認知症と診断するのが難しいとき

認知症と診断することは難しいことが時々ある。

正確に言えば、難しいというより悩ましいことが時々ある。

それはなぜか。

1.認知症の定義は曖昧である

認知症の定義は、

ICD-10
脳疾患による症候群であり、
通常は慢性あるいは進行性で、
記憶、思考、見当識、理解、計算、学習能力、言語、判断を含む多数の高次皮質機能障害を示す。
日常生活の個人的活動(洗面、着衣、摂食、個人衛生、排泄、トイレ使用など)にも何らかの問題が起こる。

DSM5
1つ以上の認知領域(複雑性注意、実行機能、学習及び記憶、言語、知覚―運動、社会的認知)において、以前の行為水準から有意な認知の低下がある。
毎日の活動において認知欠損が自立を阻害する。

とされている。

分かるような、分からないような定義である。

簡単に言えば、以前より何らかの能力が低下して日常生活がしづらくなった状態である。

しかし能力が低下しているといっても、初診で来た人の元々の能力を知らない。

能力が低いということは分かっても、家族からの情報が無いと低下したか判断が難しい。

これらの判断は、
本人の元々の能力
性格や習慣
家族や周囲の
(能力の低下を)受け入れる能力
本人に対する関心
観察力
などが強く影響を受ける。

もちろん誰が見ても分かるほど能力が低下している場合、認知症であることは疑いようがないものの、正直そこまで行くと医学的な治療効果はほとんど無い。

介護保険を利用した生活の支援が中心となる。

2.認知症の評価スケールは実はあてにならない

認知症を評価する心理検査として、HDS-R(長谷川式簡易知能評価スケール)、MMSE(Mini-mental state examination)がある。

両者ともに30点満点で、HDS-Rは20点以下で認知症の疑い、MMSEは23点以下で認知症の疑いとされる。

HDS-Rは 記憶力や見当識の点数配分が大きく、これらが初期に障害されることが多く、認知症の50%程度を占めるアルツハイマー型認知症は敏感に見つけることが多い。

しかし各20%程度の脳血管性認知症やレビー小体型認知症では、記憶力より他の能力の方が先に障害されることが多いため、初期では見つけることができないことがある。

HDS-R 20点以下が認知症疑い という基準の場合、感度93%、特異度86%

加藤ら 老年精医誌 1991

認知症の人の93%を認知症と診断でき、認知症ではない人の86%を認知症でないと診断できる。

問題なのは、認知症の人の7%は21点以上になり、認知症でない人の14%は20点以下になってしまう。

3.検査と症状が一致しない

頭部MRIやCTで脳が著しく萎縮し脳梗塞が多数あっても、認知症とは言いがたい人もいる一方で、ほとんど正常に近いにも関わらずひどい認知症の人もいる。

また認知症のタイプ(アルツハイマー型など)も臨床症状から判断するタイプ、画像検査から判断するタイプ、死亡後の解剖から判断するタイプが一致しないことが比較的良くある。

診断技術がまだ未成熟のためなのか、認知症は一つのタイプに留まらず重複することもあるためなのかもしれない。

認知症と診断するとき、しないとき

こういったこともあり、HDS-Rが23点でも、家族が本人の状態を問題だと感じ、細かく本人の行動を観察し以前に比べてできなくなったことを列挙した場合、認知症と診断されることもある。

一方 HDS-Rが20点でも、家族が本人の状態を問題と感じず、できないことがたまにはあるかもしれないが大体できていると繰返し述べた場合、認知症と診断されないことがある。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?