PMF達成後に描く、開発組織のスケーリング戦略_Vol.2(ミドル・レイターフェーズ)
こんにちは、Startup Tech Live事務局です。「エンジニア組織のグロースに必要な知見の流通」をテーマに様々なイベントを開催しております。
こちらは2023年6月29日に開催したIVS2023でのセッション「PMF達成後に描く、開発組織のスケーリング戦略」のイベントレポートVol.2となります。Vol.1は以下の記事からご覧頂けます。
今回はモデレータにグロービス・キャピタル・パートナーズの堀江、グロービスVPoE末永氏とナレッジワークCTO川中氏、マネーフォワードVPoEの高井氏に登壇いただきました。(記事内では敬称略とさせていただいております。)
スピーカー
モデレータ
アーリー・フェーズについて、Vol.1でお話しましたがここからはさらに成長した先(ミドルフェーズ)、レイターフェーズについて聞いていきます。
堀江)まずミドルフェーズ大体会社規模が50人、もしかしたら100人ぐらいになってきて、開発組織もたぶん20名、30名規模になってきた状態を想像しながら何が起こってくるのか。
人・組織と技術/プロダクトと同じ構造で整理してしてみました。
人・組織で言うとワントップ体制の負荷が限界を迎えるというのが一つありそうだなという話と、この頃になると、プロダクトもリッチになったり、新規事業への投資があるとチームが複数になってくることが起きていそうだと思いました。
末永)グロービス自体は30年ぐらいの歴史のある会社ですが、私が所属するデジタルプラットフォーム部門は2016年に立ち上がり、当時は20人くらいで社内スタートアップみたいな感じでした。
教育を中心に事業を続けており、教育✕テクノロジー、EdTechにしっかり投資をしていこうというフェーズでした。
組成されたばかりはカルチャーサーベイをとると全社トップだったのがその2年後にサーベルを取ったら全社最下位の部門になりました。
これがミドル期くらいですね。
その後古参メンバーの離脱が発生して、ここにどう向き合うべきかが課題でした。
グロービス自体カルチャーがしっかりしてる組織で、エンジニアもいなかった組織にいきなりエンジニアや専門性の高いメンバーがたくさん入ってきたことでカルチャーの融合というのがすごく難しかったですね。職種属性だけではなく、フェーズにおいても入社してくる人のニーズも異なると思います。
プロダクトやユーザーに向き合いたいタイプとスキル・技術が強くそこを伸ばしたいタイプ。両方大事だと思うんですよね。両方の側面それぞれが大事で、どう融合させていくか。
ミドル期にもっと力を入れてやるべきだったなと思います。
堀江)ビジネスサイドとエンジニアサイドで対立みたいなことが起きてしまった結果離脱やサーベイが低下したということですか?
末永)そうですね、対立みたいなところも一定あったと思います。
例えばテックカンパニーからジョインしてきたメンバーからすると彼らの当たり前がグロービスではなかなか導入されないという点もありましたね。
会社としては定期的に戦略合宿のようなものがあるのですが、合宿が苦手というメンバーもでてきたりして、カルチャーの差を埋めることは難しかったなと思います。
堀江)高井さんはクックパッド時代のときはここに近いような課題感等ありましたか?
高井)そうですね、幸いクックパッドの時はあまりこういった話はなかったですね。
でもCTOが一人で頑張れなくなってくるのはこの時期なのかなと思っています。
当時私はマネージャーの一人ぐらいだったので全てを俯瞰して見れていたわけではないですが、CTOが全てを見切れなくなり、そのために仕組みが必要になってきたのはこの頃だと思います。
堀江)CTOの負荷みたいな話になりましたが、川中さんはまさに今この瞬間この課題に向き合っていると思いますがどうですか?
川中)3倍頑張るのが通じなくなって5倍頑張るんですけどもう無理ってなっている時期ですね。5倍頑張るのはさすがにちょっとハードすぎますが、3.5とか4倍ぐらいまでやってもう無理だなと思い職掌を変えることにしました。
私は大規模組織のマネジメント経験が豊富なわけではないので、私のできないところはみんなで頑張りましょう、自分が経験したことのあるミッションは各自に振って少しづつお願いするというのをやりました。
お願いできる人はリファラルで採用しました。会社の状態がよくないと自分の好きな人を呼ぼうとはならないので、みんなが気持ちよく人を呼べるようにある程度環境を整えておくのは大事ですね。
末永)チームマネジメントではなく組織マネジメントに変わるのがこの頃ですよね。個々のメンバーまで見れないので、ワークするための仕組み化が大事になりますね。
高井)この頃ぐらいから技術方面でリードしてくれるテックリードとあとピープル方面でリードしてくれるEMみたいな体制に徐々に変わってくる感じですよね。
とはいえ、きれいにわかれないですよね。
川中)エンジニアが技術が強い人にしかついていかない問題があるんですよね。弊社ではまだ起きていないのですが、皆さんどうですか?
末永)グロービスは専門性とマネジメントのキャリアパスを分けて用意していますが完全に綺麗には分かれないですね、どっちかというとこっちだよねっていう感じでわけています。
マネジメント側の人でも一定技術はわかって欲しいのがメンバーからの気持ちですけど、そこがいまいちってなると付いていかないメンバーもでますよね。
高井)そこは難しいですよね。スペシャリストタイプの人にちゃんと活躍してもらえるような部分やカルチャーを残していかないと良い人に活躍してもらえない。
川中)弊社はプロを大事にしようというカルチャーを作っています。他の人には実現できないようなプロフェッショナリズムをきちんとリスペクトする文化を作れれば、組織マネジメントのプロということでついていってくれるんじゃないかと思っています。
堀江)ありがとうございます。技術/プロダクトの話に移ろうかなと思います。
ちょうどミドルフェーズになってくると、人が増えることによって速度が下がる、全体的に少し重たくなることが起こってくるのかなと思っていますが、実際どうでしょうか?
高井)私はクックパッドという会社にいましたが、そこではすごくうまくいっていたと思っています。私が入った頃は、デザイナーの人が課金のコードを書いているみたいなワイルドな状況でした。
当時から横断的な技術組織があり、それが機能するようになったのが良かったです。
ただやっぱりビジネスモデルによって大きく違うともいえます。
クックパッドの頃は幸いにも大きなアプリケーションが一つあって、そこを良くすれば全体が良くなるみたいな状態でした。今のマネーフォワードはすごくたくさんのプロダクトがあるのでその方法をとることは難しいですね。
一つの大きいプロダクトを作るのと、いろんな領域でプロダクトを作っていくのだと組織の作り方も全然違うと思います。
末永)グロービスはマルチプロダクトとはいえ、そんなに数は多くないと思ってるので大きめのプロダクトをしっかりメンテナンスして継続していくような組織体を作っていかないとと考えています。
川中)弊社の場合、今1つのプロダクトでここから少しづつ分けていこうと思っています。
1つだと、A機能を作るとBやCの機能が壊れるという状態になると思っています、昔からいる人はここ触ったらBやC壊れるに決まってるとわかるんですが、新しい人はそんなこと知らないので触ってしまうんですよね。
できるだけ広く見てもらう、A機能をさわることを習熟してもらい理解度を高めてもらうということをやっています。
堀江)社歴の違いやスキルレベルの違い、つまり人の多様化が進むことによる品質担保が難しくなりますよね。
末永)A触ったらB,C壊れるといった事象はスケーリング上の課題だと思うのでいかに防ぐかが重要ですよね。
「過度な共通化」についてですが、最強のプラットフォーム基盤を作るんだと思い取り組んだものが、今負債となっているんですよね。
ちゃんとPMFするまでは様子見してフェーズごとに切り分けて考えていかないと負債につながるというのは大きな気付きです。
川中)自分はなるべく選択肢を残すように開発をしています。マイクロサービスにやろうと思えばできる、モノリスでいこうと思えばできる状態。
高井)はじめのアーキテクチャの意思決定にCTOがいかに時間を使うかは大事ですね。
末永)時間は使っておくべきですね、プロダクトがこういう特性だからと全体を見通して考えられるかはCTOや相応のレイヤーの方に必要な力だと思います。
堀江)分かりやすく大事なこと、例えば新しいプロダクトや機能と、分かりにくいんだけど重要なもの。このアジェンダのハンドリングってどうされていますか?
負債の解消がまさにそうだと思っています。
ただ事業サイドからすると直接的な事業価値に繋がるものとか、お客さんの要望を早く反映してほしいと求められてしまうのではないかと思っています。
川中)うちはそういうリファクタリングや基盤に対して何パーセント使うというのを改めてコミットしています。
そのために基準を作りましたね。ここに3割割かないと壊れるみたいな。
時間で区切るのは難しいので人でわけました。その人のミッションは基盤を作る、横断的に課題解決をすることであるという形に。
投資判断ですよね。リソースアロケーションが重要なので、これでいくと腹くくった感じです。
堀江) まさにベンチャーキャピタルの立場としてスタートアップに投資させていただく場合、投資したお金ってどこに使うのというと、多くは人に使ってきますよね。
どの時間に何を使うか決めるのも、まさに投資判断、経営判断ですね。
一定の指針があるとブレない。色々考え方はあると思いますが、属人的ではなくフィロソフィー、スタイルみたいな観点で方針を決めてやるほうが汎用性が高そうですね。
川中)決めてもだいたい実行でミスるっていうのがスタートアップあるあるだと思うので、実行をミスらないための方針を立てた方が成功しやすいかなと僕は思っています。
高井)この時期だからこそ、8割はプロダクトに使えます、1割は共通基盤に使えます、1割ぐらいは新規に使えます。みたいな割合で決めるのはすごくいいアイデアだと思います。
あとはそこをちゃんと説明できるようにしていくっていうのが重要ですよね。
堀江)ありがとうございます、最後に少しレイター期上場前後の話に触れていきます。
グロービス、マネーフォワードの共通項が、2社とも多拠点いわゆるグローバルを巻き込んだ開発を進めていますよね。
特にマネーフォワードさんはベトナムに開発拠点がある。上場前後ぐらいから多拠点化を進めていった話をぜひ聞かせてください。
高井)今マネーフォワードは600名以上の開発者がいます。
しかも多拠点になっていてほぼ顔が分からなくなってきているので、コミュニケーションのやり方を変えていく、もう少し仕組みでコミュニケーションをしていかないと一体感を醸成しながら拡大していくのが難しいと思っています。
末永)弊社はまだ開発拠点が多拠点化しているわけではなく、今年の6月からオフショアでの開発をトライしています。過去にもオフショアを使っていたので再開が近いですね。
ただ組織やサービス規模も当時とは異なるので新しいチャレンジです。
今社内のエンジニアが100人を超えて、これから先マネーフォワードさんのように600名以上の規模の組織を考えたときに国内だけで組成するのは現実的に厳しいという感覚です。
かつグロービスという会社としても世界に向けてプロダクトを作っていきたいと言う方向性があるので、事業的な文脈と開発組織的な文脈の側面を踏まえてグローバルの一歩を踏み出しています。
高井)弊社の場合、CTOの中出の意思決定がすごく良かったと思っています。当社は海外拠点をオフショアと捉えておらず、国内の拠点と同様に1つのチームとしておいています。
海外チームに対して発注を出して仕上げてもらうみたいな受託感がでるのは良くないので、どのようにチーム感を出すのか。すごくこだわりました。
拠点関係なく同じようにワークできるような環境を作りたいというビジョンがあり、そのこだわりは重要だと思います。
特にSaaSやプロダクト中心の組織にとって受託っぽくしないというのはすごく大事だと思います。
堀江)開発サイドとビジネスサイドのパワーバランスは難しいですよね。一歩間違えると受託ではないがそういった見え方になってしまう。
高井)みんなのウェディングにいた時からその重要性は感じていますね。そこは冒頭でもあったように川中さんが仰っていたような、こういうふうに動いてほしいみたいな基本的な所作・ルールが大事になってくると思います。
川中)我々はまだ多拠点化するフェーズではないのですが、もし今後多拠点化を考えた時にこれはやっておくべきだというアイデアはありますか?
今の私の考えだと、それこそCTOないしは拠点長が3倍頑張るアイデアしかなくて。
高井)私自身拠点づくりにまるっと携わっていないので適切ではないかもしれないのですが、カルチャーを浸透させることは意識していると思います。オフィスやイベントから伝わるような工夫はしていると思います。
末永)実は、去年堀江さんと私はマネーフォーワードさんのハノイ拠点にお邪魔させてもらったんですよね。これを期にオフショア開発をしっかり考えようというきっかけになりました。
日本人の当時拠点長(現:テクニカルディレクター)だった方にお話を聞かせていただきすごく勉強になりました。
「私はこの拠点をマネーフォーワードの拠点の中で一番の開発組織にしたい」と仰っていて、強い志をもった方がリードされているから良いチームができるんだろうなと肌で感じましたね。
先程高井さんが仰っていた「受託感を出さない」がしっかり浸透していると思います。
高井)彼は新卒入社メンバーなんですよね。新卒で田町オフィスで働いていて、活躍してくれていました。会社としても、活躍ぶりをみて抜擢したそうです。はじめはホーチミンで活躍し、その後ハノイ拠点の立上げをしてくれました。
堀江)確かに他の会社も新卒メンバーや創業期からいましたという方が拠点の長をされているケースをみました。要はカルチャーを体現する人となるわけだから、そういう人が抜擢される事が多いのかもしれませんね。
最後にセッション通じたQ&A受けて終わりにしたいと思いますが皆様いかがでしょうか?
Q:何をもってPMFしたと捉えていますか?
川中)一番最初のPMFはショーン・エリステストですね。このプロダクトが使えなくなったらあなたはどう思いますかという問いに大変残念であるという回答が40%を超えるとPMFしているという指標があります。
一般的にも使われる事が多いのでこちらを用いました。
一旦この指標でかつSMB✕ITというクライアントに絞って行いました。
そこでPMFできたら、IT領域以外や、エンタープライズに顧客を少しづつ広げてまたショーン・エリステストを行うという感じにやっていました。
PMFはゼロイチではなく段階的なものだと思っているのでまず自分達の決めたところを達成してから次へ行くとしています。
Q:最近はエンジニア専門のHRや採用チームも増えてきている印象ですが皆さんの会社はどういった体制ですか?
川中)最初は本当にリファラル中心だったのでHRは1名?兼務だったので0.5人くらいから始まりました。前提としてエンジニアにはコードを書いてほしいという気持ちがあるのでHRをすごく強化しました。
エンジニア採用の専門チームが3名でスカウトやエージェントは全てHRが対応する。
リファラルは各自が目標をもって各自で動いてもらうという形を取っています。
エンジニア採用の専門チームは3名ですが、HRチーム全体としては5名います。社員が今60名くらいなのですがHRの比率は高いほうだと思います。採用、社内の施策、組織開発みたいなミッションを持っています。人・組織へのこだわりは代表の麻野のこだわりがすごく強くでていると思います。
末永)うちは部門の中にHRの動きをしてくれるメンバーが1名います。別で全社の採用チームというのは存在しますが、エンジニア組織のHRをメインでリードしてくれるのは1名です。なので私も採用には結構時間を使っていますね。
高井)今の規模になってエンジニア採用広報のチームを立ち上げたり、構造化面接を導入したりしています。
全体的なレベルの向上により採用力としても上がってきたこともあるので採用できるための仕組み化ということにはかなり時間を使っていますね。
堀江)皆さん貴重なお話ありがとうございました。フェーズが異なる3社それぞれの特徴やフェーズは異なっても同じ課題がある話もありました。今後皆さんの会社・組織がスケールしていく上での何かしらのヒントになるセッションとなっていれば幸いです。
—編集後記
スタートアップは不確実性の高い環境の中で、素早く柔軟な意思決定が重要になります。特に技術領域においての進化は激しく、開発組織においてはアジリティさが必要不可欠だと感じました。
早い段階であっても、時間がない中でも人・組織への投資は重要であり、未来の組織をつくる上でも決して軽視してはいけない重要なものだと改めて感じるセッションでした。
登壇いただきました皆様ありがとうございました!
AfterTalkとしてナレッジワーク社CTO川中氏とモデレータGCPXの堀江のPodcastもございますのでぜひご視聴ください。
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