圧倒的な包容力②辻村深月『青空と逃げる』
それでは、書評の続きを書いていきます。
本条家の未来を一緒に見届けてください。
佑都と力の乱闘
佑都に言われるがままに大分の高山動物園にやってきた力。
佑都は、力に母・遥山真輝との思い出を語り始めます。
記憶が薄っすらな時に、3人でこの動物園に来たこと。
遥山真輝が母として佑都をしっかりと見守ってくれていたこと。
「お前らにはおかしく見えていたかもしれないけど、あんな人でも母親らしいところはあったんだよ!」と、佑都は反発。
週刊誌がどれだけ騒いでいても、佑都にとってはたった1人の母親で、魅力に溢れた素晴らしい人だったのです。
それでも、力にとって遥山は拳が事故に巻き込まれた原因を作った人です。
感情に身を任せ「お前の母親がちゃんとしてなかったから、父さんは事故に巻き込まれたんだろ!?」と、佑都に気持ちをぶつけます。
そしてその言葉にキレた佑都は力に殴り掛かり、2人の乱闘が始まります。
傷だらけになるまで殴り合った2人はぐったりしますが、佑都は力を元の場所に帰らせ、「罪滅ぼしだから」という一言と共に、仕事帰りの早苗に
「おばさん、あなたの父さんは宮城にいます。仙台のあたり」という一言で姿を消します。
早苗は佑都の登場に激しく動揺しますが、その言葉を信じ力と仙台へ向かいます。
さあ、旅もいよいよ終盤です。
早苗の体調不良と拳の力への助言
力と拳はつながっていた
仙台に着いた直後、早苗は急激な天候の変化で風邪をこじらせます。
付近に病院やホテルはなく母が適切な治療を得られないと悟った力は、大分のお風呂掃除でもらったお小遣いを使って、拳へ電話を掛けます。
拳からのアドバイスは「助けてもらいなさい、ただ走りなさい」。
ただ止まっているだけでは何も動かないし、何も変わりません。
父親らしいシンプルな教えもあり、力は近くにいたボランティア団体の女性に行きつき、早苗は無事に介抱してもらえることになったのでした。
なぜ力と拳がつながっていたのかは、最後に明かします。
そしてその女性が働いていたのが、思い出を残す古びた写真館でした。
七五三や成人式、そして東日本大震災で亡くなった人ともう1度写真を残したいという人々の想いに触れ、早苗は自分たちがいかに小さい悩みであるかを悟り、ついに力と向き合う決心をします。
「力、お父さんがどこにいるのか知っているのね?」と問いかけた早苗。
そして力はうなずき、あの日の真相を語り始めます。
力が語ったあの日の真相
①拳を傷つけたのは佑都
佑都との乱闘で、力は佑都が拳と接触していたのではないかと勘づきます。「もしかして佑都さん、俺の父さんに会った?」その言葉を聞いた佑都は、目を見開くほど驚きますが、「ああ」とうなずきます。
佑都はたった1人の母親を奪われた被害者です。
拳を誰よりも恨んでいても、おかしくはないでしょう。
いくら高校生といっても、未成年なので感情のコントロールは難しいです。
結果、佑都は事故で入院している拳のところに行き、包丁で拳を刺してしまったのです。
佑都の行為は殺人未遂ですが、拳は「君は悪くない。この程度の傷ならすぐ治る。早くここから逃げなさい」と、佑都を逃がします。
②拳は力に自身の電話番号を伝えていた
そして負傷し帰宅した拳とばったり会ったのが、力だったのです。
拳に言われるがままに自分の部屋に包丁を隠した力に、拳は「しばらくお父さんは身を隠す。何かあったらここにかけなさい」と、電話番号を書いた紙を渡すのでした。
これが、夏休みの初日に起こった真相です。
力は、仙台ではなく拳が居る場所を早苗に伝えます。
それは、北海道。
大地とどこまでも広がる大空の下で、物語は最後を迎えます。
再会、そして彼らの未来とは
北海道の新千歳空港で待っていたのは、他でもない拳でした。
拳を見つけるや否や走って向かう力。そして力をしっかりと抱きしめる拳。早苗も拳へ「いろいろごめんなさい。でも、またがんばりましょう」と投げかけ、拳も「そうだな。また再スタートだ」と、決意を新たにします。
高知の四万十川から始まった親子の旅は、ようやく完結したのでした。
ほんとうに遠回りしたりハプニングだらけの日々でしたが、彼ら3人ならきっとこれからも手を取り合って歩いていけると、最後は圧倒的な安心感に包まれていました。
本人版では具体的に状況を知れるので、ぜひ原作を読んでみて下さいね!
最後までお読みいただき、ありがとうございました。