(総合系)医療機器商社で独り立ちすると

医療機器商社で独り立ちすると、日常のルーティンワークに加え、営業的な側面が加わってきます。

総合系の医療機器商社の営業マンは、いわゆる御用聞き営業のパターンがもっとも多く、顧客から求められる大部分を締めます。

もっぱら営業ノウハウの書籍や研修では、解決型営業や提案型営業についてのものが多いのですが、医療機器商社においては、まだまだ御用聞き営業は重要だと思っています。

よくあるパターンとしては…

手術室の看護師さんより、「〇〇先生からこういう製品がないか調べておいてくれと頼まれたので、類似製品も含めてカタログ持ってきてもらえない?」と依頼があるパターンです。

手術をする医師は、ふと手術中に思いつき、看護師さんに丸投げしたりします。看護師さんは看護師さんで業務がありますし、業者のほうがそれを専門にしていますので、依頼をするのです。

それに対し、同様製品がないかをメーカーさん聞いたりして調べ、カタログを取り寄せ、参考価格とともに持っていきます。

ほかのパターンだと、病棟の看護師長さんから(医療機器カタログを見て)「これがほしいんだけど、もう少し小さいのないかしら?」とか「これって滅菌してあるのかしら?」とか商品についての質問を受けたりします。

それに対しては、「メーカーに聞いてみますね」と調べて報告する対応をします。

いずれにしても、頼みやすい関係性であること、いつも丁寧でスピーディーに対応してくれる業者さんと認識してもらっていることが必要です。

このような日常の御用聞き営業をしていると、大きな案件を振ってもらえるようになります。

病床数の多い総合病院では、例えば点滴用のカテーテルを新しく検討したいと言われると、数百万/年の大きな商談になります。

1本あたりの単価は数百円でも総合病院ではかなり多くの数を使用しますので、大きな売上インパクトがあります。

こんな案件が出てきたら、なかなか忙しくなります。

1,点滴用のカテーテルを扱っているメーカーに片っ端から電話をし、カタログとサンプルを取る。

2,各社の特徴や規格の種類、価格を取りまとめた比較表を作る。

3,カタログ、サンプル、比較表をもとに病院の運用や希望にマッチする製品を絞り込む。

4,メーカーを個別に病院に連れていき、商品の具体的説明をしてもらう。
  また、サンプルを準備し、実際の現場で使用してもらう。

5,絞り込んだ2~3社の中で最終的な見積もりを取り、商社として利益を載せた見積もりを提出する。

ここまでにそれなりの労力と時間がかかります。


それはなぜかというと、点滴用のカテーテルと言っても種類や用途は多種に渡ります。

例をあげると…

点滴用のカテーテルで一番多く使われているのは静脈用なので静脈用前提で説明しますが、「開放式」と「閉鎖式」という2つに別れます。

「開放式」は安価で昔からあるオーソドックスなタイプです。

点滴では輸液バック(薬液や生理食塩水が入っているパウチのようなもの)に、点滴用のカテーテルを刺し、患者さんの腕に刺した針をの間をつなぐものです。

ただ、2つ以上の輸液バックを投与したい場合や、一時的にシリンジ(針のついていない注射器)で追加の薬を入れたいときなどは、すでに患者さんに刺さっている針を通して投与します。
その時、三方活栓という部品を間に噛ませて置くのです。

三方活栓は、バルブがついており、2つの薬品が流れる経路を切り替えられるものです。

そのような場合に、使わないところをキャップで閉めておくのが「開放式」です。

逆に、「閉鎖式」はキャップがいらずシリコンで閉じられています。

シリンジなどを接続した場合にのみシリコンが開いて薬液が流れる仕組みで空気に触れることがないのでより感染防止につながるという製品です。

更に、大人と子供ではカテーテルの太さも違ってきます。

20滴と60滴という規格の違いがあり、投与するスピードを細かく管理できるのが60滴で子供用です。

他には、長さであったり、それぞれの病院の運用によって予めカテーテルと三方活栓やプラグが組まれている商品があったり、輸血に対応しているか、デッドスペースという薬品がカテーテルと三方活栓内部に残る量の違いなど様々です。

「閉鎖式」には特にメーカー毎の差別化があるところなので、特徴理解をするのも商社の営業としては大変なことになります。

私は当時、趣味も兼ねて全メーカーさんの三方活栓をつなげてコレクションしていました。

それがあれば一目瞭然で各メーカーの違いを説明できるようになります。

ただし、静脈用の点滴用のカテーテルの入れ替えなど1病院で数年に1回あるかどうかのことになります。

総合系の医療機器商社では、一つ一つ調べながら案件をこなしていきますが、1回経験したものが次にも活かせるかというとそうでもありません。

もしかすると1回覚えても二度とそういう案件が来ないかもしれません。

そういう意味では、商品をよく知っていることよりも調べ、提案し、クロージングするというスキルが重要とも言えます。



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