常微分方程式の解の存在定理について(2)

 はい、前回の続きだよー。

 前回、コーシー問題の解の存在定理について書いた。条件が違う状況で4つもあるというのですでにうんざりしてる読者が大半だろうけど、実はこれらのそれぞれに証明法がだいたい3種類ずつほどあるんだわっはっは。死ねばいいのに。

 はい、とりあえず考える常微分方程式はこれね。

y'(x)=f(x,y(x)),  y(x_0)=y_0

 で、今回はI=[x_0,x_1]という形をした区間上での解の存在定理のやり方を見ていきましょう。ピカール=リンデレーフの定理から話をする。最初にこの方程式を、同値な積分方程式に置換する。

y(x)=y_0+∫_{x_0}^xf(z,y(z))dz

 これの解の存在を求めるのだが……ここから証明が3パターンに分かれる。

1)逐次近似法

 y_0(x)を、y_0を常に取る定数関数とし、

y_{k+1}(x)=y_0+∫_{x_0}^xf(z,y_k(z))dz

として逐次的にy_k(x)を定義していくと、この列が一様ノルムでコーシー列だということが示せるので、極限がある。で、有界収束定理とか使うと極限が解だと示せてめでたしめでたし。というやり方。

2)折れ線法

 y(x_0+kh)の近似値y_kが定まっているとして、y_{k+1}=y_k+hf(x_0+kh,y_k)と定義する。(陽的オイラー法だね)で、この近似値をつなぐ折れ線を作ると、これがhの減少列について一様ノルムでコーシー列だと示せるので極限が以下略。

3)不動点法

 Pを、関数y(x)に対して、

P(y(・))(x)=y_0+∫_{x_0}^xf(z,y(z))dz

というべつの関数を返す作用素とすると、微分方程式の解はこのPの不動点と一致する。で、適切に関数の空間を区切るとPが縮小写像になるので、縮小写像の不動点定理から不動点があって以下略。
 はい、以上3つが「主要な」証明法でした。問題が少し状況変わるとこれらのうち適用できるものと適用できないものが分かれてきて、たとえば折れ線法を陰的オイラー法に変えたものしか通用しなかったりするんで全部やり方覚えろってのがまあ、定番なんだ。あきらめろん。
 で、問題はこれ、ピカール=リンデレーフの定理の解の存在証明なんだ。つまりたとえばペアノの定理だと全部マイナーチェンジする。たとえば、逐次近似法ではコーシー列だと言えなくなって、代わりにアスコリ=アルゼラの定理で部分列の収束を言う。折れ線法も同じでコーシー列だと言えないけど折れ線がh>0に対する同程度連続性を満たすんで以下略。不動点法は縮小写像だと言えないけど、あらかじめfが有界になるように範囲を区切っておいてfのノルムの上限をリプシッツ定数とする空間に限定すればその空間内の関数は全部同程度連続なんで、アスコリ=アルゼラの定理からコンパクト空間で、後はまあ適当にいろいろ調べるとシャウダーの不動点定理が使えて以下略。
 え、カラテオドリの方はどうかって? これはまずy(x)が可測ならf(x,y(x))が可測であることを示さないとねー。でないと積分に入れられないからねー。で、それが済んでからも問題で、いまfが連続でないので、f(x,y(x))がリーマン積分可能かどうかわからない。折れ線法はリーマン和に対応するような議論しているので折れ線の取り方を最初からめっちゃ工夫しないと、収束先が積分方程式の解であることを保証できない。一方でカラテオドリ=ペアノだと不動点法のPの連続性を言うためにけっこう細かい可測集合の性質を確かめないといけなくてめっちゃ不便。すんごい大変だったりする。
 僕は詳しく知らんけど、確率微分方程式でも同じような感じで分かれてるらしいね……考えたくもねえな。やだやだ。
 で、さて、ここでひとつ、残念なお知らせがあります。
 これ、[x_0,x_1]上の解の存在なので、x_0を内部に含む区間上の解の存在はまたべつの議論になるんよ?
 もうやだ。以上。

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