見出し画像

新卒採用を成功に導くターゲット選定の手順と実践方法

新卒採用において母集団形成を行う際、どのような人材をターゲットとするのが適切なのでしょうか。また、そのターゲットはどこに存在し、どのような手法で獲得を目指すべきなのでしょうか。

今回は、新卒採用における「ターゲット選定の手段と方法」についてお伝えします。


新卒採用のカギは「未来軸」のターゲット設定

採用ターゲットは会社によって異なりますが、大きく分けると「現在必要な人材を集めるのか」「将来必要な人材を集めるのか」という2つの視点があります。

ただし、新卒採用においては「今必要な人材」をターゲットにしても、実際に入社するのは早くて半年後、遅ければ2年後になります。そのため、目先の人材ニーズだけを考えることは、効果的だとは言えません。だからこそ、新卒採用では、「未来軸」でターゲットを設定することが大切です。

ここで重要なのは、「誰を採用するか」という議論よりも先に、「経営戦略」や「事業戦略」を明確にすることです。その戦略の中で、2〜3年後にどのような組織を目指すのか、どの程度の規模にしたいのかといったビジョンを描くことが必要であり、その上で、新卒採用の計画を立てるべきだと言えます。

具体的には、事業目標を達成するためにどのような戦略で進めるべきかその戦略を実行するためにはどのような組織が必要か、さらにその組織を構成する具体的な人材像が見えてくることが重要です。これらが明確になった時、初めて「どのような新卒を採用すべきか」というターゲット像が具体化されるのです。

【ターゲットを選定する前にすべきこと】
まずは「評価基準」を明確に設定することが大切です。
評価基準がないまま進めてしまうと、判断が「その人が好きか嫌いか」といった主観的なものに偏ってしまう恐れがあります。そしてその結果、自社で成果を出せる可能性や再現性を持つ人材であるかどうかを正確に見極めることが難しくなってしまいます。

また、評価基準に基づいて質問を組み立てることで、質問が効果的に機能し、面談や選考がスムーズに進むというメリットもあります。そのため、「いかに評価基準を具体的に落とし込むか」が重要なポイントとなります。

スキルとカルチャーの両面から人材を見極める

ターゲットを選定する際には、組織にどのような価値を発揮してほしいのかと、事業目標に対してどのような価値を発揮してほしいのかの2つの軸を考える必要があります。
さらに具体的に言えば、「スキル・能力フィット」「カルチャー(価値観)フィット」の2つに分けられるでしょう。

【スキル・能力フィット】

ここでは、「自社で成果を上げるために必要な行動特性とは何か」「行動の再現性としてどのような強みが求められるのか」を明確にすることが大切です。これにより、成果を出すための具体的な基準を定められます。

<例:営業職の場合>
営業の手法には、「情熱で押し切るようなアプローチ」や「論理的にしっかり詰めていくアプローチ」など、さまざまなスタイルがあります。
自社の商材や企業のカラーを踏まえた上で、どのような能力を持つ人材が成果を上げやすいのかを、しっかりと分析し整理することが求められます。

新卒採用においては、スキルの判断が難しいという声がよく聞かれますが、行動の再現性があるかどうかを評価基準にすれば、適切な判断ができまです。

その人の行動特性、つまり「同じ状況が起きた際に、どのような行動を取る可能性があるか」という再現性を見極めるという観点では、中途採用における職務経歴の確認と、新卒採用におけるガクチカの質問はほぼ同じ意味を持ちます。
ガクチカを通じて、「どのように考え、取り組んできたのか・具体的にどのような行動を取ったのか」を知ることで、その行動が「自社で成果を出すために必要な行動であるか」を判断する材料となるのです。

重要なのは、その学生がどのような行動を具体的に取ってきたのかを正確に把握し、それをもとに「自社に入社した場合にどのような行動を取る可能性があるか」を整理し解釈することです。そして、その行動が自社で成果を出すために必要といえるかどうかを擦り合わせるプロセスが、欠かせないポイントとなります。

【カルチャー(価値観)フィット】

スキル・能力フィットを支える土台として重要なのが、価値観・スタンスといった要素です。
「どのような価値観や考え方を持つ人が自社に合うのか」を考えることが必要であり、この価値観は、会社のミッション・ビジョン・バリューと一致していることが望ましいでしょう。

価値観が会社と一致している人材は、長く働き続けてくれるだけでなく、労働幸福度高く働いてくれる可能性が高まります。そのため、スキルや能力の他に、スタンスや価値観の一致を見極めることが、採用の要件定義においては重要なポイントとなります。

<例:非連続的な成長を目指す場合>
この場合、「安定志向が強く、着実に成果を積み上げていきたい」というスタンスの方が必ずしも適しているとは言えません。むしろ、非連続的な成長を目指す組織には、「失敗を前提として受け入れ、その失敗を乗り越えるプロセスを楽しめる人」が合うのではないでしょうか。このような考え方やスタンスが、まさに価値観のフィットにあたります。

必要なのは「世間評価」よりも「自社適性」

注意すべきは、「世間一般で優秀とされる学生が、自社でも優秀な人材なのか」「世間で優秀とされない学生が、自社でもそうであるのか」という視点です。

ここで重要なのは、「一般的な評価に惑わされないこと」です。採用を進める際には、自社において優秀か・自社で成果を上げられるかという基準で判断しなければなりません。世間的に優秀とされる層に固執するあまり、本当に必要な人材を見逃してしまうという負のサイクルに陥る可能性があるため、この点は必ず意識しながら採用を進める必要があります。

世間的な評価と自社における優秀さの基準は必ずしも一致するものではありません。それぞれの会社の業種や特性、求める人材像に基づいて、ターゲットを見極めることが重要です。

<例:精密機器メーカーの場合>
世間一般では、「チャレンジ精神旺盛で、さまざまなことに積極的に挑戦し、ガツガツと成果を上げていく人材」は優秀に見えるかもしれません。しかし、精密機器メーカーにおいて、そのようなスタンスの人が適しているかというと、そうではないこともあります。
精密機器の分野では、挑戦的な姿勢が重大なミスを生み出してしまう可能性があります。この観点から考えると、チャレンジ精神や勢いがあることは、会社にとっての「優秀な人材」とは言えない場合があるのです。
一方で、「非常に真面目で慎重、コミュニケーションがあまり得意ではない人材」は、世間一般ではあまり評価される機会が多くないかもしれませんが、精密機器メーカーの製造職においては、その正確性や慎重さが大きな価値を持ち、非常に優秀な人材となることがあります。

自社の価値観を明確にする2つのアプローチ

自社の価値観を明確にする方法として、大きく2つのアプローチがあります。

1つ目は、組織としてどのような姿を目指したいのかを考える方法です。
この場合、組織の未来像を描き、それを実現するために必要な人材像を明確にすることが重要です。

2つ目は、今現在、自社で成果を上げている人材がどのようなスタンスや価値観を持っているのかを分析・整理する方法です。
採用の目的は、自社で売上や成果を生み出してもらうことにあります。そのため、すでに成果を上げている優秀な人材のスタンスや価値観を基に逆算し、それを採用要件に反映させることが有効です。

この2つの要素を言語化し、さらに抽象化して整理することで、自社が求めるターゲット人材をより明確に定義できるようになります。

価値観を見極める際の切り口としては、「ロジカルかフィジカルか」「利他的か利己的か」「完了主義か完璧主義か」など、さまざまな観点が挙げられます。これらの視点で候補者を見極めることは、人事担当者にとって非常に重要な役割と言えます。

評価基準を超えた「特別な存在」は逃すべきではない

しかし、これらのロジックには例外が存在します。
それが、「よくわからないけれど、とにかく素晴らしい」という人材が出てくるケースです。

非論理的ではありますが、採用を行っていると「理由は説明できないけれど、この人はとても良い」と直感的に感じる人材に出会うことがあります。こういった場合、その人材を逃さないことが重要です。
評価基準に基づいて選考を進めるのが基本ですが、「基準からは外れているけれど、何か特別なものを感じる」と思ったときには、一旦ロジックを脇に置き、その人を採用する柔軟さを持つことも大切です。

また、そのような人材を採用した場合は、活躍できる環境を整えることもとても重要になります。その人が力を発揮できるポジションを用意する、適切な役割を割り当てるといった動きを取ることで、その人が本来持つポテンシャルを最大限に引き出すことができるのです。

そして、人事として自信を持って推薦することも大切です。「この人は特別な可能性を持っているのでぜひ見てほしい」と胸を張って伝え、採用の判断を下すことこそ、人事の仕事の醍醐味ともいえるでしょう。