Aphasia(失語症) オススメの書籍

 失語症を勉強し始めた初学者〜失語症研究のスペシャリスト向けに和書・洋書をご紹介します.ご紹介する本を読むことで,失語症臨床の見方が変わることと思います.

<初学者向け和書> 難易度★☆☆

①脳卒中後のコミュニケーション障害 改訂第2版 成人コミュニケーション障害者のリハビリテーション 竹内愛子著 2012年 協同医書出版

 脳卒中後コミュニケーション障害に関連する失語症・Dysarthria・右半球損傷後コミュニケーション障害などが非常によくまとまっている.初学者がまず全体像を掴むのに最適と思われる.HelmEstablookのVAT(Visual Action Therapy)の9ステップやPACE法の具体例が掲載されているのも治療訓練の具体例を知りたい時に有用である.

②臨床力up!動画と音声で学ぶ失語症の症状とアプローチ 森田秋子著 2017年 三輪書店

 失語症の症状は聴く(聴理解)・話す・読む・書くという言語モダリティの障害の結果生じる.しかし,その症状の出現は個人差が大きく,初学者にとって一見すると同じ症状見える場合がある.その最たるが"音韻性錯語"と"発語失行"ではないだろうか.本書では,実際の患者さんの映像にて各症状に関して,非常に具体的に例の掲載がなされている.初めてこの書籍を手にとった時は,かゆいところに手が届くような,臨床家が悩むポイントが明記されていた.

③言語聴覚士のための失語症学 波多野和夫著 2002年 医歯薬出版

 日本での失語症研究者で知らない人はいない波多野先生が書かれた本書は,養成校時代の教科書であった.一般的な失語症の教科書では定義のみが記載されていることが多いが,波多野先生流の失語症の捉え方が随所に散見される."伝導失語の患者さんは訓練に意欲的な事が多い"など 学生時代に読んだときとSTになってから読むのでは受ける印象も大きくことなる.

波多野先生の著書で是非ご紹介したいのは,重症失語の症状学-ジャルゴンとその周辺-である.1991年発行とやや前になるが,ジャルゴンや再帰性発話という稀有な症状の情報が載っている.そのような症状が掲載されていることも驚きであるが,失語症者の発話録の記述が非常に丁寧であり,その点に感動した.

<中級者和書> 難易度★★☆

どこからを初学者・中級者と定義するかは,非常に曖昧であるが,簡単な目安として,臨床3年目以上を想定している.

④失語症臨床の認知神経心理学的アプローチ 長塚紀子監訳 2015年 協同医書出版

 第43回日本コミュニケーション障害学会に参加した際に,認知神経心理学的アプローチに関するセミナーを受けた際に,購入した.失語症の症状は非常に難解であり,言語症状には脳神経ネットワーク・ドメイン・精神医学・言語学・心理学など複数の要素が関係していると考えられている.しかし,そのような状況でも失語症を解釈するために,STは認知神経心理学的アプローチを基盤にしていることがある.本書では,認知神経心理学的アプローチに関して過去に報告された論文を元に具体的な方法・結果について掲載されている.私自身,この理論は未だに理解できていないものの,治療方法の参考に使用している事が多い.

⑤シリーズ言語臨床事例集第4巻 失語症 竹内愛子編 2002年 学苑社

 中級者となると,典型的な症例だけでなく,教科書にも載っていないような非典型症例を経験することがある.その際に,「教科書通りではないから」と戸惑うのではなく,「失語症は多様性がある」ことを事前に知っておく必要がある.その際に,事例集を見ることが有用である.私も,同じ伝導失語でも,異なる症状に戸惑った事があった.その解決のために.新人の時に読み,多様性に気がつくことができた.


<上級者 和書>難易度★★★

私自身上級者ではないため,このカテゴリーを書くことに非常に抵抗があるものの,意味合いとしては,"1度読み,挫折し,これから挑戦したい"という基準で紹介しようと思う.

⑥ 失語症 治療へのアプローチ 武田克彦監訳 2006年 中外医学社

 本書では,臨床現場での非常にリアルな課題に対して掲載されている.例えば,「異なる治療法の成果の比較」「異なる治療者の成果の比較」などである.1読しただけでは,完全な理解に至らなかった.今後,挑戦したいと思う.Anna Basso先生の著書は,英語版をkindleで読んだことがあるが,研究者であるが,臨床に即した重要な研究課題を提示していることが面白いと感じた.

<洋書>

ここからは,洋書の紹介をしようと思う.2020年〜洋書に挑戦しようと思い,何冊かに挑戦した.同じ失語症を取り扱うため,タイプ分類・症状などの基本的な部分は和書と差異はないものの,治療プログラムの立案・臨床課題への解決法の提案などはより深く考える資料になると思う.

⑦Acquired language disorders: A Case-Based Approach THIRD EDITION  EVELYN R KLEIN 2019年 Plural pub

 まずは,より一般的な失語症の教科書から読もうと思い,本書を購入した.解剖学→検査法→各タイプの症状・症例紹介→治療法が基本的な流れであった.まず,自分が知っている治療法が至極一部であることを痛感した.自分が知っていた名前のついている治療法は精々10個程度であり,それらの方法を様々組み合わせて臨床を行っていた.しかし,数を数えると30個以上も掲載されており,より勉強したいと思わされた.ただ,治療方法も簡単に掲載されているため,より具体的な点を知りたいところは検索する必要がある.


⑧Aphasia Rehabilitation : Clinical Challenges Patrick Coppens 2017年 Jones&Bartlett Learning 

 この本では,Part1にて錯語・反響言語といった症状毎の解釈について掲載されている.Part2は,日常臨床で悩むことの多い治療の般化・治療方法の併用など他書では紹介されていない視点から失語症を解釈している点は興味深いと感じた.治療が日常場面で般化するためにはどうすればよいのか?という永遠に感じられた課題に一石を投じると思われる.




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