先延ばしについて。(ADHD薬インチュニブの先延ばし効果も含めて)




今日は、実際に使用して「これは効いた。」(自分の衝動性という特性に)と思ったADHD薬を紹介する。

インチュニブ(一般名:グアンファシン)

ADHDは大きく分けて不注意、多動性、衝動性といった特性がある。
インチュニブは、多動性、衝動性に効果がある。(実際は不注意にも効果が認められている。)

元々高血圧の薬で、昂った交感神経を和らげる。発達性トラウマ障害の患者さんが過覚醒状態で不眠を訴えたため、インチュニブを処方すると、不眠が改善された経験がある。

副作用は70%に出現し、そのうち50%眠気、8%血圧低下。
内服してから眠気が出現するまでの経過は4~12時間と個人差があるため、試しに内服してからどのくらい経って眠気が出てくるのか見て、就寝時間から逆算して内服すれば良い。

では、私の使用した実感を以下に記す。

・時間の見積が上手くなった。
よく東京に行くが、外出の用意〜新大阪に到着するまでを30分と見積り、結果タクシーに乗ってぶっ飛ばしてもらわなければならなくなる。本当は電車に乗っていけたらなんて素晴らしいんだろうと思うが、そうやっていつも失敗するのに、ギリギリでもなんとか出来たという悪い成功体験となり、毎回学習せずにまた30分と見積った結果タクシーに乗るハメになる。ADHDは特に、ギリギリの底力を見せてくるため、それが成功体験となってしまうのだ。
だが、インチュニブを飲んでいた頃は50分と時間に余裕を持って見積もることが出来たため、電車を使っていくことが出来た。

・ゆっくり丁寧な行動ができた。
説明文や本を読む時に、文章を読み飛ばさなくなった。医師国家試験浪人中のADHDの友人にもインチュニブを勧めたところ、いつもは問題文を読んで「これだ」と思ったら選択肢を吟味せず飛びつく癖があったが、よく考えて選択肢を吟味しながら回答出来るようになったと。また、時間の感覚がスローモーションになり、探し物をする際に普段はサーっと探してしまうが、ゆっくりと探せるようになり結果的に見つけるのが早くなったと。

・集中力が持続する時間が伸びた。
携帯を一切見ずに2時間勉強ができた。(これは興味があったからかもしれない)

・先延ばしが改善された。
いつも先延ばしにする郵便受けの確認ができた。引越しした時に届いたベッドを先延ばしせず一人で作れた。(普段の私なら絶対に1年間放置するはず)ADHDは面倒、退屈なことに対する時間の感覚が普通に比べとても長く感じるが、それが正常の時間感覚になったとも言える。

ここで、

先延ばしについて考える。


私も、先延ばししまくりの人間だ。ダブルブッキングと気づいても直前にならないと断りの連絡ができない、研修医2年間で仕上げるべき40件ほどのレポートを研修医卒業直前まで放置し会議に名前が出される、郵便受けを見ないから電気ガス水道が止まる。

先延ばしについて、2つの考え方を説明する。
・モチベーション(やる気)が先延ばしに与える影響
・作業興奮

モチベーション(やる気)が先延ばしに与える影響

これは、なぜ衝動性に効くインチュニブが先延ばしに効果があったのかがわかる。たまたまこの論文を発見した時に、謎が解けた。
衝動性と先延ばしについてhttps://www.jstage.jst.go.jp/article/taaos/7/2/7_179/_pdf

こちらに書いてあるのは、モチベーション(やる気)を式で表し、そのうちのどの成分が先延ばしに影響があったのかということだ。

モチベーション=(期待×価値)/(待ち時間×衝動性)  

期待:自己効力感、自分は出来るという自信の度合い、成功体験の多さ。
価値:課題に対しての興味深さや、楽しさの度合い、達成したら手に入る報酬の価値。
待ち時間:報酬が手に入るまでに要する時間。
衝動性:課題の結果の報酬が手に入るまでの待ち時間の長さに対する感度。待ち時間に対して「長い、嫌だ」と敏感に感じるほど衝動性が高い。


衝動性が高い人は、将来もらえる10万円より今もらえる5万円に価値をおく。これを遅延報酬割引率が高いという。
今から1年後に100万円をもらえるとする。
その人の遅延報酬割引率が20%ならば、その人が今から見たその1年後の100万円の価値は80万円となる。


この、研究は3つの心理特性(待ち時間は’’心理’’特性ではない。)のうち、どの要素が先延ばしに影響するのか調べたものだ。

結果だけ示すと、期待、価値は先延ばしに強く影響を及ぼしていなかったものの、衝動性が大きく影響を与えていた。
衝動性が高いほど、待ち時間に対して「長い、嫌だ」と敏感に感じるため、先延ばししやすい傾向にあるということだ。
衝動性に効果のあるインチュニブが先延ばしを減らす意味が理解できた。

また、当たり前のことを言うが、先延ばしは成果に負の影響を与えていた。よく、先延ばしの相談に対して「完璧主義では?」と聞くと、「完璧にできないので完璧主義ではないです」と答えが返ってくる。それは当たり前だ。完璧主義になればなるほど、「完璧に出来ないかもしれない」という恐怖が衝動的に襲ってくるため、先延ばししてしまう。そして、残りわずかな時間を使って作業に取り掛かるため、中途半端な結果になる。「面倒臭い」の裏側には恐怖が隠れているのだ。

作業興奮

すでに有名な事実であるため既知の人もたくさんいるだろうが、「やる気が出ないから行動できない」ではなく「行動しないからやる気が出ない」のだ。

やる気が出ない状態は、往々にして不安に囚われている。つまり反芻思考の状態。これをデフォルトモードネットワーク(DMN)と言い、ぼんやりと雑念に耽っている時や睡眠中の脳が示す神経活動のパターンのことである。

DMNは例えると、車のエンジンのスイッチは入っているが走っていない、アイドリング状態。人間だと、エネルギーだけ使って何もしていない状態。

反芻思考をしながらベッドに横たわっている時、カロリー消費をしていないと思っているかもしれないが、実は車のアイドリングと同じでかなりカロリーを使っているのだ。そして脳疲労となり、さらに行動が阻害される悪循環となる。

従って、やる気が出るのをどれだけ待っていても出ないものは出ないので、「行動→やる気」という順番に意識をシフトチェンジしなければならない。これを作業興奮という。

面倒だが作業に取り掛かり始めると意外と進んだという経験を何度もしたことがあるだろう。作業をしてるうちに、やる気を出させてくれるドパミンが出て継続できるのだ。

この時、全部やろうとしてはいけない。作業を細かく分ける。皿洗いなら、1枚だけ洗おうと決意する。そうすれば継続して何枚も洗える。筋トレもとりあえず1回だけやろうと決めると10回できるかもしれない。

私も、手帳の診断書を20枚ほどためていたが、1枚だけ頑張って書くと意外と楽しくなり時間まで6枚一気に書けたことがある。

作業興奮:行動→やる気。その際には、完璧にやろうと思わず作業をsmall stepに分けることが大切である。

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