バンドワゴン

○サービスエリア・駐車場の車の中(夜)

   電話をしている奏汰。

奏汰「いま海老名もうちょっとかかるかな。

幸介は?そうか、寝ちゃったか・・・うん。

気を付けるよ。じゃあ」

   電話を切って溜息をつく。

   車を降りてトイレに向かう。

   1台のワゴン車が駐車場に入ってくる。

 

○同・トイレ(夜)

   奏汰手を洗っている。

   奏汰、手を拭くためにポケットからハ

ンカチを取り出す。一緒に社員証がポ

ケットから落ちるが、気づかないでト

イレを出ようとする。

   入ってきた金髪の男が社員証に気付い

て拾い上げ。

金髪の男「おにいさん、落とし物」

奏汰「あ。すいません」

   金髪の男は社員証を見つめている。

奏汰「あの・・・?」

金髪の男「(顔を上げて)奏汰?」

奏汰「!・・・正樹」

   驚く二人。

 

○同・ベンチ(夜)

   奏汰、ベンチで煙草を吸っている。

   正樹がやってきて。

正樹「火、貸してくれよ」

   奏汰、ライターを差し出す。

   正樹、受け取り煙草に火をつけてライ

ターを返す。

派手な男たちがトイレから出てきてレ

ストランへ向かいながら。

男1「正樹、先に食ってるぞ」

正樹「ああ」

   しばらくの沈黙。

奏汰「バンド、解散したって聞いたけど」

正樹「ボーカルとドラムに逃げられたんじゃ

続けらんねえよ」

奏汰「・・・」

正樹「仕事帰りか?」

奏汰「ああ。静岡に日帰りで」

正樹「あれから何年になる?」

奏汰「7年」

正樹「幸子、元気か?」

奏汰「うん」

正樹「子供は?」

奏汰「来年小学生になるよ」

正樹「そうか」

   少しの沈黙。

   奏汰が何か言かけたところに。

正樹「正直さ」

奏汰「・・・」

正樹「正直、あの時俺、ホッとしたんだわ」

奏汰「・・・」

正樹「バンド全然売れねえし、幸子はなんや

かんやめんどくせえこと言うし。あの時、

お前と幸子に子供出来たからバンド抜ける

って言われてさ。これで全部ぶっ壊せるっ

て、ホッとしたんだ。全部ぶっ壊れても俺

のせいじゃねえって」

奏汰「・・・うん」

正樹「(レストランを顎で指して)あいつら、

今のバンドの仲間」

奏汰「・・・そうか」

正樹「忘れらんねえよ、ってバンド名なんだ。

 だせえだろ」

奏汰「(ちょっと笑って)そうだな」

正樹「(煙草を消して)だからまあ気にすんな」
奏汰「うん」

   立ち去る正樹を見送る奏汰。

 

○同・奏汰の車の中(夜)

   奏汰、スマホの写真を見ている。

   スマホ画面にはギター構えたを男の子

が映っている。

ウィンドウが叩かれる。開けると正樹

が立っている。

正樹「(缶コーヒーを差し出して)誕生日だろ。

やるよ」

奏汰「サンキュ」

正樹「俺さ、でっかくなるわ。お前と幸子が

『このおじちゃんとバンドやってたんだぜ』

 って子供に自慢できるぐらいには、でっか

くなるわ」

奏汰「うん。」

正樹「それとコレ。俺らのCD」

奏汰「(受け取って)ありがとう」

正樹「じゃあな。幸子大事にしてやって」

奏汰「(笑)わかった」

正樹「武道館のゲスト入れとくよ。3人分」

奏汰「4人な。もうすぐ生まれるんだ」

   正樹、親指を立ててオッケーと。

   正樹が乗り込むとワゴン車が走り出す。

 

○(奏汰の回想)奏汰の部屋・6年前

  奏汰と幸子が俯いて座っている。

奏汰「妊娠したって・・・俺の?」

幸子「(首を横に振る)」

奏汰「じゃあ、正樹の?」

幸子「ごめん、正直わかんない」

奏汰「(頭を抱える)」

幸子「奏汰には迷惑かけないから」

奏汰「・・・結婚、しよう」

幸子「は?」

奏汰「その子は俺の子だ。俺と幸子の子だ。

 だから結婚しよう」

 

○元の車の中

   奏汰、CDを見つめている。

   CDのタイトルは「バンドワゴン」。

   助手席の鞄の中にCDをしまう。

   ダッシュボードから取り出したCDを

   カーステレオにセットする。

   忘れらんねえよの「バンドワゴン」が

   流れる。

 

            終わり


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