YNNT――多様性を自己申告するという考え方

多様性という言葉が扱っている多様性は、ごくごく一部だけだと私は思います。多様性と聞いて誰もが思い浮かべたり、実際配慮されたりするのは以下ではないでしょうか。

・障害・病気
・家族(子育てや介護など)
・性(LGBTQなど)

これを便宜上、公然の多様性と呼ぶことにします。

多様性=公然の多様性か?

私は違うと思うんです。たしかに公然の多様性には配慮するべきですが、配慮するべき多様性はそれだけでしょうか。他にもあるのではないでしょうか。たとえば以下があります。

・身体の性質(朝型と夜型)
・強い WANT(たとえば、毎日定時退社したい)
・強い WANT NOT(たとえば、自分のことを語りたくない)

現状、上記は多様性とは認められていません。夜型の人でも朝型のリズムを強要されますし、毎日定時退社もせいぜい「あるべき姿だとは思うよ(まあ残業が必要になったらしてもらうけどね)」で実質運ゲーですし、語りたくない人もやれ付き合いだのコミュニケーションだの何だので自己開示を半ば強制的に勧められます。

こういうと「社会人はそういうものだ」とか「仕事なんだからそれくらい我慢しろ」などと言われますが、より快適に働けるに越したことはないはずです。

そもそも現代は技術革新が進み、消費者の目も肥え、VUCA でもあります。高いパフォーマンスを出すことを惜しんでいる場合ではないですし、我々が人間である以上、より快適な方がよりパフォーマンスも出ます。

もちろん割り切りや我慢、あるいは個の事情を度外視したスタイルが必要な仕事もあるでしょうが、そんなものはごくごく一部ではないでしょうか。公人、軍人や武士じゃないんだし。

多様性という免罪符

しかし、だからといって何でもかんでも多様性と認めるわけにもいかないでしょう。収拾がつかなくなります。

YNNTを提唱したい

ここからは「公然の多様性以外の多様性(への配慮)」を実現するための一案です。YNNT というものを考えてみました。

これは Your Non-Negotiable Things の略で、「あなたの "譲れない" こと」です。

・一人一人が自分の YNNT を n 個(0個でも良い)を申告する
・申告した YNNT は、関係者(仕事の関係者や同じ会社の社員)なら誰でも見れる・知れる
・申告された YNNT には配慮しなければならない

要するに、公然の多様性レベルでしっかり配慮させることを担保しましょう、というものです。

カウンタブル多様性、という考え方

既に見ているように、YNNT にはいくつかの問題があります。

・公然の多様性はどうするのか
・何でもかんでも多様性にすると収拾がつかなくなるが、どうするのか

前者については、Countable(カウンタブル/数えられる)という概念で区別します。公然の多様性は、何個でも計上できる「アンカウンタブル多様性」として扱います。

後者については、計上できる個数を限定させます。たとえば上限を3個とした場合、一人一人は3個まで多様性を申告できます。このような「公然の多様性 "以外"」の多様性を「カウンタブル多様性」と呼ぶことにします。カウントされる、という意味です。

弱点を公表するということ

YNNT には、そもそも申告(公表)しなければならないというハードルがあります。そういう意味で弱点の告白とも言えます。それを関係者全員、社員全員に見せるわけです。並大抵のことではありません。

逆を言えば、そこまでしてでも配慮してほしい人だけが申告することになります。ゆえに皆が軽率に乱用して収拾がつかなくなる、という事態にはなりません。

働き方をエンジニアリングする

YNNT は私が考えたばかりのこと(既にどこかで誰かが似たことを考えている可能性は十分あります)であり、まだまだアラはあります。

たとえば「カウンタブル多様性の選択肢はどうするか」「そもそも選択肢でいいのか(それは申告と言えるのか)」「何個まで認めるのか」「配慮とは具体的にどういうことか」「そもそも公然の多様性も申告しなければならないのか」など、いっぱいあるでしょう。

しかし、そういうことは実際に試して、変えていけばいいのです。エンジニアはプロトタイプを実際につくって、使ってみて試行錯誤を重ねていくものですが、同じようなことが働き方にも必要な段階に来ていると思います。YNNT は、言わば僕が考えた「働き方のエンジニアリング」の一つにすぎません。

おわりに

最後は少し脱線しましたが、YNNT――多様性を自己申告するという考え方についてまとめてみました。

だから何?と言われればそれまでですが、私はこうして言語化せずにはいられなかったのです。何らかの刺激や参考になりましたら幸いです。

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