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熊谷守一画文集『ひとりたのしむ』

出版社 求龍堂



印象に残った文章 メモ

獨楽どくらく」 人にはわからないことを、独りでみつけて遊ぶのが、わたしの楽しみです。

8頁

 父の仕事を通していろんなものが見えました。
 生糸の仲買人は百姓をごまかして買い叩き、番頭は台秤をごまかして仲買人から安く買う。それが番頭の忠義心であり、手腕だったわけです。そうやって人の裏をかき、人を押しのけて、したり顔のやりとりを見ているうちに、商売のこつをのみ込んでいく代わりに、わたしはどうしたら争いのない生き方が出来るだろうという考えにとりつかれていったのかもしれません。

17頁

 わたしは、いろいろなもののできた過程を知っているということを欲しがるんです。例えば電車に乗れば電車の構造を知りたい。同じ魚を食ってもその魚がどこに泳いでいるとか、そういうことを知っていればなお面白いみたいな気がします。

52頁

 この正門から外へは、この三十年間出たことはないんです。でも八年ぐらい前一度だけ垣根づたいに勝手口まで散歩したんです。あとにも先にもそれ一度なんです。                   ※96歳の時の発言

62頁

 木曽にいたころ、山小屋を建てなくてはならない。小屋の場所に水がないと生きてゆけないから、岩に耳をあてて、水の湧きそうなところを探す。岩の中で動いていそうな気配がすると、その近くには必ず水があるものだ。風の動く感じでもいい・・・・・・。
 泉って、形があるんだよ。

88頁

 わたしは生きていることが好きだから他の生きものもみんな好きです。

91頁

 地面に頬杖つきながら、蟻の歩き方を幾年も見ていてわかったんですが、蟻は左の二番目の足から歩き出すんです。

92頁

 一般的に、言葉というものはものを正確に伝えることは出来ません。絵なら、一本の線でもひとつの色でも、描いてしまえばそれで決まってしまいます。青色はだれが見ても青色です。しかし言葉の文章となると、「青」と書いても、どんな感じの青か正確にはわからない。いくらくわしく説明してもだめです。
 わたしは、ほんとうは文章というものは信用していません。

98頁


レビュー

 画(カラー)も文章も、品よく少しずつ。
 巻末の「熊谷守一 もの語り年譜」(108~123頁)は、守一の人生の流れを追えて面白い。


リンク

熊谷守一 『へたも絵のうち』 
出版社 平凡社

 

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