常微分方程式の解の存在定理について(1)

 誰かまとめてくれ。

 いや、ホント不便なんだよあれ。定番の定理だけで4通りあって、証明方がそれに応じてさらに3通りくらいあるんで、12通りくらいになる。それをいちいち、このやり方はアレを参照、これはそれを参照、とかやるのが面倒すぎる。しかも日本語文献だと英語論文に引用できない縛り。勘弁して欲しい。
 現状、Pontryaginは日本語版はいいんだけど英語版はほぼ使えない。Smale and Hirschも微妙。HartmanとCoddington and Levinsonは若干マシだけどどーにも読みづらい。LuenburgerとIoffe and Tikhomirovは一部有用だけど一部しか使えない。どれをどんなタイミングでどう引用すればいいのかわからないんだクソ!
 とりあえず、ここに基礎知識書いとく。どんだけ面倒かがわかるはずだ。
 まず常微分方程式、その最も典型的問題である初期値問題(コーシーの問題)は、次の形で書かれる。

(1)    y'(x)=f(x,y(x)), y(x_0)=y_0

 ここでxは、「常」微分方程式なのだから実数。で、y(x)はn次元のベクトル。f(x,y)はxとyに対してn次元のベクトルを返す関数で、定義域はさしあたり開集合と仮定する。
 で、まず関数y:I→R^nがこの問題の「解」であるとは……という、実はこの「解」の定義が複数あるんだよ! というところからめっちゃ面倒くさい。典型的な「解」の定義だけでも二つある。第一のものは以下の通り。

1)Iはx_0とそれ以外の点を一つ以上含む凸集合(以後、x_0を含む「区間」と略記する)であり、2)y(x_0)=y_0で、3)yは連続微分可能で、4)y'(x)=f(x,y(x))がIに含まれるすべてのxに対して成り立つ。(xがIの端なら、片側微分で評価)

 第二のものは以下の通り。

1)Iはx_0を含む区間であり、2)y(x_0)=y_0で、3)yはIの任意のコンパクト部分区間で絶対連続で、4)y'(x)=f(x,y(x))がIに含まれるほとんどすべてのxに対して成り立つ。(「ほとんどすべての」というのはルベーグ測度についての評価)

 第一の解なら第二の解であることはすぐ示せる。実は、fが連続関数なら、第二の解が第一の解でもあることも示せる。だからほとんどこのふたつは同値なのだが、fが不連続なものを扱わないといけないことがあるから事情が複雑になってくる。例? マクロ経済学の典型的モデルでも、資本蓄積方程式

k'(t)=f(k(t))-c(t)

は消費経路c(t)が不連続だったら第一の解、普通はないよ?
 で、fの連続性を仮定する。これに加えて、fがyについて局所リプシッツという条件(面倒なので詳細は省略)を入れると、次の結果が成り立つ。上の微分方程式(1)の「第一の」意味での解が存在し、しかも固定された各定義区間に対してただひとつに定まる。この定理は「ピカール=リンデレーフの定理」と呼ばれる。
 次に、fの連続性しか仮定しない場合、「第一の」解は、複数あるかもしれないがとりあえず存在する。この定理は「ペアノの存在定理」と呼ばれる。
 今度はfの連続性を仮定できない場合を考えよう。f(x,y)が、xを固定するとyについて連続で、yを固定するとxについて可測、という条件を「カラテオドリの条件」と言う。これに適当な可積分条件と、yについての局所リプシッツを加えると、「第二の」解が存在して、しかもただひとつに定まる。一方で局所リプシッツがない場合にもとりあえず「第二の」解が存在することまでは言える。このふたつは「カラテオドリの存在定理」とまとめられるが、どっちがどっちかわからないことが多いので、僕は前者を「カラテオドリ=ピカール=リンデレーフの定理」と、後者を「カラテオドリ=ペアノの定理」と呼んでる。
 ……はい。定理の紹介しかしてないのにこの長さだよ! これに加えて、それぞれの定理について証明法が複数あるって話なのだが……長くなってきたんでいったん切る。これ全部まとめてる書籍とかないもんかね。

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