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ヴァイオリニスト・石田泰尚さんの新連載が始まる。


ようやく自分の企画が動き出した。

この出版社に入って丸4か月。振られた仕事はいくつかあって、ショパンの伝記やバロック・ダンスの本、それにリッカルド・ムーティのエッセイや雑誌連載の小説などをまとめることになっている。

でもやっぱり、自分で立てた企画をやりたいではないか。

そう思って結構な有名人に白羽の矢を立ててきた。信奉する作家のM氏もあのヴァイオリニストY氏もいちばんに企画書を送った。だけど、そうは言っても、ねえ。世の中そんなに甘くない。ということで連戦連敗記録を続けていたのだ。

そんな中、僕のちょっと無謀な企画に「いいですよ」と言ってくれたアーティストがいる。

神奈川フィルの首席ソロ・コンサートマスター、石田泰尚さんだ。

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彼はその硬派な風貌から「クラシック界の風雲児」として知られる。オケだけでなくピアソラを追求するピアノ・トリオ「トリオ・リベルタ」や、男だけの弦楽アンサンブル「石田組」を率いる「組長」として活躍し、若い人を中心に絶大な人気を集めている。

僕は横浜の公共ホール時代に、スタッフから彼の噂を散々聞かされていた。
楽屋口から白いジャージ姿の剃り込みを入れたヤンキーがスーッと入ってくる。館長がびっくりして後を追うと、「今日はよろしくお願いいたします」と深々と頭を下げる。「筋の入ったヤンキーだねえ」と館長はいたく感激していた。

残念ながら僕はその実演に立ち会うことはなかったが、きっと彼は出世するだろうなと思った。アーティストは裏方に愛されてなんぼ、なのだから。
加えて、特異なキャラと相反して、彼の音楽性は実に繊細なのだ。まさにギャップ萌え。話題にならないはずがない。

彼の人生論的なメッセージ集はどうだろう。クラシック通だけではなく、幅広い世代の人の胸を打つ真摯なメッセージ。それを「日めくりカレンダー」のように列挙するのだ。もちろん彼の生い立ちや影響を受けた音楽、秘蔵の私物紹介も抜け目なく入れていく。最後に彼が敬愛する長渕剛との対談が実現すれば、これはもう十万部のベストセラーも夢じゃない!

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最初の打ち合わせの日、彼は見たこともない赤い着物のような格好で現れた。決して目を合わせず、机に座るなり隣のコンビニで買ってきたおにぎりとチキンをほおばり、ごくごくとコーラを飲んだ。

僕はドキドキしながら企画書を手渡した。そこには本のタイトルとこちらが勝手に考えた「硬派なメッセージ」が50個近く列挙されていた。

「これ、全部やるの?」
「いや、答えやすいのだけでいいです」
「この『愛について、僕が信じていること』っていうのは……」
「それは絶対聞きたいんですけど」

難色を示したのはそれだけ。あとは二つ返事で「やりましょう」と言ってくれた。まずはウエブ上で連載する。だいたい月2回のペース。取材は月1回。それを5回行う。足らない部分は追加取材をして本としてまとめる。そんなことがすんなり決まった。

その日は30分ほどで終了。彼はひょうひょうと次の仕事場に向かった。最後にきちんと僕に挨拶するのを忘れずに。たぶん、最初は「人見知り」してたんだなと僕は思った。

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ライターさんもカメラマンも昔からの知り合いにお願いした。社内の企画会議も通した。準備万端。それから一か月後の最初の取材の日、彼は饒舌だった。ときおり笑顔を見せながら国立音大生時代のエピソードをいくつも披露してくれた。撮影でもこちらのリクエストにひとつも嫌な顔をしない。徹頭徹尾、プロの仕業だった。

その記念すべき連載が7月5日(月)の19時にアップされる。題して「ヴァイオリニスト・石田泰尚の硬派なメッセージ『音楽家である前に、人間であれ!』」。第1回は「直感で選ぶ。迷わない」。

超絶に長いタイトルだが、皆さん、よかったらチェックしてみてください!

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