メンヘラ婚約者が俺を狂わせてくる。 第11話
最初に言っておく。
今回はかーなーり、
違う。
"事象"を紹介から昔の回想
というのがいつもの流れだが、
似たような回想シーンが無い
新しい"事件"が起きてしまった。
阿鼻叫喚の一部始終を、
皆様と共に見ていきたいと思う。
…
…
飲み会、
1番嫌いな行事。
部署内で比較的若手の
メンツしかいないものの、
やはりこういう馴れ馴れしい空気は
好きになれないものである。
果歩:◯◯さぁん、私のこと、どう思ってるんですぅ?
◯◯:後輩。
果歩:えぇ〜、それだけぇ?
弱いのなら飲まなきゃいいのに、
迷惑かけるやつが理解できない。
後輩のくせに顔を赤く染めて、
隣の俺の腿をすりすりしてくる。
◯◯:それだけも何も…ですよね、先輩。
ひかる:さぁ、分からない。
果歩:ほらぁ~~、やっぱ見え見えなんですよぉ、◯◯先輩のラブサイン!!
◯◯:はぁ、
可愛い顔をしているのだから
黙って店の隅っこで大人しくしてれば、
そんなLove signが"不特定多数"から
わんさか届くはずなのに残念ですね。
果歩:ねぇぇぇ~、◯◯先輩が素っ気なぁい!
先輩1:◯◯くん、果歩ちゃんにもっと優しくしてあげてってぇ!!
そんなどこかの国の
わがままな第三王女よろしく、
甘い号令を聞きつけたゴミ兵士共が
怠すぎる援護射撃をしてくる。
◯◯:すみません、こういう人間なので。
ひかる:確かに、一理ある。
先輩2:そんなことより田村、早く嫁さん見せてくれよ!
◯◯:この前、写真見せましたよね。
無駄に酒に強いせいで、
酔って絡んでくる奴らが不快の極み。
ウチの嫁のにゃんにゃんにゃぎも
割と酒に強いらしく、
酔わせて襲うなんて手段は
あまり効かないのが痛恨の極み。
ひかる:…何ニヤついてるの。
果歩:やっぱ私のことが好きなんですよぉ!
◯◯:…だる。
こんなに疲れる会が
あってたまるか、
それからは雑音を打ち消すために
柄でもなく酒を大量に喉に流し込んだ。
…
…
飲み会が終わったものの、
果歩:せんぱぁい、やっと2人きりでしゅねぇ〜
店の外で悪酔いに
付き纏われてしまった。
腕組みほっぺすりすり、
ボディタッチのオンパレード。
果歩:いつの間にか、終電無くなっちゃいましたぁ。
◯◯:まだあるし。
果歩:こんな可愛い子に、深夜に1人で帰れって言うんですかぁ!?
◯◯:はい、タクシーでどうぞ。
果歩:いやだいやだいやだいやだっ!!
この瞬間をあろうことが
同僚の誰かに見られたりしたら、
和さんが何と思うかと考えると
冷や汗が止まらない。
◯◯:…本当に帰ってよ、頼むよ。
果歩:あーあ、私が知らないおじさんに"襲われ"ても良いんですね!?
◯◯:あなた22とか23でしょう、自衛くらいしてよ。
果歩:えーーーん…
めんどくさい奴ばっかりだ、
俺の人生。
こんなの忘れて嫁の待つ
家に帰って早く寝たい。
◯◯:何が望みなんだ?
果歩:先輩の"愛の巣"に泊まりたい。
あ、希望通り
すぐ帰れそう。
なんか言ってられるか、
後輩の女子連れてくなんて言語道断。
◯◯:帰れ。
果歩:やだっ!!…さもなくば、先輩に襲われてるって今ココで叫びますよ!!
◯◯:この野郎…
ーーーーーー
ちょうど◯◯さんの
飲み会が終わったくらいの時間、
私のスマホが鳴ったので
キッチンから急いで向かう。
和:はい、和です。
◯◯:和、ごめん。
和:何が?
◯◯:後輩連れてくわ。
衝撃の一言。
浮気なんかではないと分かってるけど、
少し拗ねちゃっている自分もいる。
和:んな、急にですか?
◯◯:めちゃくちゃ酔ってて、"帰らん"って聞かないんだよ。一晩だけだし、面倒見てやってよ。
和:はぁ。ちなみにその後輩っていうのは、前に言ってた女の子ですか?
◯◯:そう、クソだるい女。
電話越しに、
「あぁ!クソ女なんてモラハラですぅ!」と
私が忌み嫌っている"他の女"の声が
若干聞こえてくる。
◯◯:そんで見つかるとめんどくさいから、"おもちゃ"とかあったら隠しといて。
和:…明日はお仕置きですよ。
◯◯:ありがたき幸s
意味分からないこと言ってる
夫からの電話を切って、
とりあえず家の掃除を
軽く始めたは良いものの…
"変な"女だった場合は、
何をするか自分でも想像したくない。
…
…
果歩:こんばんわあぁ〜、◯◯先輩の新しいお嫁さんの"かほりん"でぇすっ!!
和の顔と視線だけが
こちらにゆっくり照準を合わせ、
バチクソメンヘラモードに
今度こそ冷や汗が溢れて止まらない。
和:はじめまして。◯◯さんの"妻"の、和です。
果歩:きゃぁ!すっごい可愛い!
和:…どうも。
この間ずっと、
俺と目線が合っている。
偶にしか見ない表情でもあるし、
ダメなんだけども興奮する。
和:お荷物、お預かりしますね。遠慮せず、上がってください。
果歩:はぁ~いっ
荷物をドカッと預けて
リビングに駆けていく後輩を見送って、
遂に嫁の眼光が一点集中、
口も尖ってきて仕上がっています。
和:…
◯◯:違いますからね、
和:そうですか。
至って冷静を装って
さらに口数少ない和さんだが、
俺を置いてリビングに戻っていくときに
がっつりドアに足の小指をぶつけていた。
動揺してんじゃん、
可愛いところあるじゃん。
和:…何見てるんですか、早くお風呂入って下さい。
◯◯:和ちゃん、そんな怒んないでよ。
和:怒ってないです。
◯◯:ふふ、そっか。じゃあ藤嶌さんを先に、お風呂に入れてあげてくれないかな?俺はその後で良いよ。
和:はい。
不服そうだけど、
何とか了承してくれた。
嫁の頭越しにすでに、ソファに
大の字になってる奴見えるの最悪。
和:1週間"禁止"ですからね、罰として。
◯◯:え!?…いやそれは、ちょっとキツいっすわ。
和:知りません、禁止と言ったら禁止です。
頬を膨らませながら
急患を迎えに行った嫁、
うーーん、どうにか"襲う"戦略を
考えなければいけなくなったな。
ーーーーーー
果歩:和さぁん、一緒に写真撮りましょぉ〜
和:は、はい…
風呂に一緒に入ったからか、
割と打ち解けてくれて助かる。
打ち解けると言っても
嫁はもはや着せ替え人形のように、
ネコ耳やらを手品のように
付け替えられているのだけれども。
…あと、隠してと伝えたでしょ
そういう"グッズ"の数々は。
◯◯:じゃあ俺、風呂入ってくるから。
和:分かりました。
果歩:後輩ちゃんも入るぅ!
和:さっき入ったばかりです。
ゾンビのように暴れ回る後輩を
羽交締めにする和を見ながら、
俺は後退りするように
風呂へと向かった。
果歩:ぎゃぁぁぁぁぁ〜っ!
和:ふぐぐぐ…
◯◯:…
その怪力と表情に
何かしらの怨恨が篭っているのは、
多分
目の錯覚であると信じたい。
…
…
どうしてこうなったのか。
大体
どんな創作物でも、
メンヘラ嫁と異性の後輩という存在は
お互いに相性が悪いと決まっている。
そこに挟まれた夫というのは
3すくみどころかどちらからも、
抜群を取られることもまた
大抵お決まりのパターンである。
だからウチの嫁のことは
奥さんというか家内というか、
とにかく大事に家に隠して
誰とも会わせたくないのだ。
束縛ではなくて、
メンヘラモード防止のため。
同じ空間で過ごし
同じ洗剤を使ってもなお、
拭いきれない"にゃぎ"の香りが
この風呂場中に残存する片隅に、
どことなく藤嶌の"かほりん"の
かほりが漂ってくることいとおかし。
いやしかしにゃぎの匂いこそ、
遺伝子レベルで効いてしまう。
…ダメだダメだ、
風呂場は本来、
淫らな場所ではない。
けども1週間の"禁止"を
命じられた可哀想な俺、
この誘惑にあと数日も
耐えられそうにない。
◯◯:クッソ、先が思いやられる。
トリートメントの白っぽい液体でさえ、
もうそれにしか見えない。
…最低だ、俺って。
勿論、小学生みたいな
脅しに負けて連れてきたわけではなくて、
確かに終電間際に1人で
家に返すのも悪いかと反省したわけ。
人付き合いが悪いで有名な
さすがの田村さんも、
これくらいの慈悲と
人の心は持ち合わせていた。
これまで散々
「冷たいヤツだ」と言われてきたが、
和と再会して人として
少しは変われたということか。
…と、
思っていたのだが、
ーーーーーー
…
…
ひかる:こんばんは。
◯◯:帰ってください。
深夜に鳴ったインターホン、
そのお相手はまさかの先輩。
何でこの人は何食わぬ顔で、
人の家の前に居れるのか。
ひかる:とりあえず開けて。
◯◯:"とりあえず"のハードル、高過ぎませんか?
ひかる:いいから。
◯◯:ちなみに俺、既婚者ですけど。
何事かと聞きつけて、
嫁も俺の肩越しにインターホンを覗く。
リビングに居るはずの後輩の声が、
止んでいるのは物凄く気掛かりである。
和:え、また人来たの?
◯◯:うん、
ひかる:早く〜
和:せっかくなので、上がってください。
ひかる:あ、今のお嫁さん?ありがとうございます。
画面が暗くなって、
無表情のお隣さんが反射して見える。
今さっき人を迎え入れたとは、
到底思えない顔である。
◯◯:ホントに、いいの?
和:構いませんよ。ただ◯◯さんの"禁止期間"が、もう1週間増えるだけなので。
◯◯:えぇ…
和:何か文句ありますか?
◯◯:いえ、何も…
今回は和の機嫌取りに、
すごく時間がかかりそう…
メンヘラちゃんのお世話は
ただでさえ難しいというのに、
俺の周りの人間はそれを
理解できないらしい、クソが。
◯◯:そういえば、藤嶌さんは?
和:寝ちゃいました。
◯◯:"落とした"のではなくて?
和:…?
◯◯:あ、違うみたいで良かったです。
…
…
マジで
先輩が来た。
ひかる:はじめまして。◯◯くんの先輩の、森田です。
和:私"が"◯◯さんの"妻"の、和です。
だいぶ分かりやすく
強調したね、あなた。
先輩はと言うと
嫁の御尊顔を拝見したのか、
大きい目を更に大きくして
驚いているご様子である。
ひかる:可愛い。
◯◯:俺の嫁ですから、当たり前です。
和:…
◯◯:ちなみに、どうやってここまで来たんですか…住所教えてないですよね?
ひかる:果歩ちゃんから送られてきたからね、住所と写真。
先輩の突き付けるLINEの画面には
間違いなくウチの住所と、
和と藤嶌さんの2ショットが
ガッツリ貼られていた。
ひかる:お嫁さんの綺麗度が写真上回ってたから、びっくりしちゃった。
◯◯:その前にモラルとか無いんですかね、先輩も後輩も。
和:玄関で立ち話もアレですし、是非リビングへ。
ひかる:ありがとうございます。うわっ、果歩ちゃん寝てんじゃん。
"夫婦"の愛の巣に、
こんなに女が居て良いものなのか。
…姦しいぞこれは。
先輩は後輩の頬を好き放題触ってるし、
嫁は俺の脇腹を弱めに殴ってきている。
◯◯:良かったら風呂使って下さい、どうせこの家で寝るつもりでしょうし。
ひかる:あら、珍しく先輩に優しいじゃん。
◯◯:まぁ、偶には。
サッとこの瞬間に
お茶の用意を完了した和さん、
クッションにちょこんと座っているので
良い香りのする頭をそっと撫でる。
◯◯:ありがと、和。
和:…
まだこの子ツンツンしてる、
そのくせに撫でるのを辞めると
上目遣いで見てくるデレ感。
ひかる:ほんとに仲良しなんだね、君たち。
◯◯:えぇ、まぁ。
ひかる:寝てるこの子が、飼ってる猫みたいに見えてきたよ。
モゴモゴ寝言を言いながら
ソファで爆睡をかます後輩の、
むにむにのほっぺを突きながら
くしゃっとした笑顔を見せる。
◯◯:"猫"は1匹で充分ですよ。
ひかる:え、居るの?
◯◯:どうでしょうね。
ひかる:なにそれ。
今まさに、
撫でている子がその猫です。
ただしそんなことを口走れば
先輩の俺を見る目が180度、
いや、540度変わってしまいかねないので
ここは大自粛。
ーーーーーー
結局、夜は
"拾い猫"は例外として、
川の字にそれぞれが寝て
特に問題もなく過ごせた。
朝になって遂に
気持ち悪さを訴える藤嶌さんを、
先輩がため息をつきながら
強制送還して謎の密会は終了。
今日が休日で、
マジで助かった。
◯◯:和、昨日はゴメンな。
和:楽しかったし、いいよ謝らなくても。
◯◯:それホントに思ってる…?
ソファに座る俺の膝に
頭を乗せて寝そべる嫁、
今日は例の"わがまま王女"みたいに
唇を尖らせながらムスッとしている。
◯◯:機嫌直してよ、頼むよ。
和:今日は私の言うこと聞いて。
その第1弾が、
この膝枕ですか。
こんな可愛いワガママなら
いくらでも聞けるけども。
ちょっかい出したくなって
和の無防備な脇腹をつつくと、
「んぁっ」という艶かしい声のあとに
鋭く睨む視線が返ってきた。
和:何ですか、
◯◯:ちょっとやりたくなっちゃって…
和:…
結構強めに
膝の皿を殴ってきた、
本日はかなり"鉄拳制裁"が
主流なようで見ていて面白い。
和:お菓子食べたい。
◯◯:私めが取ってきて参ります。
和:ん、
◯◯:とはいえ、退いていただけないと動けません。
和:あ、そっか。
このツンデレ猫
慣れてない意地悪をしたいらしいが、
天然ポンコツが邪魔をして
俺を笑わせる天才になっている。
和:何笑ってるの、
◯◯:…可愛いなって。
次は、和の鉄拳が
股間にヒット。
悶絶するほど
強くもないし寧ろ心地良いけど、
とりあえず痛がってあげた方が
この変態猫は喜ぶかな。
…
…
和:先輩さんも後輩さんも、可愛かったね。
◯◯:そうね。
和:…
◯◯:でも俺は、和が1番だよ。
そうかそうか、
それを言って欲しかったのか。
和:そ、そんなこと言っても…許しませんからね。
◯◯:へいへい。
唇を尖らせて
不満そうな顔をしている嫁の頬に、
キスのお裾分けを
カッコつけてしてみた件。
さすがのツンツンさんにも
デレが溢れ出して止まらなくて、
耳まで真っ赤にしながら
俺の隣でモジモジしていらっしゃる。
◯◯:じゃあ、今日はどっか食べに行くか。
和:ん、
◯◯:何食べたい?
和:…パフェ。
「パフェ」
だって。
あざとすぎるだろ、
神様はこの子に
属性を盛りすぎ。
…
…
ちなみに
1週間"禁止"の罰ゲームは、
嫁からの申し出があり
たったの1日で破綻しました。
ーーーーーー
続く。
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