映画『天然コケコッコー』の感想を 今時書いて どーもスイマセン
テレビ東京のドラマで日活の前身、Mパティー商会の社長梅屋庄吉を描いた ドキュメンタリータッチのドラマを
U-NEXTで探していた。題名が思い出せなかったので 夏川結衣が主演していたのを記憶していたので
彼女の名前で検索した。そして出てきたのが『天然コケコッコー』。
お目当てのドラマは果たして検索ヒットしなかった。
ちなみに その梅屋庄吉とは 映画人ではあるが 寧ろ孫文を無条件で援助し続けた変人として
変人という形容詞は真に失礼なのだが 現在のおカネで1兆円は少なくとも支援したのは 事実なのである。おカネだけではない。武器火薬の類いを 危険を冒して自ら香港に運び込んだりした。
そして 凄いのは 見返りを何も求めず ひたすら 親友・孫文の革命が 成就するために命もおカネも賭けた日本人である。
偶々映画配給で大金持ちになり 新宿の百人町辺りに
広大な敷地の撮影所も所有していた。マキノ省三とは一線を画す 日本映画の父でもある。
但し 日活を組織する時に 株式問題で 相当に当局から睨まれた人物としての悪名が高い。
それも 私服を肥やすためでなく 孫文の革命資金捻出が目的だった。
そのドラマを制作したのは 私が新卒で入社したテレコムジャパンの生き残りテレコムスタッフだ。
そして企画構成には 同期入社のO女史が名を連ねていた。
そんな劇的なドラマとは 打って変わって
2007年の平成でも 未だ穏やかな我が国の日本海側の田舎が舞台。
小学校と中学校が一緒で 小中合わせて5人しかいない、そんな村の日常を
中学から高校へ進む夏帆演じる 一人称に「わし」を使う娘・右田そよを 中心に淡々と描く2時間。
未だ小泉と竹中による日本破壊政策がジワジワ蝕む前が時代背景だから特定郵便局が村の役所代わりだ。
中学3年生の右田そよに失恋する30代の気持ちの悪い郵便局員の話が深掘りされていなかったのは 救いだ。そのキモイおっさんを1発で失恋させるのは 未だ10代であろう岡田将生演じる大沢広海。東京からの転校生。
原作漫画もスライスオブライフスタイルで 有名らしいし クスっと笑える日常における 異常がユーモアとして連続する。
そして そよが初っ端から 小学1年の最年少少女が お漏らしをすると
自分の妹のように汚れた衣類下着を校舎の水道で洗う。
小さな村だからこそ 生き残っている村人共に家族という大家族主義が 懐かしい。。。
などと私は申さぬ。今年66歳になった私の世代は 特に東京で生まれ育った者は 大家族主義など体験した事は無い。核家族第一世代だ。
両親の離婚によって 母親と共に いきなり大家族主義に放り込まれた大沢広海は
寧ろ 複雑な感情を抱えたまま 東京で母親と2人きりで ローティーンからハイティーンへ進む肉体の成長に追いつかない感情と思考がアンバランスになりやすい多感な時期を
こんな村で過ごせたことは 幸いだった。
海に歩いて行ける 山は登らずともそもそも山の中だ。自然が多感な少年を誰よりも身近に 彼を見つめている。
そういうあやうい美少年を岡田将生だからこそ表現できていた。
最近作の『ラストマイル』や『大豆田とわ子と3人の元夫』そして
前回感想を書いた『ドライブマイカー』も含めて 岡田将生は演技者としての知能指数の高さを
既に 10代で この作品ですら示していたということを認識した。
『ドライブマイカー』で演じた俳優・高槻は ラスコーリニコフかイワン・カラマーゾフを演じたのと同じくらい重厚な役であった。
それも 岡田将生だから完璧に演じきった。
黒澤にもしも三船敏郎がいなかったら黒澤たり得たか大いに考察すべき問題だが
岡田将生は 監督を選ばず ただショットに収めさえすれば
彼がそれを画にしてしまう俳優になっているのかもしれない。
近似値は アラン・ドロンよりジェラール・フィリップ?
勿論 三船敏郎も監督を選ばず の日本が生んだ最高の俳優である。
脚本の渡辺あや氏は 原田芳雄の最後のドラマになった『火の魚』と朝ドラ『カーネーション』でその巧さは知っている。
テレビドラマの名脚本家が陥る 映画脚本になると実力だせない病には
罹っていない。元々映画脚本家だから破綻はないのだろう。
ただ長いね。1時間40分だと無理かなぁ。
それはプロデューサーの問題なのだが
プロデューサーの1人に私の早大シネマ研究会の後輩が名を連ねていた。
名和コウショウ?というペンネームで四柱推命だかの本を学生時代に出版したN君である。
ああそうだ。
夏川結衣が 殆ど後ろ向きで包丁で何かを刻むご飯準備作業ばかり。
なんか勿体ない気がした。日本の母的な包容力を示すタイプじゃないし
えくぼつくって ホントは何たくらんでんだろ という恐ろしさを秘めた
類い稀な美女だが なるほど ラスト近く卒業式直前に
町に一つの理髪店兼美容院で 佐藤浩市演じる夫の元恋人で
大沢広海の母親(美容師)と対峙するシーンで本領発揮だった!
監督は撮影監督に極端なローアングルを指示し
美容室の椅子に腰掛けた夏川結衣が あの前垂れというかエプロンというか
切った髪を受ける布をかけた瞬間 広海の母親がスルリと当初の担当者と代わる。
私なら鏡を使ったショットを選ぶが 山下監督はローアングルのまま
ただ夏川結衣の眼差しが一瞬ギラリと妖しく耀くショットを選択した。
まぁ抑えのカットとして鏡を使ったのも撮影はしただろうが
妖しい美女夏川結衣の眼光をショットとして画にした。
演じた夏川結衣も岡田将生同様 ただ者じゃないのである。
彼女は 20代はじめ 当時の化粧品の広告に打ってつけの美人モデルだったんだけど
あの演技力は何処で覚えたのだろうと不思議に思う。映画全盛期だと
撮影所システムという大家族主義の中で 多くの名女優を輩出してきたが
彼女の世代においてそのシステムはとうに崩壊していたのだ。
モデル出身の阿部寛は つかこうへいにしごかれた。
つかこうへい事務所を閉じて
公演毎にオーディションして『熱海殺人事件』などを演出していたころ
つかさんのしごきに耐えた。 嘗て三浦洋一がちょい役から奪い取った
咥えタバコの伝兵衛を スポットライト1発で美術セット無しの
紀伊國屋ホールにおいて 長台詞絶叫だけを武器に どんでん返しさせた
あの役を体験したことで 阿部寛は 演技力を開花させた例は知っている。
だが 夏川結衣が つかこうへいのしごきに耐えたとは 聞いたことがない。
今年は久しぶりで大学ラグビーシーズンに 早大シネマ研究会の面々と
秩父宮で観戦するか渋谷で落ち合うことになるだろう。
そのおりに やっと先輩Kさんと 『天然コケコッコー』の話ができそうだ。
先輩Kさんは 夏帆に夢中である。スマン わたしは夏川結衣の方が好きだ。
ラストで 岡田将生がしっかり坊主頭になっている。
それを見た瞬間 佐藤浩市のボケナス!と私は言い放つのだった。
『ファブル』に続いてこの映画でも 佐藤浩市が演じた役は
中井貴一をキャスティングすべきだったんじゃないのかなぁ と思ってしまった。
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