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「すばらしき世界」は理不尽に我慢する国、日本社会を表した傑作

「夢売るふたり」「永い言い訳」など人間の素晴らしき嫌なところと良いところを描くのが最高の西川美和監督の最新作「すばらしき世界」を見に行きました。

今までオリジナル脚本を映像化していた西川美和監督が、佐木隆三の「身分帳」を現代社会に合わせてシナリオ化した作品。

▪️あらすじ
人生の大半を刑務所で過ごした三上正夫(役所広司)が出所し、母を探しながら、独立した普通の生活を暮らそうとする。しかし、社会からはみ出した人間にとって、今の社会は生きづらい世界となっていた。そんな世界でも、親身になってくれる人の温かさを受けながら、懸命に生きようとする物語。


▪️感想
見終わった後、「正しく生きるとは?」という疑問について深く考えさせられた。
今、自分が生きている世界がこんなにも我慢が多く、理不尽に耐えることが求められ、多数派の意見に従わなければ、組織から除外されるような社会であることについて、この映画を見るまでは、ちゃんと理解できていなかったのかもしれない。
それか、もう慣れしてしまって、この生きづらい世界に染まってしまったのか。

主人公の三上は元ヤクザ、元殺人犯、そして出所直後と怖い要素トップ3が揃っている人物であるが、性格は真面目で正義感が強い、ただ人や社会に迷惑かけないずに一般的に普通の生活を送ろうと努力する。しかし、一度社会の枠からはみ出てしまった人に対する社会的な扱いは厳しく、容易に仕事に就くことができず、スーパーに買い物に行けば、万引きする人間と疑われる。
また、三上は正義感が強く、絡まれている人がいれば、力でねじ伏せてしまうのだが、漫画ように、ヒーロー扱いする人や、感謝する人は現実にはいない。
それどころか、危ない・やばい人間と印象付けられて周りから恐れられた。

この映画を見ていると、どこか社会からはみ出た人間にとって、
容易にやり直すことが出来ない、簡単に生きれない世界だと三上を通して、
教えられている気がした。

そして、最も印象深いシーンは、
九州でマス子が三上へ向かって言う言葉。
「あんたはこれが最後のチャンスでしょうが。婆婆は我慢の連続ですよ。我慢のわりにたいして面白うなか。そやけど、空が広いちいいますよ。」
三上はこの言葉を聞いたためか、ようやく仕事に就けた現場で、障害を持つ男性に対して目の前でイジメが発生しても見てみぬフリをする。
職場の人たちが障害を持つ男性に対する暴言を放つも三上は否定することなく、一緒になってばかにしてしまうシーン。

今までの正義感が強く、頭に血が上りやすい三上がついに我慢する。
そのシーンを見ながら「三上怒れ、イジメなど見逃さず正義を見せろ」と思っている自分がいるのだが、怒ることは今この世界では必要はなく、トラブルなく生きるためには、目の前でイジメがあっても見て見ぬ振りをすることが正しいのだと気付かされると同時に、なんて嫌な世界なんだろう思わずにはいられない。

理不尽な出来事を我慢することが、上手く生きるためのコツであれば、
正しく生きるとは一体なんなんだろうと疑問に感じる。
何か100年時代だよって、こんな生き抜くくて100年も生きれるかって。
それでも生きるなら我慢が必須なんだろな、今の日本では。

しかし、こんなにも生きにくいような社会であっても、
支えになってくれる・見捨てない暖かい人間がいるこの世界は素晴らしいなと思った。出所した人間がまた刑務所に戻ってしまう人の多くは、戻るところがない、人とのつながりがない人が多いらしい。人とのつながりって本当に大切だなって思う。

「すばらしき世界」は理不尽に我慢しなければならない生きづらい社会の中でも、応援してくれる・支え合ってくれる暖かい人は存在することを教えてくれた映画だった。

見終わった後に、自分にとって行き着いた正しい生き方とは
「自分にとって大切な人とのつながりを意識する生き方」だと思う。
理不尽な出来事であっても、我慢することで大切な人とのつながりを保つためには我慢することが大切なのかもしれない。


キャスト全員が本当に素晴らしかった。
主役の役所広司の演技はもちろん、スーパーの店員の六角精児、福祉事務所のケースワーカーの北村有起哉の演技が染みる。
三上と会った時は、拒絶するような嫌な顔しているのに、少しずつ親身なっていく人間関係が染みた。
そして、特に元テレビマンの津乃田役の仲野大賀が素晴らしく、心に刺さった。
後半の風呂場のシーンの表情見て思わず、少し泣いてしまった。

ラスト近くの元奥さんに電話するシーンの声とか、表情とか凄い好きだけど、一番好きなシーンは三上が自宅でブチギレてカップ麺をキッチンではなく、リビングにぶちまけるシーン。見ていて「そっちに投げるんかい」って心の中で突っ込んでしまったし、自分も一回やってみたいと思ってしまった。最高のシーンだった。




パンフレットも各キャストや監督のインタビューやシナリオなど充実していて、おすすめだけど、撮影時に書かれたエッセイ「スクリーンが待っている」もかなりオススメです。
スクリーンが待っているは、すばらしき世界の制作前からの話、原作の出逢い、各取材の話、キャストの話、助監督の仕事や、編集の話、撮影の苦悩など様々な舞台裏の話が書かれており、非常に興味深かった。
すばらしき世界を見た人も、見てなくて映画好きな人なら、絶対読むべき本だと思います。

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