脚本:街色

〇動物園・サル山

   人影がまばらな動物園。開園案内のア

ナウンスが流れている。

サル山の前にぼんやり佇む宮崎俊哉(15)。

   餌を持って入ってきた飼育員に群がる

   サル達。小さなサルが大きなサルにい

じめられて、なかなか餌にありつけな

い。

   その様子を見て悲しそうな表情の俊哉。

   俊哉から少し離れたところで、同じよ

うにサル山を眺める山田孝浩(43)。

俊哉に向かって

山田「おまえ、サボりか?」

俊哉「(ちらっと見るが無視)」

山田「シカトかよ。中学生か?」

俊哉「(無視)」

山田「補導員とかじゃねぇよ。俺もサボりだ」

   俊哉、山田を眺める。

   寝癖がついたままの髪、無精ひげ、よ

れた感じのスーツは妙な色合い。 

   胡散臭いものを見る目つきで

俊哉「中学生じゃないよ。おじさん、何?」

山田「サボりだよ。おまえと一緒だ」

俊哉「俺、サボりとか言ってないけど」

山田「(皮肉っぽく)そうか?」

   × × ×

   幼稚園児たちがサル山の前の広場でお

弁当を広げている。

   まだサル山を眺めている俊哉と山田。

山田「腹減ったな。おまえ、どうせ暇なんだ 

 ろ。ちょっとつきあえよ」

俊哉「(無視)」

山田「(苦笑)そこの食堂だよ。ヤバいとこじ

ゃねーよ。おまえも腹減ったろ?」

   園内の食堂を指差す山田。

   俊哉、うなずいて山田についていく。

 

〇同・食堂内

   昭和感漂う店内。店員に向かって。

山田「ビールとおでん。おまえは?奢るぞ」

俊哉「じゃあ・・・ラーメン」

山田「それとラーメン」

   たばこに火をつける山田。

山田「おまえ、こんなとこで何してんの?」

   俊哉、無言。

山田「まあ、いいけどな。興味ねーし」

店員「(無愛想に)ビールです」

   山田、テーブルに置かれたコップに瓶

   ビールを注いで飲む。

   やがておでんとラーメンが運ばれてく

る。

   俊哉、ラーメンを食べながら、

俊哉「おじさんこそ何してんの。仕事は?」

山田「(投げやりに)サボりだよ」

   山田、2本目のたばこに火をつける。

山田「ちょっと相談にのってくれるか?」

俊哉「はあ?おじさん大人でしょ、子供に相

 談って、ダサっ!」

山田「なんだ、子供って自覚あるんじゃねー

 か。何があったか知らねーけど、自覚の無

いガキよりかマシだよ、おまえ」

   俊哉、下を向いてふくれっ面。

   山田、しばらく黙ってタバコを吸う。

山田「相談っても聞いてるだけでいいよ。

 サル相手じゃ独り言だ」

俊哉「俺相手だって、聞いてるだけじゃサル

 と変わんないじゃん」

山田「(苦笑)そうだな。まあ聞いてくれよ」

   山田、ビールを一口飲んで、

山田「俺の姉ちゃんがさ、今日手術なんだ。

乳がんで。午後からってたから今頃手術室

かもな。おっぱい、全部取っちまうんだと」

俊哉「おじさん、行かなくていいの?」

山田「姉ちゃんにはもう十年以上も会って無

いわ。向こうからも連絡無いしな」

俊哉「何で?」

山田「こんなんで会えると思うか?だっせー

 だろ、俺。しょぼくれたおっさんだ」

   山田、コップのビールを飲み干す。

山田「姉ちゃん、昔から優等生で何でもがん

ばってちゃんとやるんだ。それに比べて俺

は何やっても中途半端で、そのくせ姉ちゃ

んに嫉妬して」

   タバコを深く吸って、煙を吐き

山田「結局こんなんだ」

   遠い目をする。が、次第に涙目。

山田「(涙声で)姉ちゃん、いなくなったらど

うしよう・・・」

   ぼろぼろと涙を流して号泣する山田。

   俊哉、山田に何か言おうとするがどう

していいかわからない。

   店員が怪訝な表情で見ている。

俊哉「大人が号泣とか、ダサすぎ」

山田「うるせぇ」

   隠そうともせずに泣き続ける山田。

   俊哉、コップにビールを注いで、山田

   にハンカチを差し出す。

   それを受け取り、泣き続ける山田。

   俊哉、山田を見守る。


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