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『大翼竜ジゴラスと怪獣博士』 第3話

第0話〜ありますので、そちらを読んでいただくとよりわかりやすいです。

第3話「アジテーション」

勇司と大賀はマウンテンバイクをこぎながら、入道雲を背に不気味にそびえ立つジゴラスタワーを目指していた。
同じ商店街とは言え、2人の家とジゴラスタワーには少しの距離がある

「おれも一緒に自由研究した事になるかな、これ」
大賀はカプリコにかじりつきながら言った。
「そうだね、2人で研究したって事でいいんじゃないかな」

しばらく行くと、3mほどの高さのあるフェンスに突き当たった。
フェンスは長く続いていて、上部には有刺鉄線が巻いてある。
2人は道を曲がって、フェンスに沿って走っていく。

ジゴラスタワーの足下周辺100mほどのところにこのフェンスが張り巡らされている。
出入口は正門と裏門があり、基本的には裏門は封鎖されている。
正門の方には、資料館兼展望室のある「るるいタワー館」があり、観光客を受け入れているのだ。

タワーの足下は放射状に広がっており、「るるいタワー館」の他には、だだっ広い駐車場と研究施設の真四角な建物が建っているだけである。

勇司と大賀は、正門のそばにある駐輪場に自転車を止めた。
正門には大きな鉄柵門があり、その横には「るるいタワー館」の入場用のチケット売り場がある。
数名の外国人が正門前の広場で記念写真を撮っているくらいで、人ばまばらだった。

勇司は改めてジゴラスタワーを見上げた。
本来はまっすぐ上に伸びているはずのタワーがまるでこちらに傾いて見えるほど巨大で、石化したジゴラスは長年の風雨にさらされたとは思えないほどきれいだった。
ジゴラスが取り付いているせいで、下からではほとんど空が見えない。
勇司は、ジゴラスの影に飲み込まれながら、リュックから小型のコンパクトデジタルカメラを取り出してタワーを撮影した。

「1000円持ってきた?」
と大賀が、財布をのぞきながらたずねる。
勇司は軽く頷いて正門へ向かって行った。

チケット買って正門でもぎりのスタッフにそれを渡して入ると、両側がフェンスで囲われた通路を進む。
通路はそのまま「るるいタワー館」につながっている。

「るるいタワー館」はジゴラスが飛来した5年後に設立された。
中は歴史資料館で、るるい町やるるいタワーの歴史やジゴラスが飛来する以前の写真などが展示されている。
また、ジゴラスが飛来した当時の写真や映像なども観ることができる。

大賀は「ジゴラスが飛来する前のるるいタワー」と書かれた写真を見ながら
「見てよ、こんなにタワーの近くまで家があったんだね、昔」
とだけ言うと覗き込む様に写真を見た。
「タワーが壊れた場合に備えて、避難させられたらしいよ。隣の久保田さんが確か昔はこの辺に住んでたって言ってた」
勇司はメモを取りながらそう答えた。

「動くジゴラスを捉えた貴重な一枚」
と言う写真の前で勇司の足が止まる。
その写真は、2階建ての家の窓から撮影された物で、空いっぱいにジゴラス“らしき”生き物が写っている。
”らしき”と言うのは、あまりのボケていてはっきり見えなかったせいだ。

「さっさと行こうぜ。おれは何回か来てるからもう飽きちゃった」
と大賀はエレベーターの前で声をかける。
勇司は、空返事をして大賀の元へ向かった。

「るるいタワー館」の目玉は3階建の屋上がそのまま展望台になっているところだ。
ここが一般人が入れる場所では最もタワーに近く、見晴らしが良い。
また、100円を入れると見れる双眼鏡も設置されており、より近くでタワーを見ることができる。

勇司も物心ついたかつかないかくらいの頃に1度来たことがあることを思い出した。
当時はまだ観光客でごった返していて、双眼鏡を見たくても並ばなくてはならなかった。

現在は人も減って、サビで汚れた双眼鏡が何機か空いていた。
「お、これいいね。100円ある?」
と大賀が聞くと、勇司は
「あるけど、おれが先ね」
と言って双眼鏡に100円を入れた。

双眼鏡でジゴラスタワーを見ると、タワーの鉄骨がかなり汚れているのがわかった。
大きな翼の中から足が伸びて、鉄骨をゆがめて爪が食い込んでいる。
上の方にグッと双眼鏡を向けると、視界はほとんど翼でいっぱいになった。
頭ごと翼で隠してしまっているので、タワーの頂上も見えない。

双眼鏡を下に戻そうとした時、ジゴラスの足の辺りで何かが光って見えた。
もう一度よく見ようとした時に、双眼鏡がグイと引っ張られた。
「もういいでしょ。おれの番」
と言って、大賀が双眼鏡を掴んでいた。
「ちょっと待ってよ、いま何か…」
と勇司はもう一度双眼鏡を覗いてみるが、もう光は見えなくなっていた。

その時、拡声器が起動する時のキーンと言うハウリングの音が聞こえた。
「あーあー…。ジゴラスタワーを解放せよ!ジゴラスタワーを解放せよ!」
と、拡声器を通した大きな声が聞こえてきた。
勇司は大賀と顔を見合わせて、出口に向かって走った。

「タワーを占拠し!秘密裏に研究を進め!市民をだまし、危険に晒している!ジゴラスは超自然的な生物であり!我々人類を滅ぼす存在である!そんな怪物を囲い、守り、兵器にしようとしている!…」

勇司と大賀が正門前に戻ると、人だかりが出来ていた。
2人は回り込んで、人だかりの中心を見定めようとする。
たくさんの人がスマートフォンで写真や動画を撮ったりしている中心には、くすんだベストを着た白髪のじいさんが拡声器を持って叫んでいた。

「いますぐタワーを解放し!即刻ジゴラスを殲滅するべきだ!政府がそれを出来ないのであれば!市民が立ち上がり!全力で戦うべきである!なぜ諸君らは自らを苦しめる生物を重宝するんだ!”アレ”は諸君らの家を焼き、潰し、家族を殺すぞ!なぜそれが分からないんだ!」

大賀はニヤニヤしながらじいさんの声を聞いていた。
「やべえな、あの人。超こええ」
大賀は勇司に同意を求めて視線を送る。
だが勇司は驚きで大賀の声を聞いていなかった。
「あれ、うちのお店の常連のじいさんだよ」

そこにいたのは、いつも細重商店で1人ぼっちで酒の飲んでいたあのじいさんだった。

つづく

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