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「名作を生むのは魅力的な敵役」全露No1映画「T-34 レジェンド・オブ・ウォー」感想。


主人公と敵に共に魅力のあると名作になるのを示す作品でした。

全露No1になるのもわかるロシア的に満足度の高い映画ですし、一部では「実写版ガルパン」などと呼ばれてるような戦車戦が人気な映画なのですが、私としては敵役のドイツ人大佐のイェーガーのキャラがとにかく良かったです。

ネタバレかなりあります。

イェーガーのキャラがよい

敵役のドイツ将校のイェーガーがとにかくいいキャラになってるところですよ!

まず造形が、(冒頭の戦車戦で負ったと思われる)顔の傷がSSの重ね稲妻を連想させる、壮健でイケメンなドイツ人大佐。
戦車戦のときは自分の戦車のフロントに鉤十字のでかい旗を広げてて、俺はナチスを体現している!!!ってのを全面に出しているところとか、敵役としての魅力に溢れてるなと思いました。

そもそもこの映画は、イェーガーの存在が無いと絶対成り立たないですもんね。

イェーガーには、主人公のロシア人士官のイヴシュキン(共に戦車乗り)に苦しめられた記憶がずっと残っていて、顔の傷を見るたびに思い出してたんじゃないか、という感じもします。

特に戦いの場に身をおいている人間なら、将として有能な人間を支配して好きなように動かす、ということに快感を覚えないのは無いと思うんですよね。
しかも、一度は自分が負けたと思ったほどに有能な相手で。

イェーガーは、イヴシュキンが捕虜になってただボコられてるだけになってるときに、強い憤りを感じてると思うんですよね。
自分が認めた人間がなんでこんなに落ちぶれてんだよ感。自分自身が落ちぶれたような気持ちになると思うんですよね。


イェーガーのデレも良い

イェーガー、イヴシュキンに固執するあまり歪んだ愛、欲望を持ってる感じなんですよね。
イヴシュキンを自室に招き入れたとこの流れとか良いです。

イヴシュキンが圧倒的に不利な作戦を、人質をとることで強引に承諾させた後、自室に招き入れて、ルールを説明しながら、高そうな酒を振る舞う。
しかもファーストネームがニコライとクラウスで、どちらも聖ニコラウスが由来で同じじゃん!というところでキャッキャしてるところとか。バツが悪くなって取り繕うところとか。

このくだりを見たとき、三国志のエピソードである、関羽が劉備を守るために曹操の配下になる、という話を連想しました。
関羽を支配下においた曹操がめちゃくちゃ浮かれてプレゼントしまくるようなところも同じだと思いました。

(とはいえイヴシュキンが地図に執着してて脱走する気があるのを見抜いたところなど能力の高さも演出されている)


イェーガーはイヴシュキンを殺す気があったのか

最後まで殺す気はなかったんだろうし、うまく口実を作って重用したかったんだろうなと思います。
(このキャラクター造形ならたぶんそう)

圧倒的な不利な作戦だけど、彼の能力なら砲弾を与えてなくても乗り越えるんじゃないかと期待しているところすらありますし、仮に脱走してなかったとしても、なんらかしらの理由をつけて戦車乗りとしての仕事につかせてたのでは、という感じもします。

何度もとどめを刺せそうなシーンはあるのにやらない。

最後の包囲なんて大佐自ら出ていく必要もないんだけど出てしまう。
最後の一騎打ちなんて、勝利を考えれば絶対にいらないんだけどイェーガーには断らない。
なんなら勝手に盛り上がって、中世の決闘のように手袋を叩きつけることもやってしまう。戦車乗りとしての血が騒いだのか浮かれすぎ。

一騎打ちも相手を行動不能にするみたいな、イヴシュキンを惜しむ消極的な作戦じゃなくて確実に止めを刺すやり方にしとけばよかったのにそれはできない。最終的に手元に置きたい欲望があるから。

この愛が最終的にラストシーンの生死を生む作りになっているのもいいですね。
最後にライバルとして握手を交わした後に落ちていくところもベタですが良かったです。


最後までイェーガーのイヴシュキンへの愛が感じられる作りでした。


イェーガーの造形がしっかりしてたので、それを超えて最終的にイヴシュキン達が生き残ったとしてもそこまで違和感のない、大逆転のカタルシスを味わえる話になってたと思います。


(いや、でも最終的に全員五体満足で生き残りました!はちょっとやり過ぎではと思うところはあります…ヴォルチョク、おまえはなんでなんだ、不死身すぎる…)

その他感想

あたりまえながら戦車戦シーンはめちゃくちゃ良い

射撃時にはあたりまえのようにスローモーションになるのがいいし、金属同士のぶつかる音も重いし、戦車の狭い視界で探り合いながらやってる様とか、筋被弾すると毎回乗組員が轟音と振動でスタンするしで、泥臭さ満点なのがよかったです。
砲身回すときにハンドルを回したり、弾の装填が人力だったりと、筋肉で制御する戦車は、中世の甲冑を着て殴り合ってるのと大差がないんだなってことがよく描かれてると思いました。

最後の一騎打ちシーンも、作り手の抑えきれない欲求を感じてよかったです。(一騎打ちも一応は納得の行く流れですし)

1つのシーンで2つ以上の事を伝えようとするなど全体的に脚本がしっかりしてる

いよいよ脱獄するぞ!というとき、絶対に必要になる地図を得るため、一緒に脱獄するロシア人通訳女性のアーニャが、イェーガーの部屋に地図を盗みに入るんですが、お約束のようにそのタイミングでイェーガーの部下が忘れ物を取りに部屋にやってくるわけです。
アーニャはとっさにベッドに入ってイェーガーと関係があったように装ってやり過ごし、そこで部下は「マジかよ…」みたいなリアクションして何も見なかったかのように出ていくわけです。
これがうまいなと思いました。
見つかるかどうかのドキドキを演出して、最終的に地図を盗むことに成功して主人公サイドが脱走の成功感を出してるし、部下の反応でイェーガーのロシア人に対する普段の考えや態度と違う、、ということで間接的にイェーガーの人物像を表していたりと、多くのことが伝えられてました。
他にもこういうシーンが多くて楽しめました。


収容所から脱獄がハイライトではない

大抵の脱獄モノは、脱獄するのがハイライトでその後は描かれないですが、脱獄はあくまでも最終的な脱走成功に向けての布石でしかなかったのは予想外でした。
そのおかげでイェーガーとイヴシュキンの因縁にしっかり決着がつくので良かったです。

イコンがでるのはロシア的

あと、脱走中の町で物資を得る際にイコンを持ってきていて、神に祈るときに使うのは正教会らしくてロシアを感じました。



最後に

ロシア人の中にはWW2でドイツ人を押し返したことへのプライドが根強くあるんだなってのを強く感じました。
こういう根っこの部分に訴えられる物語で、話の強度も高いとなるとそりゃ全露No1になると思います。


感想書いてたらもう一回見たくなってきましたw
(一緒にいった奥さんはすげー疲れてたので、まあ男性向けかな…とは思います)

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