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不登校の人が病院受診する意味

【疑問】不登校の人が病院受診する意味は何でしょうか?

【回答】病院を受診しても学校に行けるようにはなりません(行けるようになることもあります)。医師が得意とすることは、精神疾患のチェックと必要時に治療開始する、薬の効果で病的な状態の改善を目指す、病名がつくことで安心しゆっくり休める環境を作ることです。一方ゆっくり話を聞いて本人と家族の気持ちが楽にさせたり、ストレス耐性やコーピングスキルを改善させることは苦手です。それらを理解したうえで病院を利用してください。

 

不登校の人の受診後経過

過去に受診したときに不登校だった人はその後どうなるかを調べてみたことがある。

対象:初診時に10代以下36人中、初診時に不登校だった30人(83%)
性別:女20人、男10人
初診時年齢: 15.6±2.7歳
不登校になってから受診までの期間:8.0±11.7ヶ月
結果:
改善=一見普通に登校、不十分=時々休んだり保健室登校、不変=退学含むと定義すると
改善37%、不十分17%、不変40%、不明7%

不登校になってから受診までの期間で分けると、
1ヶ月未満 改善78%、不十分11%、不変0%、不明11%
1~2ヶ月 改善38%、不十分13%、不変50%
3~6ヶ月 改善0%、不十分25%、不変75%
7ヶ月~ 改善13%、不十分25%、不変63%

初診時不登校だった人のその後


病院を受診しても不登校が続く人や退学する人は多い。また不登校になってからの期間が長い人の方が改善しない傾向が強いが、これは当然といえば当然である。不登校になってから2ヶ月以内に登校できるようにならなければ、短期的な視点からは登校できるようになるのは難しい。

このデータは、不登校になったらできるだけ早めに病院に行きましょう、という意味では決してない。

不登校になって間もない人は、つらい作業ながらも元の環境に再度適応できるパワーとモチベーションを持っていることが多く、登校できるようになる可能性があるということであって、治療効果があるということではない。

登校できるようになった人のほとんどは、私が「治療」しなくても登校できるようになったはずである。「学校になんとか行かせたいから病院に来た」という家族のニーズには、少なくとも私には全く答えることができないし、多くの精神科医・心療内科医は答えることができない。

医師は不登校の人に関わるのはあまり長くはなく、本当の意味での長期的な経過を知らない。外来受診をする20~40歳代の人が「若い頃はちょっと不登校でした」と話してくれることはよくあり、その人達はちょっとだけ人付き合いで苦労し、一時的に不登校になることがあったものの、10代後半から受診まで問題なくそれなりに充実した生活を送っていることも多い。

不登校の人たちは、元の学校に戻ってはいないことが多いものの、そんなに「予後」が悪いものではなく、元の学校に戻そうと必死になることで「予後」を悪くすることがある。

 

病院受診のメリット

不登校の人を病院に連れていくことにはメリットとデメリットがある。それを理解するためには、まず病院ではどんなことをしてくれるのかを理解しておくのが良い。

1.精神疾患のチェックと必要時に治療開始

特に統合失調症の場合は早期からの薬物治療が極めて重要である。

時々、学校のストレスが原因で不登校になり、その後 統合失調症を発症したという話があるものの間違っている。ほとんどの場合は、統合失調症が発症し、不登校という形として現れ、その後 統合失調症の症状が激しくなり周りが気がつくようになる。ただし頻度はそんなに高くはなく、特に学校では非常に不安定でも、家ではまったく普通の場合は可能性は低い。

 一方 発達障害のチェックは、発達に詳しい精神科医や心療内科医は少ない。チェックできたとしても、その後の発達障害のある小中学生の療育ができないことがほとんどである。精神科医は苦労をねぎらい不安をやわらげるのは得意ながら、発達障害のある小中学生に本当に必要なことは一時的に気持ちを安定させることではない。自分の特性を肯定的に理解できるよう支援し、できないことをできるようにするための工夫と具体的な助言が必要なのであって、発達障害が診察できるといっている精神科医の中でこれができる人はほとんどいない。

 発達障害を疑った場合、中学生までは小児科がいい。高校生以降は小児科あるいは発達障害を専門とする心療内科・精神科がいい。

参照:日本小児神経学会 発達障害診療できる医師


2.薬の効果で病的な状態の改善

正常な反応でもその反応があまりにも強いときには薬の力で少し良くなることは意外と多い。ちょっと楽になることで、「もう少し頑張ってみよう」と思えるようになる。

ちょっと調整して良くならないときには、あまりムキにならず薬でなんとしても治すと思わない方がいい。ムキになると泥沼に陥ることが多い。

 

3.生活のリズム作りと体調管理を意識する

本当は病院に来る前からした方が良いが難しい。心を健康にするにはまずは体を健康にすることが不可欠である。病院で指導を受けることで、意識するようになり、積極的に取り組むことができるようになる(ことがある)。

 

4.病名がつくことで安心しゆっくり休める

精神科では診断に役に立つ検査がないため、どんな状態でもほとんど場合、病名をつけることが可能である。病名がつくことで、本人が悪いなまけているのではない、親の育てかたや対応の仕方が悪いのではない、いうことが保証され安心し、今は学校に行く事ができない状態であることを保証され安心して堂々と休むことができる。

本当は医師は保証したわけではない(ときもある)ものの、一般の人には保証されたと感じることが多く、焦りや不安が軽減し、本人も親も安心して休み、自然治癒力が回復し改善していく。

 

5.第三者が関わることで膠着した関係が変わる

不登校の子・家族・教師だけでは、過干渉になったり、攻撃的になったり、自分が悪いと思ったりとどうしても膠着状態になりやすい。

医師などの医療機関の人という、平等かつ影響力を持つ(と思われている)人がアドバイスや指導をすることで、膠着状態に陥った関係が少しほぐれて関係がうまく回るようになることがある。

しかし上手くいくためには、医師は学校に行かせようとするだけではだめである。家でも、学校でも、病院でも学校に行くことのプレッシャーをかけ続けられては、本人は思考停止して学校に身体だけ行かせるか、強い身体症状や精神症状を出すしか生きる道が無くなってしまう。逆に学校に行かないようにするだけでは駄目で、本人と医師の関係は良くなっても、学校や家族との関係は悪化し、病人であることでしか生きる道が無くなってしまう。

不登校の人が病院受診するときには、ひたすら学校に行かせようとする病院や 学校を完全否定して学校なんて行かなくていいししか言わない病院は避けた方が良い。

 

6.本人と家族の気持ちが楽になる

ゆっくりと話を聞くことで気持ちが楽になり、悩みが少しだけ軽くなる。続けることでゆっくりとストレス耐性やコーピングスキルが向上する。

若い人の場合は気持ちを楽にさせることばかり優先させるのではなく、ストレス耐性やコーピングスキルの向上を常に念頭に置いた対応が重要であることを再度強調しておきたい。40-50代以降の人は自分の生き方、考え方、人付き合いを変えるのは難しいが、若い人は十分に変えることができる。

 

医師ができること できないこと

医師にしかできないことは、
1.精神疾患のチェックと必要時に治療開始
2.薬の効果で病的な状態の改善
4.病名がつくことで安心しゆっくり休める
それ以外は医師以外にできる。

逆に医師がすることが時間的・能力的に難しいことは、
3.生活のリズム作りと体調管理を意識する
6.本人と家族の気持ちが楽になる

特に6は本人や家族が一番求めていることでもある。ゆっくりと話を聞いてもらい気持ちが楽になり、精神的に安定することを期待し、学校に行けることを期待して病院受診をしているのであって、1や2の精神疾患のチェックや薬をもらいに来てはいない。残念ながら医師がもっとも答えることができないことであり、5分程度話を聞いて薬を出して終わりである。

医師ができることや得意としていることと、本人や家族の希望が一致せず、お互いが失望することが多い。病院にできること、できないことを理解したうえで、病院を利用するのが良い。

 

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