リモートワークを推進するために突破すべき「3つの拘束」

リモートワークを推進するためには「拘束」という要素を減らしていく必要があります。

全員が同じ場所、同じ時間を共通して、同じ話題について話し合う――

このような原始的で高密度なやり方をリモートでも実現しようとしても、上手くいきません。どころか、せっかくのリモートの利便性や多様性が損なわれてしまい、「出社よりも不便だね」で終わってしまいます。

リモートを推進するためには、そもそも発想を転換する必要があります。原始的で高密度なやり方を実現するのではなく、別のやり方に頼るのです。そのためのファーストステップとして、「3つの拘束」という切り口で切り込んでみます。

3つの拘束とは

以下の3つです

・場所の拘束
・時間の拘束
・話題の拘束

以下、詳しく見ていきます。

場所の拘束

同じ場所に居なければならないという拘束です。オフィスに出社する、会議室に集まるといったことはここに該当します。

場所の拘束は以下の弊害を生み出します。

・移動コストがかかる
・高いパフォーマンスを発揮しづらい(移動先の場所では「発揮に必要な環境や道具」が完備されていない)
・場所代がかかる

場所の拘束を突破するには、在宅勤務に頼ります(サテライトオフィスなど他の選択肢もありますが今回は割愛します)。

もちろん、いきなり自宅で仕事できるようにはならないですし、自宅にも弊害はたくさんありますので、きちんとクリアしていく必要があります。

たとえば自宅の仕事環境を整えるための金銭的補助、生活の過ごし方(時間配分や休憩のやり方)や自室空間のつくりかたといったテクニック、同居人や家族との調整など。個人レベルでは学習と行動(試行錯誤)が必要ですし、組織レベルでは情報共有やルール改正が必要です。少なくとも、個人も組織も変えなければクリアはできません

時間の拘束

同じ時間を過ごさなければならないという拘束です。コアタイム、10時~12時に行う会議、口頭の会話、チャットでのリアルタイムな会話などはここに該当します。

時間の拘束は以下の弊害を生んでいます。

・自分の都合や気分を度外視して、時間に合わないといけないという不便や苦痛
・(特に会議では)アポイントメントやスケジューリングのコスト
・終了時間になるまでとにかく過ごすという無駄

時間の拘束を突破するには、書くことです。もっと言えばツールに頼ります。古典的にはメールが知られていますが、情報量が多くて慌ただしい現代では力不足です。QWIC が良いでしょう。

・Q&A …… Yahoo!知恵袋や Quora のような Q&A システム。企業向けとしてはあまりメジャーではない。
・Wiki …… ウィキ。まとまった情報を残したり議論したりする。いわゆるストック型情報共有。
・Issue …… イシュー。スレッドにコメントにぶら下げる形のスタイル。フローとストックの間くらい。
・Chat …… チャット。スピーディーなコミュニケーション重視。いわゆるフロー型情報共有。

チャットも割と知られていますが、それだけでは(時間の拘束を突破するには)足りません。少なくともフロー型とストック型の両方をカバーする必要があります。最低でも Chat と Wiki。できれば Issue や Q&A も欲しいところです(が、高度なので今回は割愛します)。

Wiki というと、Wikipedia やゲームまとめウィキ(攻略情報をまとめたウィキ)が有名でしょうか。時間の拘束を十分に突破するには、全員に「あのようなウィキの会社版、チーム版、PJ版がつくれる・使えるリテラシー」が必要です。

書いて仕事する、という発想はまだまだメジャーではないですが、時間の拘束を破るためには避けては通れません。

ここをクリアできないからこそ、リモートなのにやたらとビデオ会議や音声会議をしたり、「出社しないと仕事にならない」から出社したりといったことが多発します。もっと言うと、情報を残すということをせず、「まあ顔を合わせて話し合えば何とかなるだろ」という原始的な楽観から抜け出せません。

話題の拘束

全員が一つの話題に言及している(一つの話題にしか言及することができない)という拘束です。一般的に打ち合わせやコミュニケーションにはこの拘束がついてまわります。

話題の拘束は以下の弊害を生んでいます。

・脱線したり、話を蒸し返したりすることができない
・今何について話しているかを意識したりコントロールしたりするコストがかかる(話し合いに集中できない)
・自分の思考や気分を度外視して、今出ている話題に合わないといけないという不便

つまり「一度に一つの話題しか扱えない」がゆえの限界が生じているということです。「そういうものでは?」と言われればそれまでなのですが、実はこの話題の拘束、突破できます。突破できれば、nつの話題を自由に扱えるようになり、一次元上の生産性を手に入れることができます。

そんな話題の拘束を突破するには、たとえば Scrapbox を使います(※1)。

より一般的に言えば、誰もが自由に書き込める・書き足せる「アウトプットプール」を用意して、全員が自分のペースで書き込んでいく・書き足していく、というやり方です。無論、かんたんに行えることではなく、「全員がウィキを使えるようになる」よりもさらに難易度が高い。

ですが、ここをクリアできれば、「言いたいことが30あっても全部検討する」とか「一度も会議せずに仕事を成立させる」ことさえ可能になります。

※1 ここでツール名を挙げているのは、話題の拘束突破がまだ新しすぎるがゆえに、専用の理論や概念がまだないからです。

おわりに

リモートワークを推進するためのヒントとして、3つの拘束という切り口で解説を試みました。重要な点を一点挙げるとすれば、以下になります。

少なくとも、個人も組織も変えなければクリアはできません。

つまり、リモートにはリモートのやり方があるのだということです。これを理解せず、従来の対面口頭コミュニケーションをリモートで再現することばかり考えていても上手くはいきません。

と、(私が考える)リモートワークの本質について切り込んだところで筆を置きます。リモートワークを推進したい方の参考になれば幸いです。ではまた。

p.s. もちろん対面口頭コミュニケーションが重要な文脈もありますし、そもそもリモートが通用しない仕事もあります。本記事はあらゆるシチュエーションにおいて3つの拘束を常に完全に突破するべきだ、と主張しているわけではありません。

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