのは、細い細い、細い細い、いつ切れてもおかしくないような、取り繕いの糸だけ。

あと一本、この糸が切れたら、この灯は消える。

 

 火は常に動き続け、同じ形になることはない。

 なのに、火は灯り続ける限り、1つの火だと、言ってもらえる。

 「1つの火」って何だろうか。

 火は常に動き続ける。

 下から上に、下から上に。

常に消え続けているのに、1つの火は

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『幻やったんかいね、、』



この世界の片隅に、

お花が一輪、咲いてたとさ。

 ある時、蜂さんが、話しかけたと、

「ねぇ、お花さん、お花さん、

ずっとそこで、咲いとてくれる?

お花さんがおるから、

わたし、

生きとるんじゃ、ないかね、、」

お花さんは、こう答えたと。

「いのちは終わらんよ、、

いのちは、おわらんよ、、。

あんたがおるから、

いのちは、おわらんよ、、。」

蜂さんは、

また次の日、

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『風の吹く丘の上で、風が吹いた』



 ゆっくり、ゆっくり、でも、しっかり、しっかりと、一歩一歩、大地を踏みしめて、登ってゆく。

 ザワザワという、木が揺れる音がして、少し雨が降った後の匂いがする。

 細い山道の旧道を、少しずつ進んでいる。

 上を見上げると、太陽の光がほとんど入ってこないほど、木が生い茂っている。

 後ろを振り返れば、自分が歩いてきた道があるだけで、誰もいない。

 前を見ても、ただ、ゴールの見えない森

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『記憶の淵から撥ねられて』



 ここは、どこだろう、、、。

 白い天井が見える。横にはカーテンがかかっていて、少し風でヒラヒラとなびいている。

 身体の節々が痛い。左足に激痛が走った。

 左足を見ると、ガッチリと白い包帯でぐるぐる巻きに固定されている。骨折でもしたのだろうか。

 自分は、どこで、何をしていたんだろうか。

 記憶の末端を辿り始めてみたが、なんだろう、この感覚は、何かあったような、どこかで、生きてい

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『雲一つない青空』



 今日は、休日で仕事が休みだった。娘は朝からアルバイトだという。せっかくなので、車でバイト先まで送ってあげようと思って、早起きをした。

 娘は、今日もいつも通り、どうしたらそんな顔ができるんだというくらいの暗い顔で、起きてきた。昨日も、たくさん泣いたのか、目が充血して、目の周りが腫れている。

 昔からそうだ。親には何も言わず、ひとりぼっちで、涙を流して、朝、暗い顔で起きてくる娘に、私は声

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『白い靄のその下で』



 あれ、なんだろう、この世界は…

 目の前には、何も、世界が広がっていないようで、それでいて、何か、あるような雰囲気だけを感じる。

 隣を見ても、誰もいないし、目に見えるところに、人影はない、、、。

 ふと、足元を見ると、なんだか白いモヤの上に立っているのに気が付いた。少し息をフッと吹きかけてみた。するとほんの少しモヤがフワッと舞い上がり、横に消えていくのが分かった。モヤの下に、うっす

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『誰がために鏡は灯る』

 始

「鏡のモヤが取れない、、」

 妹が、そう言ったので、私はとっさに鏡を見た。

よく見ると、たしかに鏡に白いのか灰色なのか分からないが、モヤがかかっている。なんだか、胸がホッとした。

「まぁ、時間がたったら、消えるか、、」

妹はそう言って、髪を編むのを途中で諦めた。

 私は、鏡に映る自分が、大嫌いだった。顔も気持ち悪いし、笑顔も気持ち悪いし、そもそも、なんだか映ってる全てが、気持ち悪

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『カゲロウと陽炎』



目に写る空気が、揺れている。太陽の光は、地面を熱し、また天に昇ってゆく。

 メリ、、メリメリ、スル、という音をたてて、少しずつ、皮が溶けはじめた。一体、どれほどの分子が、今までこの額を叩き、傷つけてきたのだろう。新しいものとは思えないほど、錆びていて汚い皮膚が、ヌルヌルと顔を出す。

「今から、私は、この空気の中を揺れにゆく。」

そう言って、カゲロウは、勢いよく飛び立った。

しかし、飛

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